「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第19回更新分

監守が最初それを見た時は唖然とした。今日は何時もと違って静かだと様子を伺うと、据え付けられたベッドに自分の着物の袖を破り捨てたものを巻き付け、首を吊っていた。
吊っていた、という表現は適当でないかもしれない。収容者自身は身体を床にあずけているからだ。
本人は首だけを前に出し、布に首筋を圧迫させている。布によりかかったような姿勢で首を吊っている。
慌てて鍵を開け中に入る。袖口から覗く腕には無数の傷痕が残っている。
身体検査の際に相当暴れて抵抗したらしいがこれが原因だと彼女は思っている、写真を見ればその痛々しさに嫌でも目が行く筈だ。
そして収容された当初よりも相当にやつれている。
とにかく医務室へ一度運ぶ必要がある。ネックレスを外すような仕草で両腕を伸ばす。
が、紐を外そうとした瞬間ピクッと体が動いた。『良かった』と思う安堵を覚えた直後、彼女は首を折られてあまりに呆気なく絶命した。

「危うく本当に死んでしまう所でしたわ。救出ありがとうございます」

スクッと起き上がり手を振り優雅に一礼すると彼女は今しがたこの世からいなくなった女性から使えそうな道具を物色する。
体型が違うので着替えるといったことは出来ない。が、そんなことは全く関係ないような視線で彼女を自分の腕に視線を走らせすぐさま前をキッと見つめる。

「他の皆様には死んでいただくとしましょう。そうすれば、私は殺されませんから」

外見よりもずっと大人びた艶めかしい口調でそう言い、彼女は歩き出す。時折苦痛に顔を歪めながら。





その後、ゲルマニクスという名の機体の傍らまで行き明日から本格的な修理作業に入るために、今日は早めに寝ることになった。
正確に言うなら修理完了後に誰がどの機体に乗るのかということで大論争になり疲れきってしまったからだ。
リンがエータと一緒に乗ると言い出した時にこんな何処の馬の骨ともわからない奴を信用するのはどうか、と言い出したのである。
助けてもらってそれはどうかとリンも思うが言っていることは正論なので反論できない、加えてそこにオロールがエータと一緒にいたいからだと、とんでもない爆弾発言をして情勢は混迷。
スキュルの混乱ぶりは凄まじく、エータも呆気に取られていた、オロールはそれを見て微笑んでリンはもうどうしようもなかった。

結局グダグダの内に一日が終わってしまった。


「随分とかっこいいことをいってくれたが、そこまで考えてないだろう、お前」

既に他の二人は就寝し、今焚き火を囲んで起きているのはエータとスキュルだけである。
飛び散った血を拭くために髪を水で流し、そのまま結んでいないのでスキュルの髪はストレートである。
木の棒で火をつつきながらスキュルがエータの方を見ずにいう。

「解らない方がおかしいか。変な所で鋭いよな、スキュルは」

火をつつくのをやめてエータの方をむくスキュル。

「わたしがまるでバカみたいな言い方をするな」

膨れた顔で不機嫌な声で応答する。

「そうじゃないか。だって、ただのシ」

四文字の最初が聞こえるか聞こえないかのうちに夜分にも関わらずワーワーと奇声をあげながら立ち上がり無い方の腕もふるって必死にその先を続けまいと振って否定する。

「本当のことをいいそうになると、大体必死になって否定するんだよな」

ヤレヤレという様子で視線を火の方に向ける。落ち着きを取り戻したスキュルも座って同じように火を見つめる。

「ここから先は何が起きるかわからない」

声を落ち着け本題に移る。

「そういうことだ。仮定の話、助けたと思ったら後ろからズドンなんてことも充分ありうる」

「そう、仮定の話、スキュルが敵と取引なんてことも充分ありえる」
「まぁそうだな、否定は出来ない。」
「だがな、スキュル。それは何時もの自分達と変わらないってことだ」
「ふむ・・・言われてみればそうか。だが、違う所もあるぞ」
「どんな所だ?」

続く言葉を知っているような口でエータが聞き返す。

「わたし達は未来に対すると同時に過去に向かっても対決している。違うか」
「よくわかっているな。そういうことだ」

ここでの行動は未来に繋がる、と同時に既に消えてしまっている過去への挑戦でもあるのだ。

「挑戦者(チャレンジャー)」

ポツリとスキュルが言う

「挑戦者?なるほど、連中風にいうとそうなるかも知れないな」
「中々いいネーミングセンスだろう?」
「馬鹿を言え、単純だよ。過去にも未来にも向かう存在を、挑戦者なんてな」
「ムゥ、いいじゃないか」
「ハイハイ、しかし気を引き締めろよ、場合によってはお前と敵対する可能性もあるんだからな」
「わかっている、そっちこそ覚えておけ。私の一番の目的は―」

続く言葉を遮ってエータが苦笑しながら言う。

「ハイハイ、全くあの頃に比べて更に強くなったな」
「何がだ」
「色々だよ、色々」
「フン…まぁ味方は一人でも多い方がいいだろう、どちらでもないということはどちらからも攻撃される立場にあるということだからな」

断定する口調でそう答えるスキュル。彼女も己が信念の元、同じような境遇にいるのだから。

「だが、さっきも言ったとおり味方が敵になるリスクもあるからな、その時は」

続く言葉は知っている、容赦なく切り捨てる。聞くまでも無い言葉だ。

「好きにするがいいさ。一度は消えた命、依存は無い」
「やっぱり変わったよな」
「だが、オロールのことは」
「ダメだ、やっぱり変わってない」

続く言葉に彼の小さな期待はあっと言う間に雲散霧消し、後には沈黙だけが流れた。
お互いの視線だけが交わる世界、だがそこに険悪な雰囲気は全くなく、
長く別れた恋人同士がお互いに存在を確かめ合うような穏やかな空気が流れていた。





連盟本部ではナンバーズとの戦闘に備えての準備が行われていた。
無論、これはフィリスの差し金である。あのささやかな沈黙の後に現れた彼女は声高らかに緊急会議が招集し、改めて今後の対応が協議された。結論から言えばナンバーズも「現段階ではグレーゾーン」とされた。
これは彼らが来訪した際にアリス達を連れ帰ってこないことなど、既に捕らわれた二人と結託して行動を起こす可能性が0ではないと判断されたからである。
機械の彼女からすれば私情などは入る余地は無く、危険性のあるから敵と認識したのである、指揮官達も絶句した。
ウェイストンの立場はまったくといっていいほどなく、完全に主導権を握られている。むしろ、こうなるべきと彼女に操作されたといったほうが正しい。理論武装は半端じゃない。

「ですが、本当にやりあうつもりなのですか、」
「その話はもうしたわよ。可能性の話です」
「敵がそのことに逆上して攻撃してくる可能性は」

「問題ないでしょう。アレの怖さは向こうもよく知ってるでしょうに、攻撃される可能性が否めなかった。これで大丈夫よ」

「勝てるのですか?ガンダムに」
「何度もダムダム煩いわねぇ。更迭するわよ」

ドスの利いた声で脅される。そのことは散々議論された。だが、その全てを彼女は圧倒した。

「いったでしょう、アレはトラックか電車みたいなものよ」

トラック扱いした。

「私達が準備してるのは、トラックを止めるために道路に油をまいたり、電車を止めるために線路を爆破したり、そういうことよ」

連盟側の策というのは要はトラップ戦術であった。最悪パイロットを狙撃、撲殺も考えている。
MS同士の戦闘で勝ちをとりに行くのではなくそれ以外の方法で勝ちにいくというのである。
これはこちらが防衛する側だから出来た戦術であり、相手がガンダムだから有効ともいえる作戦である。
そもそも、圧倒的強者は戦術など使用せず暴力を振りまくだけでいい。何時でも力押し、名前は必要以上に意味を持ちすぎてしまっている。

「本当はガンダム同士で潰しあってくれるとこっちの手間も省けるんだけど。パイロットも機体もないんじゃ仕方ないでしょ」

面倒くさいんだけど、と彼女は付け加えた。もしここにガンダムがあるなら彼女は勇んで飛び出すだろう。
強奪。それも選択肢の一つ・・・らしい。

「これが通用しなかったときには」

その問いには彼女は少し考えて。

「随分と後ろ向きなのね。そしたら徹底抗戦よ、したくはないけど。あーあ、早くキセアちゃんに会いたいなぁ…」

懐かしい友を思い出すような、感傷めいた声で答える。

「兵達の気持ちも考えてやってください」

いきなりシャシャッてきた小娘にガンダムと戦うかもしれないから準備せよと言われるのはやはり無理がある。
会議に参加していた大方の士官も彼女のことは殆ど記憶に無く、あったとしても、『いたかも知れない』程度の認識である。
出自はかなり怪しいにも関わらず記録の上では凛とした役職を持っている。どうにも一致しないのだ。
だが、彼女自身は大変精力的に動いている。それは間違いない。

「考えたわよ。ここがやられたら不味いから防衛策をとった。ただそれだけよ」

即応的に答えた。思考時間はコンマ単位だ。

「キセアはここまで極端には行かないでしょうけどね。けど今は私の―」

その言葉に続く言葉は遮られ、変わって

『101セクターに異常発生、捕虜の一人が脱走を実行。第二戦闘配備に移行、総力を以って対象を排除せよ』

と機械的な音声が鳴り響いた。続いて警告音が発令所に響く。

「聞いての通り脱獄よ。私はこれから指揮命令に専念するから、お喋りは出来ないわよ。ちょっと待ってて」

ウェイストンを制しマイクを軽く握りスイッチを押す。

『こちら連盟本部、情報どおり敵兵が脱走した模様、各員持ち場に着き迅速に対処せよ。脱獄者に対しては無条件発砲も許可する。これは演習ではない。繰り返す・・・』

「無条件発砲許可とはやりすぎなのではないでしょうか?」

無条件発砲とは、出会い頭に射殺して良いという意味である。このウェイストンの最もな問いに。

「今の敵は魔術師みたいなもの、それに時期が時期よ。敵がこの脱走に合わせて攻撃を加えてくる可能性もある。仮にナンバーズが私達の味方だったとしてもこれで敵になる可能性もあるわ。ここは絶対に殺しておく必要がある」

最後は特に語気を強めていった。魔術師、という言葉はどうかと思うが彼女は先の会議でこうも言っていた。
『高度に発達した科学は魔法と同じよ、我々の知らない技術を使う連中は魔法遣いと同じよ。』と。
これには矛盾がある。その魔術師に向かってゆこうというのだ、それは果たして有効打となり得るのだろうか、と。

「はい・・。レーン指示を頼む」

このまま逃すわけにはいかない。だからそのように返事をした。脱走したのはどちらだろうか。
この状況で逃げ出すのは何故か。合流するためなのか、別の目的があるのか、それともただ単に逃げ出したかっただけなのか。
ウェイストンとしては一番最後の考えが正しいと思う。ここで脱走してもいいことは何も無いのだ、どのようにして逃げたとしてもこの空間から逃げ出す術を持たないのだ。

「私、ずっと解らなかったことがあるのよ」

モニターを観察しながら傍らに置かれたコーヒーをすすりながら誰ともなく語りだすフィリス。

「除名を受けたとはいえ彼女はナンバーズの一員だった。にも関わらず彼女の年齢は彼らより相当に若い、その意味がね」

カップを置き、ウェイストンを見る。

「もう、わかるわよね?」





殺されない夢を見る、毎晩毎晩毎晩。生きている夢でもなく、死ぬ夢でもなく、ただ死に至る場面それだけが永延と繰り返される。
決して殺されない、ただ絶息の苦しみを味わう日々が続く。
ある時は腹を割られ、ある時は身体を無数の杭で貫かれ、ある時は四肢を分断された。
起きても夢で見た所と同じ場所がまるで現実であったかのように痛む。
そして、心の中で何度否定しても耳元で声がする、呟いて何度も否定しても耳元で声がする、耳を塞いで何度も否定しても耳元で声がする。
大声で何度も叫んで否定しても耳元で声がする。床をたたいて何度も否定しても耳元で声がする。
食事中でも、査問されていても、寝ようとしているときにも、夢の中でも、声が聞こえる。
痛みが夢の中であっても、痛む事実は揺るがない。この声が幻聴であっても、響く事実は揺るがない。
夢が現実であろうと、現実が夢であろうと関係ない。
殺されるのは嫌、死ぬのは嫌、これ以上痛い思いをするのも嫌。
この痛みがなくなる場所へ、この声が聞こえなくなる場所へ。そのためならなんだってする。
こんな場所にずっといるからこんな目にあわなくてはならないのだ、だったらこんな場所にいて良いわけがない。
ここから去ればきっとあの痛みも、声もなくなる。
早く、簡単に、確実に脱出できる方法をなんとしてでも見つけなければいけない。