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自動血球装置の赤血球スキャッタグラムから見た血液疾患
国立大学病院機構 九州大学病院
検査部 須田 正洋
はじめに
ADVIAシリーズには全血球系グラフとしてヒストグラム23種類、サイトグラム9種類が
描出可能であり、今回は赤血球系グラフの中で、RBC S c a t t e r サイトグラム、R E T I C
Scatterサイトグラム、RBCvolumeヒストグラム、RBCHCヒストグラム、RETICvolume
いて解説を行う。
これらのグラフを組み合わせて用いることにより貧血をはじめとする赤血球系疾患の診
断、および経過観察が可能である。一個一個の赤血球の大きさとヘモグロビン量を測定しグ
ラフ上に位置付けたものであるこれらのグラフは赤血球の全ポピュレーションの存在を表
してくれる。白血球は正常5分類を各々のクラスターに分けて分類を行うが、赤血球は一種
類の細胞集団を一塊として観ることになるが、実際赤血球は成熟赤血球、網赤血球、破砕赤血
球等の小型赤血球、寒冷凝集、輸血赤血球等、大きさとヘモグロビン量の組み合わせのいろい
ろな集団がいろいろなポピュレーションを形成する。これを塗抹標本上で見分けることは豊
富な経験と観察眼が要求される。しかし、経験を積むことによりこのグラフを用いた赤血球
系の解析が容易となる。これらのグラフを用いた貧血の診断はすなわち、赤血球恒数を用い
た貧血の形態学的診断とイコールの関係であり、塗抹標本を観ずともグラフから赤血球形態
異常を読み取れることが、迅速性が望まれる臨床検査の現場に必要なものであろう。
1.赤血球系グラフの見方
赤血球系グラフに関する見方は日常の流れからいうと先ずグラフを見て異常所見がない
かチェックをし、あればどんな異常か予測を立て実際の塗抹標本で確認をするという手順で
行う。グラフは全赤血球の所見を表しており、通常我々が行う塗抹標本の鏡検では赤血球の
一部を観察するに過ぎず特に全体像としての見方をする赤血球形態観察においてはグラフ
による全体像の把握は重要な作業となる。もちろん、白血球像、血小板像も同時に観察を行う
ことは当然の作業である。
先ず、第一に正常像を理解することが重要である。図1−①に示すように、RBC volume
ヒストグラム、RBC HCヒストグラムの正常像で大切なことはグラフがコンパクトでスリ
ム、左右対称であり、左右の両端に高まりがないことである。また、RBC Scatterサイトグラ
ムも赤血球恒数の中心となる値のMCV90fl、MCH30.0pg、MCHC33.3%を基準とした、通常、
一個のポピュレーションから成る。赤血球恒数は正球性正色素性を示す。
正常を基本にして以下の手順でRBC volumeヒストグラム、RBC HCヒストグラムのチ
ェックを行う。
1)中央の軸がどこに位置しているか(小球性、正球性、大球性、低色素性、正色素性、高色素性)
2)コンパクトであるか、左右対称であるか、左右の拡りがあるか(大小不同症、血色素量不同)
3)左側(小球性、低色素性)に非対称性に拡りまたは、高まりがあるか(破砕赤血球、無効
造血性奇形赤血球、microspherocyte、未熟網赤血球etc.)
4)右側(大球性、高色素性)に非対称性に拡りまたは、高まりがあるか(未熟網赤血球、巨
赤血球、thinmacrocyte、球状赤血球etc.)
5)左右両端に断崖像(表示限界、測定限界)があるか(30fl以下の小型赤血球、巨赤血球etc.)
6)ポピュレーションは一つか(二相性:鉄芽球性貧血、輸血赤血球etc.
スクリーニングとしてヒストグラムより上記6点を確認する。異常のあるものに関してはサイトグラムの詳細な解析を行う。サイトグラムの長所はポピュレーションの解析に優れていることである。ヒストグラムは一方向のみの情報しか得られないからポピュレーションの存
在を確認しがたい欠点があるが、サイトグラムは一目で全体像が確認でき、異常なポピュレーションを認識しやすい。
| ①正常像 |
②腎癌例(48才♀) |
③不明癌(71才♂) |
③ |
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| 図1 正常像、網赤血球増加像. |
2.網赤血球像
網赤血球は骨髄から末梢血中に補給される成熟赤血球の一段階前の若い赤血球であり、赤血球産生の有効造血の指標となっている。通常、補給される成熟網赤血球は成熟赤血球よりも少し容積が大きく、RBC
volumeヒストグラムでは右端(大球側)に位置するが量的にも少数でありグラフ上小さな集団として認められる。図1−②は鉄欠乏性貧血例で鉄剤投与後にみられた網赤血球増加であるが小球性低色素性赤血球のポピュレーションの大球側に舌状の突起を形成している。また図1—③は不明癌でみられた未熟網赤血球増加を示す。未熟網赤血球は脱核直後の網赤血球でMCVは120fl以上の大球性で低色素性を呈することが多い。骨髄中で未熟網赤血球は脱核して2−3日後にMCV91.2flの成熟網赤血球となり末梢血に出される。未熟網赤血球の末梢血出現は赤血球産生の亢進を意味し、特に溶血性貧血や貧血治療薬(鉄剤など)に奏効した場合に認めることが多く、大球性成分としてMCVを上昇させる要素である点に注意が肝要である。
3.小球性像
小球性像を呈するものとしての小球性低色素性貧血には鉄欠乏性貧血、鉄芽球性貧血、サラセミアなどがありこれ らを鑑別する上で赤血球系グラフが有効である。
①鉄欠乏性貧血例
(38才♀) |
②鉄芽球性貧血例
(28才♀) |
③遺伝性球状赤血球例
(9才♀) |
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| 図2. 小球性像 |
鉄欠乏性貧血は図2−①に示すように、正常像をそのまま小球側、低色素側に偏移させた像で正常像と同
様にコンパクトかつ左右対称である。サイトグラム上も最も左隅に位置する。鉄欠乏性貧血ではこの基本像
に加え、網赤血球増加像(図1−②)、輸血赤血球像(図6−①)、無効造血性奇形赤血球像(図5−①)などのパターンがみられる。
鉄芽球性貧血は図2−②に示すように小球性低色素性赤血球と正球性正色素性赤血球の
二つのポピュレーションを形成する。鉄欠乏性貧血同様に細片状の無効造血性奇形赤血球像を伴うことが多く、本例では小球側、低色素側で著明な断崖像が認められる。
サラセミアは細片状の無効造血性奇形赤血球像を伴う小球性低色素性赤血球をベースと
して、これに溶血性貧血としての性格を持つために網赤血球増加像も認められることが多い。
図5−②はβ-サラセミア例であるが、正球性低色素性領域に網赤血球増加があり、小球側
に断崖像を認める。
遺伝性球状赤血球症の診断は末梢血中の小型球状赤血球存在で形態
学的診断がなされることが多い。本例のようにmicrospherocyteの出現が多い場合は塗抹
標本上でも診断は容易であるが、出現が少ない場合には診断に苦慮することが多い。しかし、
少ない場合でもRBC HCヒストグラムを用いると容易に高色素性赤血球(球状赤血球)の存
在を推定することが可能である。
4.大球性像
大球性像には大球性貧血(大球性正色素性貧血、大球性低色素性貧血)と未熟網赤血球増加
などがある。大球性正色素性貧血には巨赤芽球性貧血、MDS、再生不良性貧血などがあり、大
球性低色素性貧血には肝硬変に代表される慢性肝障害などがある。
①MDS例
(50才♀) |
②肝硬変症例
(15才♂) |
③網赤血球増加例
(53才♀) |
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| 図3. 大球性像 |
巨赤芽球性貧血、MDSでは大球性貧血をベースとしているが、鉄欠乏性貧血同様に細片状
の無効造血性奇形赤血球の混在により図3−①に示すように著明な大小不同症が認められ
る。大球性赤血球集団の左端から連続した正球性〜小球性赤血球の集団には巨赤血球〜大赤
血球の崩壊による細片状の屑様の奇形赤血球が含まれると考えられる。このように、大球性
貧血で無効造血性奇形赤血球を認めたら、巨赤芽球性貧血やMDSの診断に重要な形態学的
所見のひとつとして重要視することが肝要である。巨赤芽球性貧血、MDSではMCVが120fl
を超えることが多い点も、他の大球性貧血との鑑別点となる。
再生不良性貧血も大球性正色素性貧血を呈するが、有効造血の低下のために、形態学的に
①鉄欠乏性貧血例 は正常形態を呈し、奇形赤血球の出現もない。このことが、形態学的異常の強い
巨赤芽球性貧血、MDSとの鑑別点となる。
肝硬変等の慢性肝障害では脂質代謝異常のためにthin macrocyte、大球性標的赤血球、有棘赤血球、有口赤血球等の赤血球形態異常を認めることが多い。脂質二重層の拡張のために表面積/容積が増大した結果の所見である。図3−②の胆汁性肝硬変症例に示すように大球性でありながら、表面積が拡がるためにヘモグロビンが希釈される結果、低色素性を呈してくる。MCVは120flを超えることもあるが、低色素性を呈することが巨赤芽球性貧血、MDSとの鑑別点となる。
未熟網赤血球の増加は大球性の集団を形成する大きな要素のひとつである。図3−③に示すようにメインの正球性のポピュレーションに連続して大球性の網赤血球の集団を認める。
5.破砕赤血球像
赤血球形態異常の中で最も緊急性のあるものとして破砕赤血球がある。
①BMT後TTT例
(73才♂) |
②DIC例
(55才♀) |
③人工弁置換例
(77才♀) |
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| 図4. 破砕赤血球像 |
1990年旧厚生省特定疾特発性造血障害調査研究班溶血性貧血分科会の赤血球破砕症候群の診断基
準(試案)は破砕赤血球0.6%以上であり、その他の奇形赤血球の陽性基準3%以上と比較してかなり厳し
い基準となっている。したがって、破砕赤血球に関してはその存在を的確に検出する必要性がある。スクリーニング的にはRBCu56322 . volumeヒストグラムの小球側の裾の高まりや断崖像に注意をし、RBCu56322
.Scatterサイトグラムで30fl以下の小赤血球の尾長像を認めたら、必ず塗抹標本で確認をする。
破砕赤血球の出現は大きく大血管性と細血管障害性に分かれ、前者には人工弁置換など、
後者には血栓性微小血管障害(TMA:thromboticu56322 .microangiopathy)として血栓性血小板減
少性紫斑病(TTP、溶血性尿毒症症候群(HUS)、播種性血管内凝固(DIC)などが含まれる。これらに共通した赤血球像としては細血管障害性溶血性貧血の特徴を示すことから、破砕赤血球の出現に加え、網赤血球増加を認めることが多い。したがって、図4に呈示した症例は①BMT後のTTP例、②DIC例、③人工弁置換例の三症例であるが、程度の差こそはあれ、基本集団に加え網赤血球増加(青色ドット)と小赤血球領域の尾長像(緑丸印および→)が認められる。
6.表示限界(測定限界)像
どの自動血球計数分類装置にも表示限界(測定限界)があり、当然のことながら表示限界を超えたも
のはヒストグラム上断崖像として捉えられる。
①上行結腸癌例
(45才♂) |
②β-サラセミア例
(7才♂) |
③AML例
(45才♀) |
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| 図5. 表示限界(細片状奇形赤血球) |
RBCS c a t t e r サイトグラム、RETIC Scatterサイトグラムでは30fl以下の赤血球については測定枠外に分布が認められる。表示限界像が認められた場合は小赤血球がどんな赤血球
なのか塗抹標本上で確認しなければならない。因みに、小赤血球には小型円盤状も含め、破砕赤血球、
無効造血性奇形赤血球、microspherocyteなどがあり、これらの鑑別が必要となる。
図5−①は上行結腸癌による鉄欠乏性貧血例であるがRBC volumeヒストグラム、RBCHCヒストグラム共に断崖像(→)を呈している。30fl以下の小赤血球とHg
0g/dlのラインの左側(緑の楕円)に位置するドットは低色素性の小赤血球または大型血小板なのか鑑別が必要であるが、経験的に無効造血性奇形赤血球を含めた小球性低色素性赤血球と考えられる。
図5−②はβ-サラセミア例であるが、RBC volumeヒストグラムの断崖像から30fl以下
の小赤血球の存在と網赤血球の増加がうかがえることからこの場合は赤血球破砕症候群な
のかサラセミアなのか、サイトグラム上鑑別が必要となる。塗抹標本の観察から細片状の奇
形赤血球、標的赤血球、多染性赤血球(網赤血球)の混在からβ-サラセミアが考えられた症
例である。
図5−③はMDS様形態異常を伴ったAML例で30fl以下の小赤血球とHg 0g/dlのライン
に沿って左側に分布するドット(大型血小板〜巨大血小板?)がみられる。これらはRBC
volumeヒストグラムとRBC HCヒストグラムの両方で小球側と低色素側に表示限界(→)
を形成している。緑の楕円領域は通常、大型血小板、巨大血小板、白血球を示すことが多いが、
塗抹標本の観察によると、大型の血小板を少数を認めたが、ドットの数ほどの出現は確認で
きなかった。しかし、本症例は有核赤血球が白血球大のものから裸核状で小赤血球大のもの
まで43.560/μl出現しており、これが問題のドットと推定される。
7.多相性像
ポピュレーションとは同一の形質を有する赤血球の集団と考えられる。
①鉄欠乏性貧血輸血例
(55才♂) |
②寒冷凝集例
(55才♂) |
③子宮筋腫例
(47才♀) |
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| 図6.多相性像 |
RBCvolumeヒストグラム、RBC HCヒストグラムでは一方向のみの情報であるために重なり合ってい
る場合や明瞭な差がない限りはポピュレーションを明確に分けることは困難である。一方、R B C
Scatterサイトグラムでは赤血球容積とヘモグロビン濃度の二次元マップとなるためにポピュレーションの存在を捉えやすくなる。
図6−①は輸血を受けた食道癌による鉄欠乏性貧血例を示している。本例では、患者の小
球性低色素性赤血球集団(緑の円)と輸血血球の正球性正色素性赤血球集団(黄の円)の二つ
のポピュレーションから成るのがヒストグラム、スキャッタグラムから共に読み取ることが
できる。
図6−②は寒冷凝集のみられた症例で、RBC volumeヒストグラムとRBC Scatterサイ
トグラムからMCV90fl 付近の正球性正色素性赤血球の集団(緑の円)からかけ離れて
MCV180fl付近に小集団(黄の円)を形成しているのがわかる。凝集塊が測定限界を超える場
合は表示は不可能である。通常は血液検体のざらつきを観察することにより、寒冷凝集の確
認が可能であるが、最終的には塗抹標本による確認が確実である。
図6−③は子宮筋腫による鉄欠乏性貧血で鉄剤が奏効して回復してきた例で、小球性低色
素性赤血球の集団(緑の円)、大球性低色素性の未熟網赤血球の集団(白の円)、回復してきた
正球性正色素性赤血球の集団(黄の円)の三つから成るのが見て取れる。
おわりに
正常像を含め18例のグラフを解説したが、標本観察同様に、正常像を数多く観ることが異常像を理解する上で重要である。異常なドットが観られたら必ず塗抹標本上のどの赤血球が該当するのか照合することが必須である。この訓練の繰り返しが重要である。
塗抹標本で赤血球像を真剣に観察している技師が如何ほどいるだろうか?得てして赤血球の上っ面だけを眺めて赤血球形態を済ませている技師が多いのではないだろうか?グラフの情報があれば個々の赤血球が観えてくる。グラフ上、二つの集団があれば標本上にも二つの赤血球集団が観えてくる。二つの集団を捉えやすくなる。だから訓練してください。みなさん、疾患ごとにサイトグラムパターンがあり、そのパターンをみればどんな赤血球異常なのか、どんな貧血なのか推定ができるようになることを切望してやまない。
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