「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第27回更新分


「以前の僕が作り出した時間軸、つまり姉さんもアリスもリンも死んで遺跡の起動ができなくなる歴史と、連盟は残ったが僕たちが死んでしまった歴史。その分岐の鍵がなにか、わかるだろ?」
「...わたくしですわ。」
「そう。新たな歴史が生まれて、連盟の遺跡と三人が僕たちの手に入ればいいんだ。頑張ってくれよ、マ・サンキエム。」
「ええ、失敗はしませんわ...それよりもゼロ、発音が上達してますわね。」
「さっきまで火星フランス語なんてものが公用語のところにいたんだ。準備は全て整ったよ...もちろん君の新しい身体も用意した。」
「この身体はこれで気に入ってますの。特に胸とか。」
「僕は前の君のほうが好きだよ。」
「別にあなたに好かれても嬉しくありませんわ。似ているのは顔だけですもの...まあ、でもどうしてもというならもとの身体に戻りますけど...」
「君の好きにするといいさ...そうそう、もしかしたらそろそろ前の僕がそっちに現れるかもしれないよ。今の僕たちの敵か味方が、それはわからないけど。」
「前の?ああ、八回目のですわね。えっと、アルパ、ベータ、ガンマ、デルタ、エプシロン、ディガンマ...」

***

レーンはウィンストンからの通信を受け取る代わりにゼロとの通信を切断した。

『レーン、そろそろ見えてきたぞ。ブリッジまで来てくれ。』
『了解しましたわ。』

この小さな――Cヴィックよりもさらに小型である――宇宙船『イノピナップ』は連盟本部からルナツーへ向かっていた。船員はウィンストンとレーンだけで、彼らの補助はレベッカと名づけられたコンピュータがこなしている。
連盟本部で、捕虜であったトゥイレッティ・ダンセが独房から脱走した事件からすでに一日が経つ。言うまでもなくダンセの中身はレーンの中にあり、その信じ難い事実に連盟本部は既に気づいていた。
しかしそれはこの船がルナツーに向けて出発した後で、またこの船の管制を全て任されているのはレーンなので彼女のことがウィンストンに伝わることはない。

「ルナツーからの物資支援の条件が輸送艦の先導なんて可笑しな話ですわ。」
「今回は私のつてで無理を頼んだんだ。しょうがないさ。」

二人はそんな会話をして少し遠くに見えるルナツーを眺めた。
このルナツーは、よく知られているルナツーとは僅かに異なる。というのもそもそもこの連盟世界が、多数のオリガン世界が重なった交差点の部分にある世界であるということが要因である。つまり各オリガン世界の『最大公倍数』がこの連盟世界なのだ。
そしてウィンストンたちの目の前にあるルナツーは、現在はほぼ企業のような形態を採っていてモビルスーツや僅かに戦艦などを生産している。

「例えばあれが、ナンバーズに掌握されたら連盟は負けたも同然ですわね。」

レーンは不適な笑みを湛えて言った。もちろんウィンストンには気づかれぬように。

「そうだな...今回の件にはまわりの国も不介入を明言しないながらも決め込んでるから...いや、少なくともあの三人が戻ってこれたなら希望はある。」
「大丈夫ですわ。あの三人はすぐに戻ってきますから。」

レーンにはその確信があった。少なくともリンは必ず返ってくるはずだ。

――彼女には八回目のゼロが付いているのだから。

***

/* 過去に興味がなかった、それは少し間違いだろう。
彼は過去にしか興味がなく、それを手に入れるために未来を追わなければならなかったのだ。 */


ミラージュたちが次々ヴィヨンのエオローと、死んだはずのパトリオティック・ダンセのアンスールに消されていった。
エオローが片鱗、『フイェレン』を使い自在に位置や攻撃方法を変え翻弄し、アンスールが蒼穹、『ヴォーラヒムラルナ』を使いその火力で確実に墜とす。ナンバーズ側はたった二機であっても戦力差は全くない、いやむしろ圧倒的な優位さえ感じさせた。
もちろんパトリオティックの『身体』は死んだ。しかし彼の記憶や思考は全てコンピュータにバックアップされ、彼は今情報の海にいる。これはことモビルスーツ運用に関しては非常に大きな成果があり、アンスールの最大加速にも耐えられるようになって彼は発光ダイオードを点滅させるほど喜んでいた。

一方、レグナムのオーフェンとウルスラのクオンは歯を食いしばりながらなんとか生き残っていた。特にウルスラはエオローの懐まで迫り猛攻の勢いである。図式的には極自然なことであった。ニュータイプであるヴィヨンをウルスラのEXAMが感知し、その排除のために動いているからだ。

ウルスラの左腕にあるビームカノンから放たれた三発の弾の内一発がエオローの脚部に着弾した。しかし大きなダメージにはなっていないようで、エオローは構わず四機のフイェレンを展開してその全てからウルスラにビームを放った。ウルスラは回避行動の末に、エオローと同じように左足にそのビームを食らうが、こちらは足を失ってしまう。
さらにエオローは別のフイェレンを剣状に展開してウルスラに斬りかかった。ウルスラは両手にビームサーベルを持ちそれを受け止めたが、背後にさらに別のフイェレンを感知すると即座に左肩のビームカノンでそれを打ち落とす。

オーフェンはすぐにでもクオンのウルスラの援助に向かいたかったが、それを厚い壁のようにアンスールが阻んでいた。
こちらはエオローとウルスラの戦闘とは対照的にかなり間合いを取って行われている。いや、レグナムはアンスールへビームランサーを突き刺そうとしていたが、アンスールの弾幕じみたミサイルや機関砲に邪魔をされて近づきたくとも近づけないのだった。
仕方なくレグナムも射撃戦を試みるが、あと数発でレグナムのショルダーランチャーは弾が尽きてしまうところまで追い詰められていた。

「クソッ!!」

オーフェンは最後の弾を送り出し、右手のビームランサーに加えて左手にサーベルを持ち、シールドを構えてアンスールに彼が耐えられるギリギリの加速で向かった。
シールドは機関砲の弾の雨の中でみるみるうちに破壊され、ビームランサーの間合いまであと少しというところで破棄された。だが構わずオーフェンは加速を続けた。

「オオオオオオッ!」

咆哮と共にさらに加速度を上げる。酷く頭と肋骨が痛んだ。
レグナムはついにアンスールに対してビームランサーの間合いに入り込み、渾身の衝きを繰り出す。
ビームランサーは見事にアンスールの腰部を貫き、オーフェンはアンスールを切断するために操縦桿を動かそうとした。
しかしオーフェンはアンスールの肩から延びた砲身がレグナムの胸部にぴったりと照準を合わせているのを見た。
その瞬間体は全く動かなくなり、喉から水気がなくなるのを感じ、月並みながら両親の顔が脳裏に浮かぶ。

そしてアンスールのヴォーラヒムラルナ――我々の空――から冷ややかな光が漏れた。


『オーフェン!!』

クオンが気づくと友軍機を示すレーダー上の青い点は全て消失していた。
怒りと虚しさがこみ上げたが、どう頑張っても涙は流れない。無重力の宇宙で、しかもノーマルスーツのヘルメットを被っている今涙を流せば前方の視界が悪くなる。それはつまり戦場において命を落としかねないために普段の訓練で涙を流さないようにメンタルトレーニングを彼らは行っていたのだ。
ほとんど狂戦士のようにウルスラはエオローに斬りかかった。それを余裕をもってエオローは受け止めた。
ウルスラの後方からは僅かに下半身を負傷したアンスールが迫る。しかしウルスラはバーニアを吹いてさらにエオローを圧した。
クオンはすでに死を覚悟している。ただ、自分が死ぬ前にせめて目の前の機体を墜としたいと考えた。

***

『おい、なんで援護しないんだ!?』

スキュルは数キロメートル先で起こっている連盟軍の危機を見てエータに叫んだ。

『...私のウルがあっても、あのエオローとアンスールが二機では到底勝てない。』
『なら私も戦うぞ!三対二なら大丈夫だろ!?』
『お前が?そんなこと』

できるわけがない、止めておけ。
エータがそう言う前にスキュルのゲルマニクスは戦場に向かった。ゲルマニクスの兵装はビームサーベルのみで、白兵戦はスキュルの苦手する戦いである。

「...ちゃんと掴まってろ、リン。」

リンは言葉なくただ頭を縦に振った。


アンスールのヴォーラヒムラルナは今度はウルスラに照準を定める。それによってウルスラと鍔迫り合いを続けるエオローは一度全てのフイェレンを機体に戻し、ウルスラを圧し返してさらにその場から離脱した。
それをパトリオティックが確認するとほぼ同時にアンスールのヴォーラヒムラルナは放たれる――はずだった。

「なんだ?」

クオンの口からは意識せずその言葉が漏れた。
ウルスラ、エオローのレーダー上、そしてアンスールの中にあるパトリオティックの意識の中に現れたモビルスーツ二機の内一機、非常に小さい機体、つまりゲルマニクスは左腕をアンスールの方向にかざして、ヴォーラヒムラルナから放たれたビームを受け止めていた。
クオンのウルスラに所々似た節のあるモビルスーツ、ウルは信じられない速さでエオローに迫り巨大な剣で斬りかかった。エオローは総数四十二機に上るフイェレンを全て用いてそれを受け止めなければならなかったし、それでもまだウルの『グラム』のほうが出力的に勝っていた。

『あなた、クオンさんですね!』

聞き覚えのある声だとクオンは感じた。というよりほんの数時間前に聞いた声だったが、僅かに大人びた気がする。

『オロール?そのモビルスーツは君が操縦してるのか?』
『えっと、半分私です。』

片腕を失ったスキュルの代わりに、ではなくスキュルの失われた片腕の代わりにオロールはゲルマニクスの操縦桿を握っていた。その様子は恐ろしく不恰好であったがスキュルが操縦を譲らないためにこうなったのである。

『雑談はいいから!少し退け、クオン。態勢を立て直すぞ。』

クオン本人よりも少々荒っぽい口調の姉もすぐにわかった。
彼は素直にスキュルに従い、敵の二機が両方とも見える位置に退く。
ゲルマニクスはビームを受け止めていた左腕を払うようにして下げた。腕にはかなりの負荷がかかっていたようで、下げると同時にゲルマニクスのコックピットには[オートパージ]と赤文字で書かれたウインドウが現れ――そしてスキュルに一瞬で跳ね除けられ――、左下腕部が廃棄された。

グラムの最大出力でフイェレンの展開したシールドを圧しきり、一瞬でほとんどのフィエレンを、ウルは破壊した。
それから動きの鈍くなったエオローを蹴り、その勢いも利用してウルスラのもとへ向かう。

『スキュル、ウルスラと一緒に跳ぶぞ!』
『跳ぶ?』
『崩壊前の連盟にだ。』

エータの言葉に、静かだったリンが反応した。

「ちょっとまってよ、スキュルの治療はどうするの?」
「完璧な義手でなくてもマシンアーム程度ならあの時代でも手に入る。全て終わってからまた治療すればいい。」

エータがそう言った直後彼のの右腕の端末が光った。その光はウルのコックピットを透過して、ウル自体を包むようにして光量を増し、またウルが触れたゲルマニクスとウルスラもその光に包まれた。