「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第24回更新分


 急に襲い来る静けさに、フェリオは一時、物事を整理する時間を得たように感じた。ストラテーゴスと対となるMSであろうバシレウスとともに出現した、ナンバーズの事実上の『頭』であるゼロ。
 声も雰囲気もフィットそのものであったし、自分もそれを認めていた節があったが、その存在を『完全に』フィットだと認識にするには至らなかった。彼の存在以上に、アグゼの存在が『フィット』の存在を揺るがせまいとしているのだ。

 ではアグゼは何なのだろう。
 ゼロは?

 双方はどちらもフィットではなく、どちらもフィットであるように思えるのは何故なのだろう・・・。



 「アグゼ!」
 自らの命令を聞かずに漂流していたCヴィックへと帰還したフェリオは指示を実行に移せなかったアグゼの元へと駆け寄ると案の定、彼は意識を失い、操縦桿から手を離してブリッジに漂っていた。大体予想は出来ていた。あのゼロが現れる直前の出来事だったから、原因はゼロにあると断定できる。ただ、彼が何かしらの力を使ってアグゼを意識不明にさせたのかどうかまではわからない。
 そして、投影されていた映像の中にいたキセアもまた、アグゼと同じように意識を失っていたが、それらの関係を見ていくと、なるほど・・・『アグゼとキセアの中では最もフィットらしい』というゼロの発言は的外れではなかったということか・・・。

 それが、ゼロの発言が全て本当だとしたらフィットの体や意識、力をゼロ、アグゼ、キセアの3つに分かち合ったということになる。実の弟がそんなことになっていたとは信じたくもないが、今は何故そんなことにならなくてはいけなかったのかとか、そういうことを考えるよりも前にやはりキセア奪還という責務が存在する。そんなことを考えている暇など、残念ながら彼女にはないのだ。

 フェリオは気を失っているアグゼを再びソファの上に寝かせると、Cヴィックをこの世界から脱出させ、そして三度アンテナの前に躍り出ると、アグゼを頼りとせずに自分の意思で複数ある輪のいずれか1つの先を目指した。
(時間は無い・・・でも)
 でもここでアグゼを起こして、疲れた身体に鞭打ちながらキセアとの共鳴反応を見るのか。いや、彼女にはそれは出来ない。今まで無理をさせすぎたことも十分承知の上だった。だから今は、今だけはこの迷宮のようなアンテナの先の世界を自分の力だけで何とかしなくてはいけないのだ。たとえそれが無駄足になろうとも。


 もしかしたら、先ほどのように『誰か』が干渉し、向かった先の世界から転送してくれるかもしれないし・・・。



 調停者ヒュメドが戦死したことで、反連邦組織司令であるフィーヴルと、そのほかの組織をつなぐものが消えたことになる。ただ、この事態をよかったと捉えるのか、それとも失敗だったと捉えるのかは個々人の自由かもしれないが、少なくともリュウエはそれでよかったと捉えているようだ。
 しかしそう簡単に問題が解決するのかというとそうでもなく、ヒュメドがいなくなった今、アリスが元の世界へ戻る手段をまた断たれてしまった、ということでもあるわけで。ヒュメドは絶対に世界を行き来する手段を持っていたに違いないのにそれを易々と失ってしまったことはもしかしたら失敗だったのだろうか。いくら『彼しか扱えないもの』だったとはいえ、根本的な構造などは同じだっただろうに、それを基にしてアリスにでも扱えるようなものを作れたかもしれない。

「ミュナのところに行くんでしょ?」
 基地の格納庫で車を用意しているリュウエに尋ねるアリス。ヒュメドとの戦闘では怪我こそ負わなかったものの、メンタルサーキットの調整不足や様々なごたごたなどもあり精神的には若干疲れている様子だ。
「あぁ、司令を縛り上げたからな。そろそろ行くぜ」
 反連邦政府組織の司令でありながら、アリスという人物個人が持つ高い技術力、そして他国、他世界の持つMSに関する高い技術をヒュメドという人間を介して求めた結果がこれだ。掲げた思想こそは政府の圧政に苦しむ民の希望の光だったかもしれないが、実際に行われていたことはただならぬ、司令の独りよがりの欲望だけだった。民を裏切り、精鋭までもを裏切れば幸せになんてなれるはずもない。傍目に見れば縛り上げられ、苦痛に歪むフィーヴルの、その表情を見ればやりすぎではないのかと同情の念に駆られるが、残念ながら今の反政府組織のメンバーの中には彼に同情しようという者はいないようだ。

 リュウエたちはミュナが渡った隣国マカリアに向かうべく、支度を整えていた。ミュナを隣国の学校に進学させたのは、やはりリュウエを精神面で追い込むための、ヒュメドの仕業だったのだろうと考える。それにミュナを隣国に置かせることで人質としての役割も果たせ、物理的にもリュウエやアリスたちの動きを封じ込めることもできるのである。さすがは調停者、ガンダムを扱っていた人間だ。
 ただ、今はもう調停者はいない。フィーヴルだって失脚し、表舞台には帰ってこない。では名門学校へ入学できたミュナは人質にとられるということもないのではないだろうか。そんなアリスの疑問に答えるようにラムダが口を開く。
「そうだな・・・だがそれはリュウエとミュナの問題だろう?」
 ミュナは自分がそんなことのためにマカリアの学校に進学させてもらったとは思いもしないだろう。もしそれが推測であったとしても、彼女が危険な目に合う可能性は十分あった。それを加味してリュウエがミュナにどんな話をし、どんな決断を下すのか。それは本人の意思次第というわけだ。
「学校側との話し合いは私がする。私個人としてはミュナをこのまま学校に置かせてやりたいが・・・」
 病的な妹思いのリュウエにそれが出来るかというと、叔父であるラムダにもなかなかわからないところではあるのだろう、腕を組んだままそのあとの言葉を飲んだ。

「ミュナの件も大事だけど、俺さ、もうちと気になることがあるんだよ」
 ミュナは飛行機でマカリアへと向かったが、残念ながらそんな私事に使えるような組織の資金があるわけもなく、経費を安く済ませるために陸路を行く一行。RVタイプの車を走らせながら、ハンドルを握るリュウエは言う。
 それはヴィングが送られてきた経由が明らかにされていなかったということ。工業国ノヴァ・ソリマからのものではなく、ヴィングの開発には『自国で兵器の開発を行っていない』マカリアがそれに一枚咬んでいたという事実を掴んでいた。もしかしたらヒュメドはいなくなっても、マカリアには他世界と繋がる何かが、もしくはそれに繋がる手がかりがあるかもしれないと踏んでいたのだ。
 今、彼はミュナのためにマカリアに赴くのではなく、その真相を確かめるべくマカリアへと向かっているように見える。そんな彼の様子を見ながら助手席に座るラムダは、先の発言を撤回せねばと少々反省した素振りでそのまま彼から景色へと視線をそらす。


 隣国マカリア。
 安定した治安、発達した街並みはこの世界のどこよりも豊かな国である。まさか隣で政府と民がいざこざを起こしてようとは思えないほどの、平和そのもののこの国を守るのはマカリア国外から集められた傭兵たちである。
 出発してから結構な時間を費やし、ついにマカリアの国境へとたどり着いたアリスたちだが、なんと国境警備隊の手によって行く手を塞がれてしまう。
「どうなってんだよ」
「さ、さぁ・・・」
 リュウエも、そして警備隊の人間も顔を合わせたまま話にならない様子で困惑するが、それも無理はない。
「何せつい先ほど、大統領が国外からの入国者を全て拒否すると命じられたのですから・・・」



 光と闇の螺旋を潜り抜けたCヴィックは、アグゼの力を頼りとせずにたどり着いたこの世界の宇宙空間に漂う。フェリオはすぐにモニターに触れ、現在の年号を調べるとひとまず安心できる場所であると認識する。
「・・・宇宙世紀179年11月・・・連邦と新生ジオンの戦争。それも空白の2ヶ月と呼ばれた時期・・・か」
 だからといって安心できるのかというと一概にそうとは言い切れないが、停戦期を迎えているということだけを考えれば下手に動かない限りはまず大丈夫だろう。無論、下手に動かなければ、ということはキセア捜索すらも出来ない状態にあるということではあるが・・・。

 こういうときは運悪く勢力の包囲網に引っかかってしまうもので、早速戦闘配備を布いて現れたのはLジオン軍の面々だった。さらに運が悪かったのは、その相手がLジオン軍内でもトップクラスのパイロット、グロリア=アーティレイ率いる部隊だったことだ。
「・・・見ない顔だねぇ」
 長い前髪をかき上げながら、鋭い眼光をCヴィック、及びその先端に接続されているストラテーゴスへと向けるグロリア。
「姐さん、どうします?連邦の新型かもしれませんよ」
 一向に動こうとしないCヴィックを取り囲むようにMSを展開するグロリアたちだが、Cヴィックに攻撃の意思がないことを察したのか、グロリアは構えていた砲を下ろし、回線を開く。このグロリアの行動に一同は目を疑っていた。明らかに『いつもの彼女』ではない。
「姐さん・・・悪いもんでも食ったんですかい?」
「やかましいね、セドリック。私だって少しは物分りのいい人間だと思ってるんだがね」
「し、しかし・・・!」
 セドリックはどうしてもCヴィックの存在を敵視せざるを得なかった。レーダーにも映らずに突如として現れたこのMSに不可思議な点は多い。まして白い機体だ。いくら停戦状態にあるとはいえ奇襲攻撃を仕掛けてくるなら絶好のチャンスだ。自分たちならタイミングがタイミングならそうするに違いない。
「いいんだよそれで」
 と、セドリックに一声かけると、グロリアは単刀直入にフェリオに問う。
「用件を言いな。できることがあればやってやる。できないことは自分でしな」
「これを追っているんですけど、見たことあります?」
 通信回線を使ってキセアの画像をLジオン軍MSのモニターに投影させる。グロリアの質問も単刀直入なら、フェリオの用件も実に単刀直入だ。Lジオン軍側からの回答には数十秒とかからなかった。
「・・・知らないねぇ。少なくともうちらの中でこれを見た者もいないそうだ」
「そう、ですか」
「連邦の奴らに聞いても同じだろうに。それにお互いにこんな小さいものに気を留めてるような時期でもないだろうしねぇ」
 やはりアグゼの力なしではただの無駄足になってしまうことを改めて実感する。唯一の希望だったゼロの干渉も航行時にはなかったし、残念ながら彼女がこの世界ですることは、この世界に別れを告げることだけだ。
「失礼します」


 空域からCヴィックが姿を消したことを確認するとグロリアはMSを戦艦へと帰艦させようとするが、それを制止したのはやはりセドリックだった。あんな素性の知れない者をここで始末せずに逃がしたことに憤りを感じていたのだ。
「セドリック・・・お前はわからなかったのかい?」
「・・・え?」
「やつの性能だよ。お前はここで始末しておくべきだったと言うがね、やつが手出しをしてくれなくて正解だったよ」
 自力でこの空域に侵入し、そして自らの足でこの空域を去ることが出来るような機動力。レーダーに映らずにいきなり現れた特異性。聞えたのは若い女の声だったが、嫌というほど感じられる異質なオーラをグロリアは感じ取っていた。もし部下の誰かが先に手を出していたら、ここにいる部隊は一瞬で全滅していただろう。

 まさに次元の違う存在。

 それを信じたのがグロリアだったというわけだ。いつもの彼女ならそんなものは信じもしないのに、今日に限っては彼女のほうが異質だったように感じる。Cヴィックには不可思議な点が多いと思っていたセドリックに対し『それでいい』と答えたグロリアはCヴィックのそういった素性を感じての発言だったのだろう。不可思議なことは不可思議なのだから、下手に手を出さないほうが身のためだった、と。
 たった数分の出来事ではあったが、この数分の中の駆け引きで、もしかしたら彼女たちは命を落としていたかもしれない。戦争という世界に身を置く人間が常に背にしている死のキーワードを再度呼び起こされたような時間だった。
(全く・・・強運だよ)