「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第16回更新分
光の導く方へ。
フェリオとアグゼを乗せたCヴィックはその先で先と同じ宇宙空間へとたどり着く。しかし先の世界と明らかに違うのは、あの世界に行く前に見たキセアアンテナの無数の輪がそこに存在していること。彼女たちは結局双六で言う『振り出しに戻った』状態にある。アグゼの指したリングには残念ながらキセアはいなかった。いた形跡はアロアとの会話によって『ある』と確信はしているが、どこに飛んだのかというところまではわからずじまいだった。
「嫌われてるからな・・・」
何人もの候補を蹴落としてきたフェリオにとって、来るべくして来たこの仕打ちとでも言うべきか。誰もが連盟を統べる者になりたかった。そのために生まれてきたのだ。しかしその願いが叶わなかった者はそれぞれの世界でそれぞれの生き方をしている。むしろフェリオにとっては羨ましくもある、そういう生き方。今のように嫌われていると思ってしまえば『大げさだ』と言われるし、はたまた気にしない素振りを見せれば『無神経だ』と口にされる、なんとも厄介で難しい境遇にある。
フェリオのそういう空気を察したのだろうか、アグゼは手に持ったチョコレートを半分、パキッと軽快な音を立てて割り、銀色の包装紙が無い方をフェリオに差しだし、にこりと笑ってみせる。フェリオもハッとして無理やりに笑顔を作って見せるが所詮故意に作ったものであり、アグゼもフェリオに『そんな顔』をされ、どうすればいいのか困ってしまう。
(人一倍こういうのに敏感だから・・・)
黙ってフェリオはそのチョコレートを受け取ると全て口の中に押し込んで、パキパキと噛み砕く。このまま立場から来る問題も、くだらない私情も、そして先の世界で出会ったアンチナンバーズの1人、いやナンバーズになれなかったロストナンバーの1人であるサイライ・ゼカリアとナンバーズの問題も。すべて砕けてしまえばいい。
そんな簡単に事が済んでしまえばこんなに楽なことはないのに、しかし彼女は今の立場にいるから全てを知ってしまったし、それを知りたくなくとも知る運命にあったと。
口の中で溶けるチョコレートがCヴィックの中に常置してあるものと銘柄が違うため、甘味も風味も全く違う。あのまま問題も砕けて消えてなくなればいいと思ったが、あの場所に行ったことは確かだし、銘柄の違うチョコレートを手にしたのも確かなこと。
簡単に問題が噛み砕けるほど、甘い話ではない・・・
「ぷふっ!」
いきなり噴出すフェリオにアグゼが今度は驚いた表情へと変える。目頭を押さえ、首を左右に振りながらフェリオは口元を吊り上げて笑いをこらえている。
「ごめんごめん。我ながら下手な駄洒落だったなってね」
チョコレートを口にしながら『甘い話ではない』と、思った自分が真っ先に笑ってしまうというなんとも悲しい話だが、こんなことで笑えるならまだまだやれる。セロハンテープでぐるぐる巻きにされた眼鏡をケースにしまいこみ、それをジャケットのポケットにスッと入れるとアグゼにチョコレートのお礼として頬にそっとキスをする。くすぐったそうにするアグゼだったが、しかしそれは嫌ではない様子で彼もまたフェリオの頬にキスをする。
サイライ・ゼカリアやアロアーという老人を含め5人存在するロストナンバーは自分たちの力を借りたい。そしてゼロという存在に騙されているナンバーズたちを助けたい。彼女たちはそう願い出たが、あまりにも情報が少なすぎる。勿論彼女たちがナンバーズを助けたいと思うその経緯は理解できたが、やはりわからないのはそのゼロという存在。それがわからなければ残念ながら彼女は手を出したくはないと思っていた。それに自分たちの当面の目的はキセアを探すことであり、その目的が達成できない限りは・・・という節もある。
難しい問題ではある。しかし果たしてフェリオ自身はナンバーズという存在に出会い、そして被害を受けたのか、というと実際は受けてはいないし、そう考えてしまうとロストナンバーたちの話は狂言とも捉えられてしまう。
刻一刻と時間だけは過ぎる。
そういえばゼカリアたちがいる『GUNDAM in MARS』の世界の時間はここより何倍も何十倍も早く流れるんだったっけ。
考えている時間が延びれば延びるほど、彼女たちは早い時の流れで自分たちを待っているのかもしれない・・・。
「はぁ・・・」
能天気なアリスやいつも冷静なリンと違って、双方の意見を尊重したいフェリオにとって、どちらかを優先するということが非常に難題になる。キセアを探す旅をこのまま続ければいいのに、あんな人間たちに出会ってしまい優先順位をつけられなくなってしまうという悪い癖だ。成すべきことはもう決まっているのに、それが頭から離れてくれない。
ふぅと一呼吸置いて、ひとまずアグゼにはもう一度この無数の輪の中から行き先を再度決めてもらうことにする。あの場所にキセアはいなかったが、いた形跡はあったということは行き違いになってしまったとはいえアグゼはキセアを確実に追っているのである。もっと親近感の沸く言葉で言えばリンクしているとか、繋がっているとか。
今はキセアを探そう、と決意した瞬間。
「もう一回いい?」
アグゼも先の出来事をに遭遇したことでだんだんとフェリオの意図していることがわかってきたのだろうか、フェリオからそう言われる前から輪を凝視していた。そして彼はまた別の輪を指差してにっこりと笑う。
自分たち反政府組織の司令と他の世界とが繋がっているかもしれない・・・。それはアリスとリュウエ、2人の考えが一致し、導き出された結論である。他の世界から来たというアリスを毛嫌いせずにこの部隊に受け入れたのはアリスたちがいる世界に存在する高い技術力を我が物にしたいからだろうと。
しかしわからない点もいくつかある。オーバーテクノロジーとされる、ヴィングに搭載されるメンタルサーキットというシステム。それを手配したのは確かに司令だったが、付近にMS開発を行っている施設が存在しないため、最低でも遠く離れた場所に存在する国、ノヴァ・ソリマ国からの輸送が最低限の戦力確保条件となる。空路にしろ陸路にしろ、輸送方法と経路などは明らかにされるため、例えば不具合が生じた場合は開発先をすぐにあたることが出来るし、輸送中にトラブルがあった場合も同様である。
だが、あのヴィングに関してはそれらが一切明らかにされていない。政府に嗅ぎ付けられる危険性があるからと少し前までは思っていたがそれだけでは納得できない部分が露呈してきたのである。それはヴィングが工業国ノヴァ・ソリマからのものではなく、隣国マカリアがそれに一枚噛んでいるという話を耳にしたからだ。傭兵によって戦力を確保しているあのマカリアが独自に開発できるような力があるだろうか。それもこんなオーバーテクノロジーを・・・。
確かにマカリアは国力はあるし裕福な国ではあるが、あえて自国から選出した兵力を戦地に赴かせないのはマカリア国民の無駄な血を流したくないという国の方針によるもの。勿論他の国々からしてみれば金で兵を雇い、金で兵力を得ていると捉えられ、何度も批判をされたことがあるほどだ。
「さーて、これからどうしようか」
マカリアに飛んだミュナを見送ったこともあり、妙にしんみりするリュウエ。あれだけ可愛がっていた妹を手放してしまうという不安、寂しさが彼を襲う。だが、彼の重大任務はこれからが本番となる。両手を頭の後ろで組み、遠くの空を見上げながら吹けない口笛を吹いてみせる。口から細く出された息が音を鳴らさずにスースーと空を切ると、吹けないなら吹くなよと今にも言いたげなアリスの視線がチクチクと刺さって、そんなことで気を紛らわすことをついに止める。
「ねぇ?マカリアから推薦状が届いたんだよね?」
ミュナが有名なハートリブ学院へと転入できたのは何を隠そう自国と友好関係にあるマカリア共和国からの推薦状があったからこそ実現したものであり、それを約束される代わりにリュウエはアリスのお目付け役に指名されたというわけだ。
「あのさ・・・マカリアってすごい怪しくない?」
「・・・は?」
唐突に出てきたアリスの疑問にリュウエは目を丸くする。それはリュウエがこの国とマカリア、ヴィングとノヴァ・ソリマ国、そういった世界の話をアリスにし、それらの情報を元にアリスが感じた疑問。それが隣国への疑念とは・・・。
「お前なぁ・・・ミュナをあんないい学校に入れてくれたのも、今俺たちが政府に太刀打ちできてるのもマカリアの・・・」
「わかってるよ」
疑いたくない気持ちも。
「じゃぁ何で・・・」
「じゃぁ聞くよ?」
アリスが先ほどから浮かない表情をしている。珍しい、マジな顔だ・・・。リュウエも半分茶化して話を聞いていたが、これではアリスに面目ない。
「あのガンダムが『ただの雇われ兵』の所有物っていうのがさぁ、すごい気になるんだよね」
リュウエは眉をピクリと反応させ、反対にリュウエがアリスに問う。いや、問わざるを得ないフレーズが登場したのだから。
「アリス・・・『ガンダム』って何だ・・・?」
光が止んだ。それは一定の間隔を置いていた、それがついに不定期になったかと思った瞬間の出来事だった。まるで何かを吐き出すことを止めたか、もしくは意図的に止めさせられたかは定かではないが、しかしその光の出現を常に気にかけていたリンにとって光が止んだことはこの世界にもしかしたら何かしらの変動が起こる前兆なのではとも思えて仕方がない。光が出現していたからこそ今まで何もなかったのだから。
そういったことを、リンが初めて見つけた遺跡のようなMS、ゲルマニクスがある地点へと向かっている最中に思ってみる。
エータが操る概念、ウルのマニピュレーターの上に乗りながら移りゆく景色には未だ変化は現れていないが、やはり普段起こっていることが起こらなくなるというのは本当に嫌な気配しかしないものである。連盟本部の敷地内でいつものように訓練をしていたとき時、アリスが『そんなに急いだって何があるわけでもない』と口走った。あんなことは普段なら言わないはずなのに、あの時に限って妙な発言をし、現にこんな事態に陥っている。そういう経験をしているからこそ今は慎重になりたいと思っている。
このMSだって、あのエータとか言う男だってそうだ。断絶者と名乗っていた男に連れ去られそうになったところを助けてくれたし、腕を失ったスキュルを介抱し、しかも互いに顔見知りでもある。しかしどうだろう、だからといって自分ものこのこ彼についていくのが果たして正解と言えるのか。
(それでも丸く治められちゃうんだよね・・・)
それもまた彼女の人柄というべきか。何を考えているのかわからないような、はたまた突拍子もないことを突然言い出すアリスとの長い付き合いがあるからこそ、結局は何も言い出せぬまま事が過ぎてしまうのである。
(それじゃダメだ!)
リンは飛ばされぬようマニピュレーターにつかまったまま、コクピットのほうに顔を向け、言葉を吐きつける。声を荒げる彼女の姿を見たことがなかったオロールは姉の活発さに慣れているはずだったのに、それでも竦んでしまうほど、彼女の中に秘められた何かが彼女を一層駆り立てているのだと傍から見てもわかるほどだった。
「聞えてるんでしょ!?ねぇ、あのMSのとこより先に、あっちに向かってよ!」
指を指した方向をエータも、リンの隣にいるオロールも見てみるが、そこにはただ蒼穹の空があるだけ。本当なら光が出現しているはずのあの場所が、今ではやはりその輝きを失い、その現実がリンを一層不安にさせる。ゲルマニクスを彼の力を借りて起動させ、この世界から脱するか、はたまた光の出現地点へ向かい、そこで何が起こっていたのかを探るのか。今は移動手段としてのウル、それを操るエータの判断に任せるほかなかった。
あたりは静けさが再び舞い戻る。それはこの本部内も、本部の敷地内も全てにおいて該当する。
ナンバーズの登場は連盟本部に危機をもたらしたかに思えたが、実際はナンバーズをよく思わないアンチナンバーズと名乗ったエプシロンたちの巧みな作戦によってナンバーズを連盟本部の『敵』と見なさせようというものだった。
・・・というのがナンバーズのトップクラス、No.1、2、3の言い分である。
ウィンストンは悩んでいた。いや、むしろ悩まないことなどは微塵もないだろう。ナンバーズ襲来から彼は常に悩みっぱなしの生活を送っている。ナンバーズが我々連盟本部と友好関係にありたいと願い出、彼らが提示してきた期日に迫ろうとしている。
彼は今、回答を求められている。連盟はナンバーズとの友好関係を築き、ロストナンバーらと戦うか。またはその逆か。彼が求められている回答はまさに連盟本部のこれからの方向性、行く末、命運をかけたものとなるのは確実だ。
「確か10日と言っていたな・・・」
ナンバーズが再びこの地に現れるまでの時間はそう長くはない。彼らが去ってから、もう5日は過ぎたのだから、決断はそろそろ下しておかなければ連盟に携わるスタッフたちにも迷惑がかかる。
遠く、フェリオがCヴィックを駆り、宇宙へと飛び出したあの空を眺めて、彼は彼女のことを思う。果たして彼女ならどう決断を下すだろうか。自分は残念ながらあのおんぼろ戦艦の艦長という任を全うしているだけの人間であり、本部の指揮は代理で務めているとはいえ、こうも戦艦で指揮を執っていたときと今とでは違うものかと何度も何度も疑問に思ったものだが。
言ってしまえば齢15の小娘が何故連盟本部を統べることが出来るのか、そちらのほうが疑問ではあるが、今はそんなしょうもないことを思っても仕方がない。
深く、静かに息を吐き出すと、背後から迫る気配に敏感になる。レーン・・・いや、違う。
「たいそうお困りのようで?」
どこかで見たような服装、銀髪、そしてこの声。
「・・・誰だ・・・?」
「・・・全く。私の影の薄さはここらでも一級ですからね」
ウィンストンとは逆に、今度は彼女が深く、しかし大げさに息を吐き出し、呆れた様子でウィンストンに名刺を差し出して言う。
「艦長、私は連盟別館2号館の主、フィリスです。以降お見知りおきを。無論、何度も会っているのに忘れているなんて話はもう通用しませんよ?」
「あ、あぁ・・・」
と名刺を受けとって書かれている文字に目を通してみても、さっぱり過去に会っていたという実感が沸かないのは果たして彼女の影の薄さだけなのか、それとも・・・。
名刺を胸ポケットにしまいこむと、まさか彼女の名前すら脳裏にしまってしまったのか・・・は定かではないが早速彼女のことを名前で呼ばなくなるウィンストン。「なぁ・・・」と切り出し、別館2号館の主が何故本部へとやってきたのかということを尋ねるとフィリスは冷酷な表情をさらに鋭くさせ、ウィンストンの背後から、ウィンストンの机の向かいへと歩み寄り、携帯している端末を机の上に置くとすでに今の本部の状況を把握していたのだろうか、その端末にはナンバーズの動向や狙い、ロストナンバーの生い立ち、WEB RINGシステムロストの原因など、事細かに記されているのである。
「さすが・・・と言うべきかな」
連盟別館2号館は数あるオリガン世界に散らばる兵器、人物、用語といったものを1つにし、管理している情報部のようなものである。キセアがシステムの一部となっている別館がオリガン世界との繋がりを持つものなら、この別館2号館はそういった繋がりを情報という媒体で繋いでいるものということになる。
「あなたもよくやっていますが、ここの主がいない今、私がその代理を務めようとここにやってきたわけです。艦長、あなたはやはり艦長であるべきです」
「うむ・・・と言いたい所だが」
ウィンストンもこんな小娘にそこまで言われれば彼のプライドがそれを許さないのは当然だ。戦艦が使用できない防戦一方の戦い方しか現状では出来ない今、艦長の任に戻れと言われても戻れるわけもない。
「好意はうれしいが、ここでお前に代わってしまったらあの小娘に顔向けできんからな。補佐ならいくらでも買ってやるぞ」
「ふふ、そうですか」
残念がると思いきや、フィリスはまるでウィンストンがそういう切り返しをしてくるものだとわかっていたかのように先の鋭い表情を緩やかにしていた。なるほど、彼女がここに来た理由は手助けというよりも先に、自身の士気低下を持ち直させようとするためだったのか・・・。ことごとく小娘たちには厄介になるものだ、と。
「レーン」
トゥイレッティとエプシロンの身体検査が終わり、取調べもほぼ終了していたという報は耳にしていたため、彼女から結果の報告をしてもらうために呼び出す。
やっと落ち着いた司令部には未だ問題は解決されていないものも多々存在するが、フィリスのおかげで状況の把握は何とかなってきているし、もし早々に回答を出してしまっていたら道を踏み外していたかもしれない。フィリスと目が合うたびにそれを実感する。情報の強さ、それはあんな脅迫染みたナンバーズの行為の強さに比べれば確かなもの。それにロストナンバーらの証言を加え、さらに情報を増やすことで自分たちが本当に出すべき『答え』が見えてくるのだと。
・・・が。沈黙がそこにあるだけで、彼女の声すらも聞えてこない。ふむ、応答できない場所か、状況にあるのか、例えばトイレとか、シャワーとか。
・・・はたまたロストナンバーが脱走し、彼女もまた制止するために手が離せない状況なのか・・・。
顔を見合わせる2人。フィリスはいたって冷静だったが、ウィンストンは表情を歪ませずにはいられない。ひとまず問題は1つも片付かないようだ。