「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第17回更新分
ガンダムという名称が無いという事が、アリスには逆に理解できなかった。
それは、モビルスーツという概念が存在する世界においては共通語と呼んでも差し支えないものだったのだから。いや、モビルスーツという概念がなくとも、『ガンダム』という概念そのものは存在する世界がある。
「ガンダムっていうのは……えぇと、うぅん……」
説明しようとして、アリスは頭を抱えた。
「高性能なモビルスーツの事なんだけど……」
ただの高性能なモビルスーツだと伝える事は容易い。だが、ガンダムというものはそれだけではない。
「高性能だからって、特別な名前を与えるのは変じゃないか?」
「いやね、モビルスーツの一つの系統みたいなものって言えばいいのかなぁ?」
リュウエの疑問に、アリスは曖昧な返事を返した。
「それが何だって言うんだ?」
「本当なら、ガンダムっていうのは、戦争の流れを変えるだけの力がある機体なのよ。破格の高性能機だとか、安定した性能の量産機とか、背景はどうあれ、戦争の局面を塗り替える計画に多く使用されてきた系列のものなの」
アリス自身、我ながら中々の説明だと思っていた。
ガンダムという兵器にも、それぞれの世界によっては見方が異なってくる。それら全てを言い表す事は不可能だ。それこそ、ガンダムという『概念』が存在する、としか言えない。
「そんな兵器を、傭兵が持てるものなのかなぁ、っていうのが私の疑問」
実際、在り得ない話ではないと思うものの、ガンダムという存在の無いと知った瞬間、その疑問は膨らんだ。傭兵ならば、自作か改造、もしくは奪った機体というのが普通なのではないか。
この世界では、アリスの持つ技術知識はかなりのレベルのようだが、戦略等に関してはリンの方が上だろう。
「ガンダムねぇ……」
「この世界だと、スペック的には、ヴィングと同等かそれ以上って所かな……?」
「それ、本当か!?」
アリスの呟きに、リュウエは敏感に反応した。
「うん、見たところ、そのぐらいはあると思う」
「何故?」
「まず、ヴィングは単機で飛行する能力があったよね? さっきのガンダムは、空中で静止してたのが見えた。これって、兵器の技術としては相当なもののはずだと思うの」
リュウエの問いに、アリスは顎に手を当てて考えを述べていく。
この世界では、モビルスーツは単体で飛行可能なものは少ない。ヴィングのような高性能機の一部か、それに追随しなければならない量産機には搭載されているようだが、通常のモビルスーツには様々な面でデメリットが多過ぎる。
「ヴィングって、空中で静止できる?」
「難しいな……。できたとしても、数秒だと思う」
「だとしたら、あの機体は出力だけでもヴィングの倍以上はあるんじゃないかな?」
実際の数値が倍かどうかは分からない。出力という部分かどうかもはっきりとは言い切れない。それでも、性能に関してヴィングよりも上だという事ぐらいは十分に推測できた。
「ヴィングよりも、上だなんて言ったら、あの機体は――!」
リュウエの顔が青褪めた。
「どうしたの?」
アリスがリュウエの様子を気遣う。
「くそっ! やられた……!」
リュウエの攻撃性が前面に押し出され、アリスは気圧された。牙を剥き出しにする狼のように、リュウエは歯を噛み締めてミュナが飛び立っていった方向へと視線を向ける。
「あの野郎、ぶっ殺してやる!」
急に物騒な言葉を吐き捨て、リュウエは視線を基地の方角へと向けた。
「ど、どうしたの……?」
「ミュナが――!」
リュウエが怒りを露わに口を開いた瞬間、彼の背後から伸びた掌がその口を塞いだ。
アリスがそれに目を丸くし、リュウエが身を強張らせる。
「道の真ん中で熱くなるんじゃない、リュウエ」
諭すような、落ち着いた口調で、声がリュウエの頭の上から降って来た。その声を聞いた瞬間、リュウエは水を浴びせられたかのように敵意を消した。
年齢は三十代後半から四十台前半といった所だろう。優しげな目でリュウエを見下ろす、どこか温和な印象を受ける中年の男性が立っていた。
「ここではまともに話もできない。少し、私に付き合ってくれないかね?」
「はぁ、いいですけど、あなたは?」
「ラムダ、と名乗らせて貰おうかな、お嬢さん」
男性は目を細めて、アリスに微笑んだ。
*
リンの言葉を聞いているのかいないのか、ウルは何も無い場所に着地した。
マニュピレーターが地面に下ろされるのを感じ取り、掌の三人は地面に足を下ろした。それを見届けてから、ウルは手を引いて停止した。
その上でコクピットが開き、エータが降りてくる。
「いきなり下りてどうしたのよ?」
「お前が何か言ったから下りた」
淡々と答えるエータに、リンは目を丸くした。
「え? 聞こえてるんじゃなかったの?」
「概念は普通のモビルスーツとは違う。人間の声を拾う事も難しくは無いが、その機能はオフにしていた」
「な、何で?」
スキュルを見ていた時と違い、エータからは感情の起伏を全く感じられない。
「必要がなかったからだ」
その返答に、リンは言い返す言葉が無かった。
「それで、何か用があるのか?」
「あ、それなんだけど、気になる事があるのよ」
エータの問いに気を取り直し、リンは空へと視線を向けた。
「今まで降り注いでいた光が止まったのが気になったから、その原因を探るべきかと思うんだけど」
「やはり、話しておいた方がいいか……」
エータは微かにため息をついた。
「今、連盟はナンバーズという組織に狙われている」
「ナンバーズ?」
「概念を持ち、時空を統べる者達だ。連盟を狙うのは、そこに存在する施設が彼等にとって必要なものだからだ」
「ウェブリングシステムの事?」
「それだけとは言い切れないが、半分以上はリングが目的だろう」
「ナンバーズの戦力は?」
「一人いれば、連盟は潰せる」
「そんな馬鹿な!? どういう理屈よ!?」
連盟とて、専用の防衛部隊が存在する。たった一人でそれを無力化するなど、まともに考えて不可能だ。
「俺の乗っている概念は、奴等が造ったものだ」
「なら、あんたもナンバーズって事?」
震える声で、リンは問う。
エータが連盟を狙う敵の仲間だったなら、リンは既に敵の手の中にあるという事になる。
「違う」
きっぱりと言い切ったエータには、確かな意志があった。
「俺は、ナンバーズではない」
「どうなってるの? 状況が判らない」
「状況は、混乱している」
エータが知っている情報の一つは、ナンバーズという数人の組織が、連盟を狙っているという事だった。主にウェブリングシステムが目当てなようだが、連盟を得る事だけでも計り知れない力を持つ事になる。リングで繋がっている世界の技術を簡単に得る事もできる上に、干渉する事ですら不可能ではない。
「アリス、リンの二人は連盟の世界から他の世界へと飛ばされているが、これはお前たち二人が、ナンバーズにとっても脅威になりうるからだろう」
「ちょっと待って、概念一つで連盟が潰せるんでしょ? そんなのを相手に私達がまともに戦えるはずがないじゃない」
「お前たちが持つべきものを持てば、十分に戦える。それに……」
エータはそこで言葉を区切った。
「概念は、普通のモビルスーツでも倒す事は可能だ」
「え……!?」
「概念は、お前達が解り易い言い方をすれば、九割以上がサイコ・フレームでできている」
リンは言葉を失った。
九割以上と言えば、モビルスーツの部品のほとんどがサイコ・フレームという事になる。動力部などの、必要最低限の部位以外にはサイコ・フレームが使用されているという事だ。
「故に、パイロットの意思がそのまま概念の力となる」
エータの言葉に、リンはぞっとした。
言うなればサイコミュの塊である概念という兵器は、任意で『奇跡』を起こす事が可能という事だ。宇宙世紀という世界では、サイコミュによって増幅された人の力が、何度も世界を救っている。そのような奇跡を任意に起こす事が可能な兵器ならば、連盟など容易く落とされてしまう。
「だが、概念はその力故に、意思の働いていない部分からの攻撃に弱い。敵の意思を引き付け、その背後を取れば勝ち目はある」
「本当に、勝てるの?」
「理論上は可能だ」
エータの言葉には確かなものがあった。それだけでも、リンは心が落ち着いていくのが分かった。
「ねぇ、概念同士で戦えばいいんじゃないの?」
「難しいな。概念という存在は、サイコミュの塊だ。そんなものが戦闘可能な距離にまで近付けば、共振が発生してしまう」
人の意思が力となる概念同士の共振は凄まじいものになる。稼動しているだけでも少なからず人の意思が働いてしまう概念が対峙した場合、その意思が相手の機体に干渉し合い、共振を起こす。最悪の場合、その共振は周囲の世界を破滅へと導く。
「概念は他の兵器には強いが、同じ概念と戦うのは避けなければならない。加えて、強力なニュータイプの思惟によっては、概念は影響を受ける」
相手からのプレッシャーに圧されれば、概念の性能は低下するという事らしい。
「これから概念と戦う場面もあるかもしれない。憶えておけ」
エータは説明をその言葉で締め括った。実質的には、概念同士では戦えないという事だ。
「話を戻そう。今、連盟にはフェリオがいない。キセアを探しているためだ」
「フェリオも留守にしてるの!?」
「加えて、ナンバーズと、それに敵対する二つが連盟に接触した」
リンは呆然とエータを見上げた。
そんな事になっているとは知らなかった。
アリスとリンがいないだけでも重大な事態だとは思っていたが、二人が不在の連盟にも重大な事が起きるとは予想していなかった。これは、システムの異常で二人が別世界に飛ばされただけだと考えていたのだ。自分達が連盟に戻りさえすれば元に戻ると思っていたが、そう単純な事ではなくなっている。
「事態は複雑だ。それを解消するためにも、お前を連盟に戻す必要がある」
「アリスは!? アリスは大丈夫なの!?」
「命の危険に晒されたなら、ナンバーズと敵対する者の一人が、彼女を守るはずだ」
取り乱すリンに、エータは変わらぬ口調で応対した。
「どういう事……?」
「詳しい状況は、ここにいる限りは俺にも知る事ができない。まず、必要なのは月へ行くという事だ」
「月へ行くのはいいけれど、空の事は?」
「あれは、今の俺達には関係がない。それに、あの光が発生しているのは電離層だ今の状態で近付く事はできんぞ」
電離層といえば、地表八十キロメートルから五百キロメートルまでに存在するものだ。中間圏から熱圏にまで及ぶ範囲内のものであり、エータと違って生身で移動しなければならないリン達が行く事はできない。
「そんな高い場所で光ってるの!?」
驚いて目を見開くリンに、エータは静かに頷いた。
「近付くためにも、ゲルマニクスという機体を修理しなければならない」
淡々と告げたエータを見上げて、リンは黙考する。理屈は全て通っているし、説得力もある。時折見せるエータの確固たる意思も、リンには感じ取れた。
だが、それでも拭い切れない疑問がある。
「……私は、あなたを信用してもいいものかどうか分からない」
ナンバーズとは違うと言い切ったエータからは、確かな意志を感じた。それは信じる事ができる。しかし、エータは連盟の味方だとも言っていない。彼をどこまで信用すればいいのか、リンには分からなかった。
言葉で尋ねても、いくらでも嘘をつく事はできる。それでも、判断するのは、リンだ。
「俺は、どの勢力でもない」
「え?」
「ナンバーズは見限った。ナンバーズと敵対する者達も、俺にはどうでもいい。連盟もそうだ」
「なら、なんで私を……?」
たった一人で動いているという彼の言葉を信じるのなら、リンを助ける事にどんなメリットがあるというのだろうか。
「今の混乱が気に食わない」
エータの一言に、リンは何も言えなかった。
「この混乱が、後の全てを狂わせた」
リンの目の前で、エータの表情が変わっていく。氷のような無表情から、明らかな敵意へと。
「全てを、狂わせた……?」
「今、俺達が立っているこの世界は、連盟が敵の手に落ちたために生じた結末だ」
「っていうことは、ここは――!?」
「お前達の世界の遠い未来が、これだ」
エータの言葉に、リンはその場に座り込んでしまった。
「今起きている混乱を放っておけば、お前とアリス、フェリオを始めとする連盟の人間全てが死ぬ」
リンの頭の中に、エータの言葉が響く。連盟の存在する世界の結末が、今立っている場所だという。アリスも、フェリオも、全員が死んでしまう。
にわかには信じ難い言葉だ。それでも、エータの持つ意志は、リンの目にもはっきりと見えている。声や、瞳、態度、それぞれに彼の意志を感じた。
「俺はそれを止めるためにここに来た」
「本当に……?」
「嘘だと思ってくれても構わない。俺は、俺の信じた通りに行動するだけだ」
熱の篭ったエータの口調に、リンは彼の目を見つめた。
「本来ならば、既にお前は死んでいる」
スキュルの腕を切断した人物がリンを別の空間へと運び、そこでリンの身体を分析した後に処分していた。その流れが、今、リン達のいる世界に繋がっているのだと、エータは語った。
「でも、それって、タイムパラドックスなんじゃないの?」
どうにか気を持ち直しつつ、リンは問う。
リンが死んでいなければ存在しないはずの世界は、未だに存在し続けている。消えたりはしないのだろうか。
「お前をこの場で助けただけでは、未来は変わらないという事だ。いずれ、お前達が死ぬ瞬間が来る」
「そんな……!」
それではエータの言う、未来の改竄は不可能だ。この場でリンを助けても、近いうちにリンは命を落とす。リンだけではない。アリスやフェリオも命を落とすというのだ。
「つまり、あんたはその瞬間全てに割り込もうって言うんだろ?」
今まで黙って聞いていたスキュルが口を挟んだ。
「そうだ」
エータは頷いた。
「それで、未来を変える勝算はあるのか?」
「少なくとも、種は撒いた」
スキュルの問いに、エータは静かに答えた。
「この世界ですべき事は、お前を連盟に戻す事だ」
そのためにゲルマニクスが必要ならば、修理する。エータは、そう告げた。
*
アリスの目の前で、ラムダはリュウエのボディチェックを行った。素晴らしいとしか形容できない手際の良さで、彼の服に取り付けられている発信機を全て見つけ出した。
「すまんが、お嬢さんも宜しいかな?」
「私にもあるんですか?」
「状況を考えれば、お嬢さんの方が多いだろうね」
そう言うや否や、ラムダがアリスの衣服から発信機を排除していく。
アリスとリュウエの服に取り付けられていた発信機の全てを、ラムダはポケットから取り出した袋に入れ、通りがかったトラックの荷台に放り投げた。
「さて、ここからが時間との勝負になる、まずは私について着てくれないか?」
「親父さん、何でここにいるんだ? 今までどこで何をしてたんだ? それに、ラムダって――!」
「落ち着くんだ、リュウエ。ちゃんと話はするのだから」
リュウエの言葉を一言で制し、ラムダは二人をホテルの一室へと導いた。彼が宿泊している場所らしい。
「まずは、君達の話だが、中々良いところを突いている」
ベッドに腰を下ろし、ラムダは立ち尽くしたままの二人を見て呟いた。
「聞いていたんですか?」
アリスが問う。
「ああ、聞いていたとも。それだけではない、私は君達が相手にしている者達の事を多少だが、知っている」
「何だって!?」
リュウエが身を乗り出す。
「まぁ、まずは話を聞きなさい。順を追って話していこう」
手でリュウエを制し、ラムダは二人を備え付けの椅子に座らせた。
「まず、君達の予想通り、ヴィングとはこの世界には存在しない、外部から齎された兵器だ」
「やっぱり、メンタルサーキットっていうのはサイコミュなんですね?」
「そういう事になるね。同時に、先ほどの話に出ていたガンダムも、外部のものだ」
「もしかして、司令と繋がっているんですか?」
恐れる事もなく、アリスはラムダと言葉を交わしていた。
ヴィングの技術が外部のものである事は、以前、アリスが機体を調べた際に結論として出ていたものだ。加えて、先ほど目撃した傭兵のガンダムも外部からのものであるという。
リュウエから、ヴィングを用意したのが現在の司令である事は聞いていた。同じ外部のものがこれだけ近い場所に存在するとなると、何か繋がりがあるのではないかと思えてしまう。
「察しが良い。流石は連盟を管理する者の一人だ」
笑みを深めるラムダに、アリスは今度こそ返す言葉を見失った。
「連盟? なんだそりゃ?」
リュウエが眉を顰める。
今まで、連盟という言葉をアリスは使った事が無い。こことは違う場所、違う技術、違う歴史を持つ世界にいたと、アリスは話しただけだ。リュウエや司令に伝えた内容も、機器を操作している時に、何らかの事態に巻き込まれたと語っただけである。
連盟という言葉は、他の世界では禁句に近い。全くの別世界の存在を軽はずみに話してしまう事は、その世界の流れそのものを乱してしまいかねない。
リンに比べて馬鹿だと自分でも思っているアリスですら注意している事だった。
「何で、それを?」
「知っているさ。私も、別の世界と繋がっているからね」
「どういう事なんだよ?」
もしかしたらラムダも敵なのかもしれない。そんな考えがリュウエの疑惑を駆り立てる。
「落ち着けと言っているだろう、そんな事でミュナを守れると思っているのか?」
微かに眉根を寄せ、咎めるようにラムダはリュウエを抑えた。
「数年前、ここを離れてから暫く経った頃、私は一人の青年と出会ったのだ。その時、私はこの世界の事を知った」
不思議な青年だった、とラムダは遠くを見るように呟いた。
「この世界の事?」
アリスが首を傾げる。
連盟の事ではないのだろうか。そんな考えから出た言葉だった。
アリスの仕草に目を細め、ラムダは続けた。
「二人とも、パラレルワールドという言葉は知っているね?」
アリスとリュウエは頷く。
連盟という存在は、パラレルワールドを繋いでいるとも言い換える事ができる。それを考えれば、アリスが知らないわけがない。
「この世界は、連盟の存在した世界のパラレルな未来だ」
「え……?」
アリスは驚くと共に、何か釈然としないものを感じていた。
どこかで分岐した未来の一つ、と言われても、連盟の世界と繋がっているような部分は何一つとして存在しない。ガンダムという言葉すら存在しないというのに、連盟の未来だとは思えなかった。
「全てがある一点から狂わされた。私が出会った青年はそう言っていた」
「もしかして……」
「そう、君達がここへ飛ばされてきた、あの瞬間だ」
頷いて、ラムダは語り始めた。彼が知っている事を。
「本来なら、アリス、リンの両名は、システムの事故で『死ぬ』はずだった。いや、死んでいた、というべきかもしれんな」
最初の時の流れでは、二人は正常に連盟を運営していたようだ。だが、その原初の流れから、溢れた者達がいた。彼等は、自らのために連盟の流れを書き換えようとした。
書き換えられた二度目の連盟は、故意に引き起こされたリングシステムによってアリスとリンの両名が死亡。溢れた者達と、フェリオ率いる連盟が争い、最終的に、連盟が敗北した。それから後の事は、ラムダも知らないようだった。
そして、その流れはまた書き換えられた。
事故の瞬間、何者かが介入した事によって、アリスとリンの死亡という事態を免れたのだ。その代償として、二人は別々の世界へと飛ばされてしまったわけだが。
「この世界は、原初の流れから分岐した一つの未来だ」
溢れた者達の反乱によって、連盟という存在が消失してから、千年以上の時が経っているのだと、ラムダは語った。
「君に分かり易いように言えば、連盟のあった時代は、この世界では黒歴史という事になる」
「はぁ……」
アリスは生返事を返したが、何もかもが自分の考えていた事態の大きさよりもスケールが違い過ぎる。
時間軸への干渉や歴史の改竄など、デリケート過ぎる問題だ。
黒歴史と言われてしまえば、この世界にガンダムという概念が無い事や、技術力の事情も大方説明できてしまう。ただ、この世界の司令は過去の技術を得ようとしている事を知っているのだろうか。
連盟では他の世界へ同様の事をしないよう、厳しい規制が存在する。規制が「存在する」だけでも、他の世界への干渉が可能だというだ。しかし、それが連盟の世界自体に向けられるとは思いもしなかった。
「説明的になってしまったね、だが、この辺で話しておかなければならない事でもあるのだ」
「何故?」
事情を理解しているのかいないのか、リュウエが問いを投げた。
「ミュナが隣国に向かったそうだな?」
「あ、ああ……」
「隣国には、『溢れた者達』の息のかかった者がいる。それは、お前達二人に対しての人質を得るためだろう」
「やっぱりそうか!」
いきり立ち、リュウエが立ち上がる。
「だから落ち着けと言っているだろう」
ため息交じりに呟き、ラムダは素早くリュウエの腕を掴むと、足を払って床に押し倒した。
「ってぇ!」
「危険なのはミュナ一人ではないのだぞ、二人とも狙われているんだ」
呻き声を上げるリュウエに告げ、ラムダはアリスにも視線を向けた。
「え、私も?」
「勿論だ。『溢れた者達』にとって、君は死んでいなければ都合が悪い存在だ。このままでは、最終的に殺されてしまう」
目を丸くするアリスを他所に、ラムダはリュウエを起き上がらせて椅子に座らせた。
「加えて、リュウエ、お前もだ」
「何だって!?」
その言葉には、リュウエだけでなく、アリスも驚いていた。
「お前は、今の世界には存在しないはずのメンタルサーキットを扱える数少ない人間だ」
「メンタルサーキットまで知ってるのか!?」
「失われた技術を扱える者は、奴等にとって障害になりかねない。ましてや、奴等が殺す予定のアリスお嬢さんと共に行動している場面が多ければ多い程、彼等には敵視されるだろう」
アリスの味方と思われた場合、リュウエも排除対象になってしまうという事だ。
「じゃあ、私達がミュナを助けるためにも、後手に回ったらまずいよね」
「前向きなお嬢さんだ。殺されると聞いても怖くないのかね?」
アリスの言葉に、ラムダは呆れたような笑みを浮かべる。
「だって、死ぬ気がしないもん。何もできないわけでもないんだし」
そういって、アリスは笑う。
「死ぬ気がしないって、根拠はどこにあるんだよ……」
テーブルに突っ伏して、リュウエが呟く。
「そう言えば、君の相方の事は心配しないのかね?」
「リン? リンは大丈夫だよ。きっと、殺しても死なないから」
「さらりと無茶苦茶な事言うな、お前」
ぼそりとリュウエの突っ込みが入る。
だが、それよりもアリスの目に映っていたのは、窓の外に見える一つの光だった。
「なんだろ、あれ」
まだ遠くにある光、それを見たラムダの表情が真剣なものになった。
「敵も、動き出したようだな」