「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第26回更新分
私たちは、
ミュナちゃんの通っていたハートリブ学園の学生寮の応接室で、こんな知らせを聞くためにがんばってきたんじゃない。
「概念」と戦ってからの一週間、やっとの思いでここまでたどり着いたっていうのに──
墓前でリュウエは、彼がミュナに買い与えた麦わら帽を両手で胸に抱きしめ、ポリキャップのへたったガンプラよろしく、地に伏せ、項垂れ、ただただ泣きじゃくっていた。
そんな彼の意外な反応に、アリスも一旦は戸惑いを感じたが、辺りを支配する悲しみへの共感をもって受け入れられた。
アリスは出会ってから、彼には(彼自身は以前からそうだろうか)まるで彼女(他人)には負けまいと気丈に、猛々しく振る舞っている印象しかなかった。
それが今は、触れただけで粉々に砕けてしまいそうな、脆く儚い消し炭のように。
国境でラムダと別れ、マカリア軍の兵員輸送車に二人きりで閉じ込められてきた三日間の車中でも、万が一としてこのような場面をアリスは夢想してみたこともあったが、想像は現実とまるで当てはまるところがなかった。
彼女の考えたリュウエ像では、まるで正反対の、憎悪に燃え、怒り狂う反応と予想していたのだが。
今後そういった反応も現れるかもしれなかったが、今の彼は、まるで母親を失った幼子のように、はたまた我が子を亡くした親のように、悲しみに押し潰さるだけの弱く哀れな存在だった。
三日前、
国境で足止めを受けていた私たちのところに、ミノフスキークラフトらしい空中浮揚で巡航中のマカリア軍の空中空母(大きさがなんと〈ドゴス・ギア〉くらいある巨大さだったんでビックリした。リュウエは戦艦が空に飛んでるのを見るのすら初めてなんで、私よりもずっと驚いてた)がたまたまやって来て、ちょっと強引にではあったけど、なんとかこっちの事情を聞いてもらえたんだけど、その空母にはリュウエたちの組織(マカリアにとって同胞)についての事情に詳しい司令官が乗っていて、その人(が、またいい人なの。ナイスミドルってやつね)の計らいで、この首都までくることが出来たんだけど、空母は巡回任務中だから首都に戻るのが車でまっすぐ行くのより一日遅くなるって説明されたら、リュウエが『一日も早く!』っていうんで特別に車まで用意してもらえたのはいいけど、それがすごく大変だったの。
ただ、国境までの三日間も交代で車を運転しながら道なき道の旅だったんだから、舗装された(途中まではされていなかったけど)道はあるし、運転もオートだしトイレもついてるし、楽かなって安請け合いしたのが間違いだった。まさかノンストップの旅だなんて思ってなかったから。
食事をするのも、トイレをするのも、寝るのも、兵員輸送装甲バスに揺られながらだったの、もう、着いた頃には流石にもう車はウンザリってなったよ。
その日は、ミュナが使っていた部屋がまだ空きだったので、アリスは学生寮側の好意に甘えて泊まることにした。
寮母たちの助けを借りて、泣きつかれて眠っているのか、悲しみに気を失っているのか判然としない骨抜きのリュウエをなんとか部屋のベッドの上に寝かせた。
「応接室で良ければお貸しますのに、本当によろしいので?」と品の良い寮母が慎ましやかにアリスに問うた。
「ええ、まぁ多分大丈夫とは思うんですけど……」
アリスは言葉の途中でちらりとベッドの上のリュウエに目をやった。
「……心配なんで看てようと思いますから」
寮母も心配そうな目でリュウエを眺めていたが、やがてアリスに向き直り深思する瞳が、とても印象的に感じられた。
「では、こちらへ応接室の長椅子だけでも運ばせておきましょう。アリスさんお食事は?」
「え、あ〜、どうしようかなぁ……」
「せめてあなただけでもちゃんとお摂りなさい」
広い食堂で独り、
見た目には質素だけど、味も栄養バランスも抜群な食事を済ませて部屋に戻ると、既に長椅子と毛布と枕が用意されてた。
この三日間は完全に二人きりだったけど特に意識なんかしなかったのに、改めてこう、ちゃんとした部屋に二人きりで、泣きつかれてベッドに横たわる彼を見ていたら、なんだか少しドキドキしてきた。
そしたら、さっきの寮母さんの目を思い出した。もしかすると、あの目は私たちのことを勘ぐっていた目なのかもしれない? まさか。だとしたら、私はどう見られたんだろう? でもここでこうして容認されてるってことは信頼されたからなのかもしれない。
でも、さっきまではそんな、ちっとも意識なんかしていなかったから大丈夫だっただけで、今はもう駄目かもしれない?
だって、今までずっとリュウエはきっと、ずっと、背伸びして一生懸命にがんばってたんだから……強がって、だから、かわいくて……どうしよう──
部屋の明かりを常夜灯におとすと、アリスはそっとベッドに近づいて、今は幾分穏やかになったリュウエの表情を覗き込むように顔を寄せる。ゆっくりと静かに、起こしてしまわぬように。
落ち着きを取り戻した彼の寝息が、アリスの前髪を揺らした。
『そんなのダメ、ただ同情しているだけなんだから』と頭の中で理性が火花を散らすも、子宮からあふれる性への好奇心が、それを凌駕していく。
頬でうっすらとリュウエの体温を感じ始めた刹那、彼が鼻をすすったのに驚き、アリスは体を硬直させた。
背筋が凍り、息をするのも忘れ、目だけを動かして周りを警戒した。
誰かに見られている訳もなく、リュウエも眠ったままだった。
ホッと胸を撫で下ろし、呼吸を取り戻すと、彼女は顔を少し歪めた。
「……ニオウ」
静かに立ち上がり、腕を上げ、嗅いでみると「やっぱり」とつぶやいた。
「臭う」
ミュナにあてがわれていたこの部屋にはユニットバスが施設されてあるのを今更ながら思い出し、アリスはシャワーを浴びた。
溜まった垢とともに、あの妙な身体の火照りも洗い流されていくように感じながら、アリスはほぼ一週間振りに浴びるシャワーの肌をうつ感触にうっとりしていた。
蓄積されていた疲労も暖かいシャワーに揺れ踊る皮膚をとおして体外へ滲みだされ、彼女の白い肌をつたい流れ落ちる湯とともに流れさってくれているようだった。
シャワーをとめると外で泣き声がしているのに気づいた。
アリスは濡れそぼったままバスタオルを体に巻いただけでバスルームを飛び出す。
悪夢にうなされたのか再び悲鳴をあげるリュウエ
思わず駆け寄って抱きしめるアリス。
胸の中で泣きじゃくるリュウエの震える肩を、背中を、腕を、撫でてやりながら精一杯慰めの言葉をかけるアリス。
彼の頭に頬をのせ、尽きた言葉を繰り返すうち、アリスの手の動きは自然と止み、代わりに彼女の頬で、彼の額を撫でるような仕草に移っていった。
鼻や唇の端が彼の額に触れるほど彼女の動きが大きくなるのに反して、その思考力は低下する一方だった。
リュウエを包み込む彼女の身体に伝わる彼の質感が、体温が、重さが、匂いまでもが、彼女をロゴスから引き離し、パトスに溺れさせていく。
頬と頬を触れ合わせ、鼻を擦れ合わせ、やがて唇同士が触れあい、一瞬の戸惑いの後しっとりと重なった。
翌朝、部屋にリュウエの姿はなかった。トイレにも姿は無く、置き手紙も無い。
昨夜、リュウエを寝かしつけた後、興奮で眠れなかったアリスだが、明け方には眠りこけていたせいだった。
この一週間、まともに熟睡していなかったせいか、リュウエの動く気配に気付きもしなかったことに彼女は舌打ちをした。
急いで身支度をし、部屋を出ると丁度、朝食の用意ができたと知らせにきた寮母に、彼が朝早くに墓地へ向かったと知らされた。
「せめて朝食くらいちゃんと摂りなさいと申しましたら、妹さんのお墓にもう一度参ってから摂られるとおっしゃるのでそのまま見送りましたが、少しは回復されたご様子でなによりでございますね」
『少し回復した様子』というフレーズに、アリスは少し得意気な気分を得たが、すぐにふっと、頭蓋の内側にへばりつくような暗い感情がわきあがるのを感じた。アリスにはすぐにそれがミュナへの嫉妬だと気付き、そんな感情を紡ぐ自分自身に嫌悪した。
思いっきり頭を振ってその忌まわしき感情を払おうとするが効果はなかった。
が、その代わりに、ある極単純な疑問が鎌首をもたげた。
墓地にいたリュウエは、昨日と違い、しっかりと自らの脚で立ちすくんでいた。
「リュウエ、ミュナはそこにはいないのよ」
足音などで気付かれる前にと、ある程度はなれたところからアリスは声をかけ始めた。
リュウエは肩越しに振り返ってアリスの存在を確認はしたが、目を合わそうとはしなかった。そんな彼にアリスは胸をつまらせながらゆっくりと近づいていった。
「ミュナは死んでなんかなかったのよ」
流石にこれには眉をピクリと動かしたが、それ以上の反応はなかった。
先ほどまで、あれほど目を見つめあわせたて話したいと感じていたアリスだったが、彼に近づき、その表情に後ろめたさが滲んでいるのを見て取ると、彼女もなぜか、気まずい気分になっていった。お互いに伏し目がちにミュナの墓碑に向かいならんだ。
「今……今さっき知ったの。寮母さんに聞いてわかったの。ミュナは死んだんじゃないって、消えたんだって」
アリスは大きく深呼吸した。『おちついて』と自分に言い聞かせながら。
「どうなったのかはまだ、詳しくわからないけど。ミュナは、私がここに、この世界に来たみたいに、別の世界に飛ばされちゃっただけみたいなの」
アリスはそこまで言うと一度息をついた。彼の口からなにか返ってくるかと期待したが、それは外れ、リュウエにアリスの声が届いているのかさえ怪しい様子だった。
「ここの人たちは、そんな不思議なことに慣れていないから、突然の落雷で彼女が死んだと思ったのよ。死体なんてなかったのに」
(死体がなかったとしても、雷に打たれたんなら無事では済まないんじゃないのか?)
「ちょうど一週間前、わたしたちが『概念』を倒したときにね」
(やつを倒したからミュナは死んだ?! じゃあ、俺たちがミュナを殺したってのとかわらないじゃないか!?)
「どういう因果関係かはわからないけど、ミュナはまだ生きてるの、きっと」
(きっと? じゃぁ、きっと、今はもう死んでるのかもしれない?)
「ねぇ、何か感じない? 死を受け入れて悲しむんじゃなくて。あなただけがミュナを探す受信機であり得るのよ。まだ希望はあるの、あきらめないでがんばって。おねがい、いつものリュウエに戻って」
不意にアリスたちは暗い影にのみ込まれた。
空を見上げると巨大空中空母が彼女らの上空を首都郊外にある空港へ向けランディングポジションで進入しているところだった。四日前にアリスたちが国境でみた、あの空母だった。
「そうだ、先ずあの物わかりの良さそうな司令官に話を聞いてもらって、それから考えよ? きっとミュナを探し出す方法がまだあるはず」
リュウエを引き摺って寮に戻り、世話になった寮母に心からの礼と別れを告げ、二人は空港へ向かった。
この朝の時間帯なら、学園前から空港方面へ五分おきに無料の公共バスが出ており、それに乗れば乗り継ぎなしで四十分だという。
先ずバス停に到着したバスは直線距離で空港へ向かうのではなく、一度市街中心部を経由して空港に向うものだった。運転手に聞くと、このバスが空港へは後に来る直行バスより先着するとのことで、アリスはリュウエの手を引いて乗り込んだ。
窓際に座ったアリスは、町並みが徐々に近代化していき、高層建築に取って代わられていくのをぼんやりと眺めていた。
二人がバスに揺られて三十分ほど、市街中心を折り返してしばらくのところで、アリスは、青く澄んだ空に黒い穴があき、ぐんぐんと渦巻きながら大きく広がっていくのをみた。
漆黒の穴の中には、青紫の竜が群れをなしているかのような稲妻がほとばしり、その暗闇の淵から黒い人影がわらわらと零れ落ちてくるのがみてとれた。アリスの場所からでは遠近感がつかみづらかったが、恐らくMSサイズの人型だろうと彼女は判断した。
空港からオレンジに輝く光の航跡がそれらを迎え撃つべく大空に幾つも放たれ始めた。
マカリア軍の対空砲火のほとんどは撃ち漏らすことなく、降下する黒い影を捉え、まばゆい光と黒煙をなす爆発に変えてしまえたのだが、如何せん零れ落ちてくるMSの数が多すぎて、降下を完全に食い止めるには至らなかった。
ちょうど信号で停車したアリスたちのバスのほんの数百メートル後方、信号待ちの車の列のさらに後方にも、黒いMSは四本の青白いブースター炎を吐き、街路樹を燃やしながら降着をとげた。
無事落着したMSは降下用のブースターとプロペラントを路上に脱ぎ落とすと、運悪くその一つが反対車線で信号待ちをしていた車を踏みつぶし、爆発炎上した。
黒いMSはその黒煙をマントのように背になびかせ、空港へと歩み始めた。
「こっちにくるぞ!」
窓の外、路上にいた若い男が叫んだ。
「もしかてあれって、翼とか無いけど、黒Gエボ!?」
声にするつもりは無かったが、思わず出してしまっていたのだろうアリスの声に反応して、最後部に陣取っていた厚化粧の太った女性がいぶかしげに窓外のMSとアリスを見比べていた。
目抜き通りに舞い降りた黒く巨大なMSを見上げ、出勤途中の慌ただしい時間帯の中を往く人々が、口々に悲鳴をあげ逃げ惑った。
ダンプカーをも凌ぐ巨大な足が上下し、車列を踏みつぶしながら、着々と歩を進める。下にいる車も人も、まるで蟻かなにかのように何の気兼ねも無く踏みつぶして。
バスの中も阿鼻叫喚、最後部にいたおばさんを先頭に、乗客は我先にと押し合いへし合い一つしか無い乗降口へと押し掛けた。
腑抜けたリュウエの手を強く握りしめ、アリスも懸命に出口へ向かったが、乗降口は一時に押し寄せた人で詰り、ほとんど進まない始末だった。
しびれを切らした人は、窓を開け放ち、そこからの脱出を試みていた。
アリスもそれに習い、右手の窓を開け、リュウエを先ず促した。しかし、リュウエは何の反応も示さず、項垂れたままだった。
仕方なく、窓際の席にリュウエを座らせ、先ずは自分から窓を飛び出した。
路上に飛び降りるとすぐさま振り返り、バスの窓にしがみつき、リュウエの腕を、服を掴んで引き出そうとしたが、アリスの思うままにはいかなかった。
それでもすぐに、バス内にいた恰幅のいいスーツ姿の中年男性がアリスの悪戦苦闘に気付き手伝ってくれた。
男性に脇を抱えられ足から窓の外へ吊るされたリュウエを受け止めた時、アリスはよろめき尻餅をついた。
ふらふらとリュウエに肩を貸してやりながら立ち上がると、ちょうど助けてくれた男性も窓から脱出を終えたところだった。
アリスは心ばかりの会釈を男性に向けたが男性は既に走り出していて受けてもらえなかった。
だが、その訳はいうまでもなく、空から降ってきた黒いMSがもう、地上にいるアリスたちからは全体像を見ることの出来ないほど間近にあったからだった。
慌ててアリスも駆け出すが、他の人々のようには進めない。リュウエが枷となりアリスを進ませないのだ。
しかし彼女は彼を憎まず、己の不甲斐なさを呪った。
こんなことならリンにいつも言われるようにまじめに体を鍛えておくべきだったと。
皆が逃げ進む先、空港方面、黒いMSが向かう先、交差点のビルの陰から白いMSが横っ飛びに現れると、左腕を前に突き出す。
それを呆然と眺めるアリスの後方で、轟音とともに熱波の嵐が巻き起こり襲いかかってきた。
白いMSの三角形にならんだ三つの砲口から黄色いメガビームの光弾を〈ドライセン〉のマシンガンよろしくまき散らされるのを視界の端に捉えながら、アリスたちは地に伏した。
一連の嵐と轟音と地響きが収まり顔を上げると、辺りは鈍色の靄に包まれて曇天のように暗く、鉄工所を思わせる鉄や油の匂い、それにイオンの臭気や様々な石油加工品の燃える匂いが混ざり合い漂い、あちこちでオレンジの炎がチロチロと蛇の舌のように燃え踊っていた。
「さっきのって──」
声を出したはずみで煙を少し吸い込んでしまったアリスは咳き込みながら靄の奥、白いMSが現れた交差点に目を凝らすと、空中にオレンジの『/(スラッシュ)』がぼんやりと輝いて浮かんでいた。
(ビームサーベルによる切断面? 袈裟切り! で、これって連盟MS候補だったイブンブロウじゃなかった?)
ほとんど真上を見上げると、黒いG・エボリューション(元連盟MS候補)の廉価版と思しきMSは右腕を切断され、その断面が前方のイブンブロウのそれと同様まだ赤熱し闇に浮かんでいた。
そしてその切断された腕は、彼女の右前方のビルにめり込み、それによって生じた瓦礫がその下の路上に散乱し、逃げ惑っていた何人もの人々が下敷きになってしまっていた。
アリスが感傷に浸る間もなく状況は展開していった。
彼女らの後方から凄まじい光が浴びせかけられたと同時に黒いG・エボリューションの胸から上が強烈な光を発して消えた。
と、次の瞬間には巨大な戦闘機がアリスたちの頭上を低空飛行して過ぎていく。
辺りの靄が一気に晴れ、辺りが急速に色を取り戻した。
飛び去った影を追うと、それは大きく旋回し、彼女らの方へ戻ってくるように思われた。
巨大な、MSフライトユニットのようなものに、アリスのイメージカラーをまとったMSが乗っていた。
「ティル・ヴィング! ラムダさん?」
ティル・ヴィングを乗せたフライトユニットはその行く先々で浴びる対空砲火をかわし、アリスの正面からこの目抜き通りへ高度を下げて進入してきた。
「ここにランディングするの?! にしたら速度が速すぎるよ!」
と、交差点の向こうでそれはほぼ垂直に急上昇した。
アリスが悲鳴を上げる間もなく、そのフライトユニッットの黒い影は、そのシルエットを人型に変化させ、降着姿勢のまま固まっているピンクに染まったティル・ヴィングを抱え、アリスたちのすぐ横へ四車線向こうの中央分離帯をまたいで着陸した。
黒い可変MSはティル・ヴィングをおろすと、片膝をつき降着姿勢をとると胸の装甲がスリーアクションで展開し、その中のハッチが開いた。そこから顔を出したのはやはりラムダだった。
アリスが骨抜きのリュウエを抱え駆け出すと、ラムダもコクピットから降り、あわてて駆け寄ってきた。
「アリスさん! リュウエのやつ一体どうしたんだ。怪我でも?」
ラムダは空かさずアリスとは反対側からリュウエを支えた。
「いえ、その、えぇ〜、ちょっと、心を、っていうか心の病ってやつです」
「情けない……」
そういうラムダは訳知り顔だった。
「ということは、ミュナにはかわいそうなことを──」
「いや、その、まだわかりません。ううん。きっと、ミュナちゃんは生きています! 絶対に!」
ラムダはアリスの勢いにキョトンとした。
「ああ、そうだな。(本当に、なんと前向きなお嬢さんだ!)それに引き換え、こいつは全く……ミュナの事が絡むとどうしようもない。本当に情けないやつだ。アリスさんには本当にご面倒をおかけしたことでしょう? 誠にかたじけない」
「いえ、そんなこと……(やだ、熱い)」
ラムダに合わせていた焦点がその間に項垂れるリュウエに移り、その唇がアリスの視界の中で急にクローズアップされ、自分の顔が紅くなるのが感じた。ラムダに気付かれまいと顔を大きく逸らした。
「それよりこの子……」
とアリスがアゴでさしたのは勿論、見たことの無い可変MSだった。
「あぁ、こいつはリュウエ用にと調達してきた新型、『ヴィング・オルマイズド』だ」
「ヴィング・お……」
「私は『ヴィング・O(オー)』と呼んでいる」
「さっきの攻撃も?」
「ええ、こいつのバスターライフルで……。それより急ごう、ここはもう危険だ」
顔を逸らすのは今ではラムダの方だった、アリスの頭の中には多くの謎が渦巻き、このままはぐらかされるのではという不安がわき起こったものの、確かに今は、どうしようもなかった。
一刻を争うという風に、ラムダはヴィング・オーの掌からオートリフトでコクピットへあがった。
「こっちはかなり狭いんでな、ぼんくら(リュウエ)はアリスさんの方でお願いする」
とラムダは口端を上げて笑うとコクピットに消えた。
「(なに今の笑い?)って、ちょっと、そんな、困りますぅ!」
(とかいいつつ嬉しそうでなにより)
とほくそ笑み、コクピットの全周天モニターごしにアリスたちを見つめ、ヴィング・オーの指で器用にリュウエの蕩けた体をティル・ヴィングに収めるのを手伝ってやった。
「後は若い人同士でってか」