8月の主題
<ALLの概念>
急性リンパ性白血病(Acute Lymphoblastic
Leukemia:ALL)は、リンパ芽球およびその前駆幼若細胞が腫瘍クローン化
し主に骨髄で増殖する悪性増殖性疾患である。
その病態は、骨髄中で腫瘍細胞が増殖し、正常造血の抑制、すなわち赤芽球系細胞の減少による貧血、顆粒球減少に
よる感染症および腫瘍細胞増殖による発熱、また血小板減少による出血を伴うことが多い。(成熟したリンパ球様異常
細胞が増加していれば慢性リンパ性白血病かその類縁疾患である。又、腫瘍細胞の増殖巣がリンパ節や脾臓などのリン
パ組織を原発として腫瘤形成性に増殖することを特徴とするのが悪性リンパ腫で、その病変部位の組織構築を中心とし
た病理学的所見により診断される。
小児急性白血病の80〜85%、成人白血病では約20%を占めている。ALLの芽球はミエロペルオキシダーゼ(MPO)染色が
陰性であるが、ALLでも正常の骨髄芽球が残存している可能性があるため、ALLの診断基準 と定められている。
<ALLの分類>
白血病の分類については、1976年に発表されたFAB分類があり、いくつかの問題点はあるものの、急性白血病の形態分類
の基準として世界的に広く受け入れられてきた。しかし、急性リンパ性白血病(ALL)については、現在では表面抗原や
免疫グロブリンなどの検索が確立し、細胞の由来と成熟段階の同定が可能となってFAB分類の不十分さが判明し、1986年
に表面マーカーなどを取り入れたMIC分類が提唱され、1999年には形態学、免疫学的表現型、遺伝子特性、臨床的症候の
組み合わせに従って疾患が定義された新WHO分類が発表されるに至っている。
形態学的な分類としてのFAB分類の基本は、芽球のミエロペルオキシダーゼ(MPO)染色、ズダンブラック(SBB)染色
の陽性率が3%以上の場合を骨髄性白血病、3%未満の場合をリンパ芽球性か、急性骨髄性白血病(AML)のM0,M7,M5aとす
る。さらにリンパ芽球性は、細胞形態に基づいてL1,L2,L3の3型に分類(表1)される。
L3は臨床的に予後不良で、また特殊な細胞形態(バーキットリンパ腫型)を示すことで別扱いされる。本邦では稀でALL
に占める頻度は5%以下である。L1、L2については、1:N/C比 2:核小体 3:核形不整 4:大型細胞の比率によるscoring
system(表2)が取り入れられた。この算定法は客観性を持たせたもので、L1に判定されたほうが予後が良いとされる
。
表1 ALLの形態的分類
|
細胞形態 |
L1 |
L2 |
L3 |
|
大きさ |
小型細胞主体 |
大型で不均一 |
大型で均一 |
|
核クロマチン |
均一 |
不均一 |
細顆粒状、均一 |
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核の形態 |
整 稀に切れ込みあり |
不整 切れ込み湾入が多い |
整 類円形ないし円形 |
|
核小体 |
なし 又は小さく目立たない |
1以上 大きいことが多い |
1以上で目立つ、 小胞性 |
|
細胞質の量(N/C比) |
乏しい(大) |
不定、やや多い(小) |
やや多い |
|
細胞質の好塩基性 |
軽度ないし中等度 |
多彩、一部で強度 |
濃染 |
|
細胞質の空砲 |
時に |
時に |
著明 |
表2 L1とL2の鑑別のためのスコアリングシステム
|
基 準 |
スコア |
|
高N/C比≧75%の細胞 |
+1 |
|
低N/C比≧25%の細胞 |
−1 |
|
核小体:0~1(小形)≧25%の細胞 |
+1 |
|
核小体:1以上(顕著)≧25%の細胞 |
−1 |
|
核膜の不規則性≧25%の細胞 |
−1 |
|
大型細胞50%の細胞 |
−1 |
| 以下は判定しない(スコア0)
1)中間型や不明瞭なもの 2)75%の芽球に核変形を認めないもの 3)大型細胞が50%未満のもの 判定:スコアの合計が 0〜+2:L1 −4〜−1:L2 |
|
細胞科学的には、リンパ芽球はPAS染色の陽性態度、(細、粗大顆粒状、塊状)が決め手になり、T細胞性ではACP染
色が限局的陽性に染まることがポイントとなる。
ALLは、表面マーカーの解析による芽球の起源の証明が重要な所見となる。MIC分類では、芽球における抗体別により
B細胞性とT細胞性に分けられ、抗体の発現順よりB細胞性は1:early
B-precursor-ALL 2:common ALL 3:pre B-ALL
4:B-cell ALLに、T細胞性は1:early T-precursor-ALL 2:T-cell ALLに細分類されているが(表3)、ALLでは少なくと
も30%に分類 困難な症例が存在する。
小児ALLで、1:発症年齢が3〜5歳 2:白血球数が正常 3:L1タイプ 4:common ALL(CD10陽性 ) 5:PAS陽性
(粗大、塊状)の条件をそなえたものは完治の経過をたどる可能性が高いと言われている。
表3 B/T細胞性ALLのMIC・FAB分類
|
ALLの種類 |
表面マーカー |
核型異常 |
FAB分類 |
|
B細胞性ALL |
|||
|
early B-precursor-ALL |
TdT,Ia,CD19 |
t (4;11)/t (9;22) |
L1、L2 |
|
common ALL |
TdT,Ia,CD19,CD10 |
6q-,near haploid t or del (12q)/t (9;22) |
L1、L2 |
|
pre B-ALL |
TdT,Ia,CD19,CD10,cyIg |
t (1;19)/t (9;22) |
L1 |
|
B-Cell ALL |
Ia,CD19,smIg |
t (8;14)/t (2;8) t (8;22)/6q- |
L3 |
|
T細胞性ALL |
|||
|
early T-precursor-ALL |
TdT,CD7 |
t or del (9q) |
L1、L2 |
|
T-Cell ALL |
TdT,CD7,CD2 |
t (11;14)/6q |
L1、L2 |
新WHO分類でのALLは、precursor
B-cell acute lymphoblastic leukemia、precursor T-cell acute lymphoblastic leukemiaおよび
Burkitt cell leukemiaに分類される。lymphoblastic leukemia とlymphoblastic lymphomaおよびBurkitt cell leukemia、Burkitt
lymphomaはそれぞれ同じ生物学的性質と考えられており、骨髄と末梢血で増殖している場合にleukemia、腫瘤形成して
いる場合に lymphomaする。この区別は人為的なものであり、lymphomaでは骨髄での芽球比率が25%以下とされている。
遺伝子異常は重要な予後因子として扱われ、ALLのサブタイプとしてBCR/ABLが関与するt(9;22)(q34;q11)、MLLが関
与する11q23転座型染色体異常、E2A/PBX1が関与するt(12;21)(q23;q13)、ETV/CBF-alphaが関与するt(12;21)(q12;
q22)を設けている。これらは必須条件ではないものの染色体異常の検索も組み込むことで予後を含めた病態の特性を把
握することができ、従来の方法より一般臨床の実態に適した分類法であると言える。(表4)
表4 遺伝子異常に基づく亜分類
|
ALL亜型 |
関連遺伝子 |
頻度(%) |
Event free Survival |
||
|
小児 |
成人 |
小児 |
成人 |
||
|
B-ALL t(9;22)(q34;q11) |
BCR/ABL |
3〜4 |
20〜30 |
20〜40 |
<10 |
|
B-ALL t(v;11q23) |
MLL rearranged |
2〜6 |
3〜10 |
10〜35 |
10〜20 |
|
B-ALL t(12;21)(p13;q22) |
TEL/AML1 |
16〜29 |
2 |
85〜90 |
|
|
B-ALL t(1;19)(q23;q13) |
PBX/E2A |
5〜6 |
3 |
70〜80 |
20〜40 |
|
B-ALL hypodiploidy |
1〜5 |
2〜8 |
25〜40 |
10 |
|
|
B-ALL hyperdiploidy>50 |
20〜25 |
4〜9 |
80〜90 |
30〜50 |
|
|
BL t(8;v) |
MYC |
2 |
4 |
75〜85 |
50〜55 |
|
T-ALL |
65〜75 |
50 |
|||
|
T-ALL 14q11 |
TCRα/δ |
4 |
6 |
||
|
T-ALL 7q35 |
TCRβ |
3 |
2 |
||
|
T-ALL 7q35 |
TCRβ |
3 |
2 |
<細胞表面マーカー>
血球は分化し、成熟する過程で、それぞれの分化段階に応じた細胞表面抗原が出現する。腫瘍化したリンパ球は、腫瘍
化する前のリンパ球の表面抗原を維持していることが多くリンパ系腫瘍の診断においては細胞表面マーカーの検査は
必須である。
Bリンパ球は、B前駆細胞からpre-pre-B、pre-B、未熟B細胞を経て成熟リンパ球となる。B細胞型ALLはそれぞれの段階
の細胞が白血化したとされ、白血病を示すマーカーからearly
B-precursor-ALL、common ALL、pre B-ALL、B-cell ALLに
分類される。B細胞ALLでは、特にCD19、CD20、細胞表面免疫グロブリン(sIg)、細胞質免疫グロブリン(cIg)、
Ia/HLA-DRの検査が重要である。(図1)
一方、Tリンパ球はpre-T細胞、未熟T細胞を経て成熟し、helper/induser T細胞、あるいはsuppressor/cytotoxic T細胞となって機能
を発揮する。白血病細胞のもつ細胞マーカーによりpre-T ALL、T-cell ALLに分けられる。T細胞ALLではCD2、CD3、CD7などがマ
ーカーとして用いられる。CD7は分化段階のT系細胞を検出するのでB細胞ALLとの鑑別に有用であるが、約20%のAML細胞でも陽性
であるので注意が必要である。
<染色体異常と遺伝子変異>
1.染色体数の異常
過二倍染色体(染色体数50以上、又はDNA indexが1.16以上)は、B前駆細胞 ALLが多く、初診時白血球数や血清LDHも
低く、治療反応性は良く予後良好である。アポトーシスが惹起されやすいといわれている。
T-ALLにはみられない。4番、10番、17番染色体のトリソミーは予後良好と報告されている。
一方、染色体数が45以下の症例は稀で、多くはB前駆細胞 ALLであるが、25%程度にT-ALLが認められる。
初診時白血 球数が多く、FAB分類のL2の形態を示し予後不良である。
2.染色体転座
転座型染色体異常の遺伝子解析から、近年多くの発癌に関与する遺伝子が分離されている。
白血病も多段階発癌説が有力である。
1. t(9;22)(q34;q11)(Ph染色体)
年齢が高くなるにしたがって頻度が高くなり、成人では約30%に認められる。寛解持続期間が短く、予後は絶対的に
不良である。骨髄系抗原を有する症例が多い。
2. 11q23異常
t(4;11)を代表として多くの変異が認められる。1歳以下の乳児に多く(60%以上)、CD10陰性、CD15陽性の表面形質
を示す。白血球数の著しい増加や中枢神経系浸潤を呈し予後不良である。
3. 19p13異常
t(1;19)とt(17;19)がある。CIgM陽性、SmIg陰性のpre-B ALLの形質を示すことが多い。
初診時の白血球数が多く、従 来の治療法では予後不良であったが強力な治療法の導入により予後が改善してきている
4. t(12;21)(p13;q22)
小児ではhyperdiploidyに次いで多い染色体異常で予後良好である。成人での予後は不明。