「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第10回更新分

 アリスはリュウエに連れられて通路を歩いていた。
「さっきの話が真実だとすると、お前は今の世界よりも発達した技術を持っているって事だよな?」
「うん、多分……」
 リュウエの問いに、アリスは曖昧な返事をした。
 連盟の技術は、現在確認されている世界全てを把握した上で存在している。となれば、連盟で再現不可能な技術は理論上、存在しない。ただ、アリス自身は放り込まれた世界を知らない。確認されていない世界だとすると、連盟よりも発達している可能性もゼロではない。
「じゃあ、ちょっと頼みたい事があるんだけど、いいか?」
「いいよ。する事もないし」
 リュウエの言葉に、アリスは即答していた。
 特にしたい事があるわけでもなく、連盟に戻るためにしなければならない事も今は思い付かない。暇を紛らわすには丁度良いと思った。
「あ、でも無闇に出歩くなって言われてたんだ」
「それぐらい大丈夫だろ。どの道技術供与とかもするんだろうし、着替えて目立たなくすれば問題ないと思うぜ?」
「そ、そうかな?」
「まぁ、賓客扱いらしいし」
 適当な返答をするリュウエに、アリスは苦笑を浮かべる。
 深く考えているのか、そうでないのか良く分からない。アリスがこの世界の人間ではない、などと鋭い発言をしたかと思えば、今のように曖昧な事を言う。
 どこか、他の人間とは雰囲気が違うような気もしてくる。
「ねぇ、ニュータイプって言葉、この世界にはあるの?」
 ふと思い浮かんだ事を、アリスは口に出した。
「ニュータイプ? 新型って事か?」
「う〜ん、特定の人を指す言葉なんだけど」
「人?」
「そう、勘が良かったり、先読みが鋭かったりっていう感じの……」
 顎に手を当て、アリスは適当な形容を探す。連盟と繋がっている世界全てを含めて一般的な概念ではあるが、その形容は難しい。正確に理解している人は恐らくいないだろう。
「ESP判定ってのなら、俺も持ってるぞ」
「あ、そうなんだ?」
 聞きたい事の答えが先に言われてしまい、アリスは少し拍子抜けした。
「それで少し聞きたい事があるんだよ」
「じゃあ、先に着替えるね」
 部屋の前に辿り着き、アリスはリュウエに言った。
「あ、こっちの服に着替えた方が、この中も動き易いと思うぜ」
「え? う、うん……」
 渡された服を見て、アリスは戸惑った。
 リュウエが差し出したのは、司令という人から渡された正装とは違い、整備員用の服装だった。
「ちょっと、格納庫まで来てもらうからさ」
 不思議そうな顔をするアリスに、リュウエが説明の言葉をかける。
「あ、なるほど」
 納得したアリスはドアを開けて中に入った。
「覗かないでね」
 入り口に立ったままのリュウエに反応しているらしく、ドアが閉まらない。それを見てアリスが意地悪そうに言うと、リュウエは特にリアクションも取らず、ドアの上の探知機を見て身を退いた。
 リアクションがない事を少し残念に思いつつも、アリスはさっさと着替える事にした。
「リュウエはニュータイプかぁ」
 少しだけ彼について納得する。
 鋭い発言も、今のように整備員の服を用意していたのも、彼がニュータイプだからなのだろう。ESP、とこの世界では呼ぶらしいが、基本的に意味は変わらないはずだ。
 やや大きめの整備員の服を着込み、帽子を被る。ピンクの髪は目立つらしいので、出来る限り帽子の中に押し込む事にする。
「おっし、行くぞ」
 部屋を出てきたアリスを見て、リュウエが言った。
 連れられて入った格納庫ではいくつものモビルスーツが整備されていた。薄い緑色のカラーリングが施された、ゴーグル状のカメラを持つ量産機と、リュウエが乗っていた青い機体がある。
「こっちだ。俺の機体を見てもらいたいんだ」
 小声でリュウエがアリスを呼んだ。
 周囲の整備員に気付かれないように、リュウエはアリスを青い機体の下へと連れて行く。
「おぅ、リュウエじゃねぇか。珍しいな?」
「さっきの戦闘で気になる事があったから調べに来たんだよ。聞いてるだろ、エラー」
「ああ、あれか。ここじゃお前しか反応しないシステムだからな、確かにお前じゃないと調整も無理そうだな」
 リュウエに気付いた整備員との会話を聞きながら、アリスは素知らぬ顔で歩いて行く。リュウエの後を、不自然に見えぬようにゆっくりと。
 コクピットを開けたリュウエはアリスを素早く中へ招き入れると、自分も乗り込んでハッチを閉めた。
「このヴィングにはメンタルサーキットってシステムが積まれてるんだけど、それがどうも良く分からないんだ」
「メンタルサーキット?」
 リュウエはコクピットのシステムを立ち上げながら説明した。
 機体の名称がヴィングである事、メンタルサーキットと呼ばれる最新鋭のデバイスが搭載された試作機である事、適性が無いと扱えない事、リュウエのみが適性を持っていた事、それら全てを彼が知る限りで語った。
「ええと、つまりはこのデバイスが何でエラーを起こしたのか分からないから調べてくれって事だよね?」
「まぁ、そういう事だ」
 アリスの要約にリュウエは曖昧な表情を返した。
「う〜ん、私あんまり頭良くないからなぁ……。こういうのはリンのが得意だと思うんだけど」
 呟きつつ、アリスはリュウエに代わってコクピットに座る。
「マジかよ……大丈夫なのか?」
 心配そうなリュウエを他所に、アリスはコンソールモニターを見ながら操作を始めた。
 メンタルサーキットの起動プロセスを眺め、そのデバイスが稼動した際に機体の性能がどれほど上昇するのかを確認する。先程の戦闘のデータが最新値らしく、アリスはそのデータを引き出した。
「……早ぇな、操作」
「え、そう?」
 ぽつりと呟いたリュウエに、アリスは驚いて振り返った。
「あ、おい! 余所見するな! 変なとこいじられたら困るんだぞ!」
「うわ、ごめん!」
 リュウエの焦った表情に、アリスが慌てる。その拍子に、アリスはエンターキーを押していた。
「あ……」
 焦るアリスを他所に、メンタルサーキットが起動する。
『チェック…………。メンタルサーキット稼動可能。適性者と認定』
「何!? 嘘だろ……!?」
 身を乗り出し、リュウエが驚愕に声を上げる。
「え、私……?」
 アリスが首を左右に動かし、コクピット内部を見回す。メンタルサーキットはコクピットフレーム周囲に設けられ、シートに座る人物を焦点に作用するらしい。つまり、メンタルサーキットの適性チェックは、アリスに対して行われたものだ。
『現行パイロットとの比較値を閲覧しますか?』
「イエスだ、見せろ」
 アリスが何か言うよりも早く、リュウエがキーを押した。現行パイロットと設定されているのはリュウエらしい。
 リュウエに対する適性値は、およそ八十パーセントだ。それに引き換え、アリスへのデバイスの適性値は、二百パーセント近くある。適性チェックの際に行われた大まかなパイロット能力の値も、リュウエよりもアリスの方が勝っている。一部、リュウエに劣っている数値もあるが、ほとんどの数値でアリスが上回っていた。
「はぁー……」
 感心して目を丸くするアリスに対して、リュウエは絶句していた。
「お前、ホントに人間か?」
「え、人間だよ?」
 リュウエの言葉に、アリスは首を傾げる。
「こんなにパイロット適性の高い奴、見た事ねぇぞ……」
「そうなの?」
「俺だって、ここじゃあエースって呼ばれてるんだ。ヴィングに乗る前からな」
 真剣な表情でリュウエが言う。
 リュウエのパイロット適性値は、多少偏りがあるものの、この世界ではトップクラスのものらしい。それを上回るという事は、アリスの腕前がこの世界では凄まじいまでに高いという事になる。
「う〜ん、訓練してた成果なのかなぁ……?」
 実感の無いアリスには、疑問の交じった苦笑を浮かべる事しかできないのだが。
 それだけの腕が無ければ連盟の管理者は務まらないという事かもしれないと、勝手に納得しておく。
『パイロットに設定しますか?』
「ノーだ」
 問答無用でリュウエがキーを押した。流石にこの機体が自分のものだというプライドはあるらしい。
「それで、何か分かるか?」
 強引に頭を切り替え、リュウエが問う。
 もう少し待って、とだけ答え、アリスはシステムの解析を始めた。アリスにしてみれば慣れない手つきで、という形容になるのだが、リュウエからすれば逆なようだ。感心した様子で操作を眺めている。
「うん、大体分かった」
「本当か!?」
「ちょっと長くなるけど、いい?」
「ああ」
 リュウエに確認を取り、アリスは口を開いた。
「このメンタルサーキットってデバイスだけど、私達の世界ではこういうのをサイコミュって呼ぶの。サイコミュニケーターの略なんだけど、簡単に言うと、パイロットの生体反応とかを機体の操作に反映させるシステムなの。例えば、パイロットの思考とかを読み取って、機体の操作を自動で行ったりとかするの。多分、これの場合は、それだと思う。機体の操作が普通のものよりやり易く、しかも柔軟性が高い動きができると思うんだけど、あってる?」
「あ、ああ……」
 アリスの言葉に、リュウエが呆気に取られたように頷く。
「どしたの?」
「お前、馬鹿じゃなかったんだな……」
「え、馬鹿だと思ってたの?」
「思ってた」
「あっ、それ酷ーい!」
 頬を膨らませるアリスに、リュウエが苦笑した。
「悪かったって。で、エラーの原因は、分かるのか?」
 表情を戻し、リュウエがアリスに問う。
 どうやらシステム面ではアリスの方が上だと理解したらしい。リュウエは今まで以上に真剣な表情でアリスを見ている。
「このデバイス、不完全みたい。安定してないって言った方がいいのかな? ほら、さっきの適性値、あなただと八十パーセントぐらいだったでしょ? 百パーセントに届いてないのが原因だと思うの」
 適性値が低ければ、それだけシステムの稼動効率が落ちる。安定していないが故に、パイロットのテンションによってはシステムの稼働率が基準を満たせず、停止してしまうのかもしれない。アリスはそう説明した。
「確かに、一瞬弱気になったかも……」
 顎に手を当て、リュウエが思い返すように頷く。
「うん、多分、それ。こういうシステムはデリケートだから、影響を受け易いんだよ」
「確かに、腹が立った時はリアクションがあったな」
 納得したようにリュウエが言う。
「ねぇ、他の機体のデータってある?」
「量産機のデータであれば、味方機だから入力されてるはずだけど」
「待って、検索してみる」
 リュウエの言葉を聞いて、アリスはコンソールを操作する。
 呼び出した機体のデータは、緑色のカラーリングの施された機体のものだった。量産機の性能データとヴィングの性能データを比較し、アリスは首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「うん、ちょっと変だなーって」
「変?」
 リュウエが眉根を寄せる。
「ほら、ちょっと見て。ヴィングって、スペックが他のに比べて倍近いでしょ?」
「それが?」
「おかしいのよ。こんなに性能が高い機体が作れるなら、量産機の性能だってもっと高くできるはずでしょ?」
「確かに……!」
「それに、メンタルサーキットの性能誤差を入れると、ヴィングの性能はもっと高くなるの」
 リュウエが息を呑む。アリスの言いたい事が理解できたらしい。
「ヴィングに使われてる技術って、この世界には存在しないのかも……」
「オーバーテクノロジー……!」
 アリスの言葉に、リュウエが呟いた。
 二人は顔を見合わせる。リュウエはどこか焦ったような表情をし、アリスはそんなリュウエをただ見つめている。
「待てよ、確かこの機体は司令が手配したものだって言ってたな。もし、これがオーバーテクノロジーだとしたら……」
 リュウエが呟き、考えを整理していく。
 既に、リュウエはアリスを本当に別の世界から人間なのだと信じているようだった。パイロット適性や、システムの操作、知識などから、この世界とはかけ離れた存在だと理解したらしい。
 今までの会話を要約するリュウエが辿り着く結論は、アリスの結論と同じだろう。
「司令は、他の世界と繋がっているかもしれない」
 思い返せば、アリスの話を真に受けた事も不審な点に感じられる。
 普通の人間なら、他の世界から来た、などという話を信じたりはしない。笑い飛ばして頭がおかしいと言うか、ふざけていると思うかどちらかだろう。リュウエも、ミュナの証言が無ければ納得しなかった。加えて、司令はアリスが違う雰囲気を持っているとも言った。普通ならば、追い出してしまう方が面倒が少ないだろうに、それをせずに迎え入れたのも変な話だ。
「技術供与の話を先に出したってのも引っ掛かるな。ただ、他の世界から来た、って言っただけなのに。まるで最初から分かっていたような……」
 深刻な表情を見せるリュウエの考えを聞きながら、アリスは更にコンソールを操作し続ける。
 量産型に用いられている技術と、ヴィングに使われている技術。似通い、発展したかのように見えるが、確かな差異がある。メンタルサーキットだ。それだけが、明らかにオーバーテクノロジーになっている。
「知っていたなら、アリスを送り返す方法も考え付いたはず……。それをしないとなると……」
 アリスに説明しているのか、それとも口に出す事で整理し易くしているのか、リュウエは呟き続けていた。
「厭な感じだな」
「まとまった?」
「一応、な」
 アリスの言葉に、リュウエは頷いた。
「多分、司令の目的はお前の世界の技術だと思う。メンタルサーキットやヴィングを持ち込んだ奴とも繋がりがあるかもしれない」
 敵だと断定しないのは、アリスを即座に殺そうとしなかったからだ。アリスが邪魔なら、抹殺するか拘束するか、もしくはそれに近い事をするはずだ。それをしない所からするに、司令はアリスの敵ではない。だが、味方でもない。
「お前の敵と繋がりがある可能性もある。少し様子を見た方がいいかもな」
「おー。思ってたより頭いいじゃん」
「失礼だな、お前」
「お互い様だよ」
 言って、笑うアリスに、リュウエも苦笑した。
「でも、いいの? 下手すると反逆者だよ?」
「別に。とりあえず俺とミュナが生きてさえいければ、戦争の結果なんてどうでもいいからな、俺は」
 リュウエの本心なのだろう。アリスに協力するのかどうかは別にして、リュウエにとっては自分と妹が最優先なのだ。恐らくは妹が一番なのだろうが、ミュナが生きていくためには、まだリュウエが必要だ。だからこそ、自分と妹、なのだろう。
「ま、今日の事は貸しにしとくからな。その分はちゃんと返してやるよ」
 システムチェックの事だろう。リュウエにとって知らない事を、多く得る事ができたのだろうから。
「期待してるね」
 笑みを見せるリュウエに、アリスも微笑んだ。

 *

 少女が三人と、男が一人、視界に入る。
 少女のうち、一人は片腕を失って気絶し、一人はその少女に寄り添って涙を流している。最後の一人は気絶し、男に抱えられていた。
「お前は、何だ……?」
 男の方がこちらに気付いた。
 少女を肩に担ぎ上げ、片手でナイフを構える。素早く、無駄の無い動きだ。並の人間には太刀打ちできないだろう。
「同じ問いを返そうか」
 答えなどとうに知っているが、問う。
「断絶者」
 ――やはり、動き出していたか。
 視線を男から外し、背後を見やる。後方にある、男の乗っていた『概念』が全てを物語っている。
「お前は、敵か?」
 察しが良い。
 素直にそう感じたが、『選定された者』ならば当然だとも思う。
「時間が惜しい。排除させてもらう」
 男が少女をその場に放り出し、駆け出した。
 それを見て、鋭く目を細める。
 男が突き出すナイフを、右に身体の軸をずらしてかわす。そこへ繰り出される蹴りを右腕で弾き、引き戻されたナイフを左に動いてかわした。左拳が突き出された瞬間、姿勢を低くしてかわすと同時に懐へ飛び込む。
 ナイフが横薙ぎに振るわれるが、その手首を掴むようにして抑え込んだ。
「ちっ」
 舌打ちしつつ蹴りを放つ断絶者を突き飛ばし、攻撃範囲から逃れる。
 睨むような視線を向ける男を、ただ無表情に見返した。殺気が込められてはいるが、様子を見ているといった風にも感じられる。隙も少ない。
 ここで彼を仕留めるべきか、逡巡する。
 その隙に、断絶者が駆け出した。反応が遅れ、断絶者が脇を駆け抜ける。そのまま彼は『概念』に乗り込み、飛び去って行った。
「逃がしたか……」
 小さく溜め息をつき、残された少女に歩み寄る。連れ去られる事を阻止できだけでも良しとしよう。
 恐らく、彼もそう時間を置かずに再度攻撃してくるはずだ。今の断絶者の目標は『リン』を連れ去る事のはずだ。だとすれば、こちらが動く暇を与えるとは思えない。体勢を整えて、リンを奪いに来ると考えて間違いない。彼女がまだ戦える状況にない事を考えれば、状況が変わるまでは『ウル』での護衛も考慮しなければならないだろう。
 一人、片腕を失くした少女の傍で泣きじゃくる少女の傍らに歩み寄った。歩み寄った事にも気付かないほどに、心配しているらしい。
「安心しろ、死なせはしない」
「……え――?」
 その言葉でようやくこちらに気付いた少女が、涙も拭かずに振り返る。
「傷の手当てもしてやる。まずは落ち着け」
「あなたは……」
「エータだ。そう呼んでくれ」
 それだけ告げると隻腕となった少女の肩に左手を触れた。
 気絶した旧友を見て、微かに目を細める。彼女が飛ばされた事は知っていたが、まさか『選定された者』に遭遇してしまうとは思っていなかった。
「スキュル……」
 彼女に触れた左手には、グレーのグローブが付けられていた。手首の上に銀色の結晶球が埋め込まれた、グローブを。

 *

「あー、あー、聞こえてるかい? 司令さん」
 軽い調子で言葉を投げてみる。多分、繋がっているはずだ。
「誰だ、お前は?」
 返事が返ってきた事に、一度頷く。
「フォーメーションだかなんだか知らないけど、止めといた方がいいぜ」
「何だと?」
「被害が増えるから」
「お前も、敵か?」
「うんにゃ、どっちかっつーと味方」
「何?」
 司令官の言葉に、笑みを浮かべる。
「目には目を、って知ってるだろ?」
 言いながら、『概念』を進ませる。
 戦闘をしているただ中に『概念』を割り込ませる。
 飛び交う攻撃をかわしながらハリネズミな概念、『ナースホルン』の前に飛び出した。
「よぉ、敵!」
 気さくに話しかけてみる。対話は大事なものだ。
「あなたは何者ですか? 邪魔をしないで下さる?」
「エプシロンって呼んでくれると嬉しいね。ファイブちゃん」
「このワタクシを挑発してるんですか?」
「だって、名前呼び辛いじゃん、君」
「頭に来ました。あなたから先に殺ります」
「酷ぇなぁ」
 笑う。まぁ、そうくるだろうとは予測していたわけだが。
「今は殺す気ないんだよね。とりあえずお引き取り願うよ」
「やれるものならやってみなさい!」
 放たれる無数の攻撃に唇を舐める。
「さぁ、やろうぜ、エオロー!」
 自身の操る『概念』の愛称を呼び、その真価を発揮させる。
 機体の各部から周囲に『片鱗』が飛び散る。機体から放たれた『片鱗』同士がエネルギーを放出し、互いを結び付けていく。強大なエネルギーの壁がその場に生じ、放たれた攻撃の全てを受け止めた。
「何ですって……!?」
「これで分かったかい? 君の概念じゃあ、俺を倒すのは至難の業だよ」
 同じ『概念』同士でも、エプシロンの持つ『概念』は変わっている。
「あ、言っておくけどさっきの核もどきも通さないぜ」
「その防御方法、動けないんでなくて?」
「おう、良いところに気がついたな。流石はファイブちゃん」
「……その呼び方、止めて下さらないかしら?」
 押し殺した声でトゥイレッティが言う。
「因みに動けはしないけど防御範囲は拡大できるから回り込んでも無駄だぜ?」
 彼女の言葉を無視して、言葉を投げる。
 エオローの盾は強固だ。攻撃行動が一切出来ない代わりに、防御に関しては完璧と言えるだろう。
「さて、そろそろ退いてくれないかな?」
「その理由がありませんわ」
「どうだかねぇ〜? 壁を乗り越えるには、一歩下がって壁の高さを測るのが賢さってもんだ」
 随分と猪突猛進な少女だと半ば感心してしまう。
 きっとハンドルが無いに違いない。曲がれない車なのだ。かわいそうに。
「このままずっと防御しっ放しじゃ俺も会話し辛いし」
 背後に視線を投げ、言う。
 司令とゆっくり話すためには彼女には退いて貰わなければならない。
「いちいち腹の立つ事ばかり言う男ですわね」
「まぁ、このまま圧殺ってのも有りだけど」
 エオローをゆっくりと全身させる。
 攻撃行動は一切できないが、移動が不可能というわけではない。かなり移動速度は遅くなってしまうが、それでも機動力はゼロではない。ゆっくりとバリアを前進させていけば、ナースホルンを押し潰す事も不可能ではない。
「あんまりツンツンしていると彼氏できないぞ」
「〜〜ッ!」
 とりあえずトゥイレッティが激怒した事だけは分かった。
「不愉快です。一度出直してきます」
「おう、そうしろ。次はもう少しまともに相手してやるからな。ファイブちゃん」
「きぃー!」
 はっはっは、と笑いながら、去っていくナースホルンを見送る。
 ナースホルンが完全に撤退したのを見送って、エオローのバリアフィールドを解除。『片鱗』を戻し、機体各部に固定する。
 そのまま向き直り大多数のモビルスーツを視界に入れた。皆、呆気に取られたようにこちらを見ているのだろう。
「さてと、そんなわけだ。司令さん、感謝してくれよ。あのまま戦ってたら確実に全滅してたぜ」
「何が目的だ?」
「俺はただ単に、ここを守護する役割を当てられただけ」
「その機体は?」
「まぁ、『概念』と似たようなもんだな」
「不明な点が多過ぎる。分かるように説明してくれると有り難い」
「んー、まぁ、俺が話せる限りで言うとだな。さっきの奴等の親玉を叩こうって話だ。つっても簡単な話じゃなくてな、ほら、『概念』とか持ってるし、とりあえず凄ぇ厄介なわけよ」
 適当な言葉を探しながら、説明を始める。
「君はさっき、役割を当てられたと言ったが、それは仲間がいるという事か?」
「お、鋭いね。その通り」
 仲間はいる。『概念』に対抗し得る『概念』を持った仲間が。
「まぁ、最終的に鍵になるのは俺達じゃないからさ。利害の一致って奴? とりあえず手を組もうぜ、って事よ」
「信用してもいいのか、判断できんな」
「あ、撃ったら容赦しないぞ。守れとは言われているけど、厳密に中の人間まで守れとは言われてないし」
 どの道、完全な味方とは言えないのだから、仕方のない部分もある。
「君は、いや、君達は……」
「そうだなぁ『アンチナンバーズ』とでも名乗っとこうかな」
 我ながら格好良い名前だ。他の仲間も気に入ってくれるだろう。
 顔の見えない通信相手に対して、エプシロンは歯を見せて笑っていた。