「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第29回更新分


 懐かしい・・・と言えばいいのだろうか。ガンダムネクサスのこの搭乗感覚は何物にも替え難いものがある。それが気持ちのいいものなのか、逆に不快を感じるものなのかさえわからない、ごく自然と一体になるというこの感覚に、実は未だに慣れていない。
「・・・ガンダム、か」
 ガンダムネクサスが降臨した様子をハガルを操るリュウエからも見て取れた。各部位が実態で繋がっていないという特異形状からは何が生み出されるのかもわからない。ただその姿が異様であるということだけはよくわかる。そしてそれがガンダムであることも。
 ブリッジで怯えるミュナには目もくれず、ハガルを下方へと押し進めるリュウエはもう1人の自分をこの手で葬ったことにより、唯一無二の存在となった。それがうれしくてうれしくてたまらない。一度は失ってしまったミュナを再びこの手に出来た喜び。しかももうあのリュウエはいない、今のこの自分だけがミュナを物にすることができるというその達成感に、顔が緩んで仕方がない。
「は・・・はっはははは!なんて『あの俺』は弱いんだ・・・!」
「いや!『リュウエ』は強かったよ!」
 慣れないそれを、しかし自らの手足を動かすのとなんら変わらない感覚でネクサスを動かして見せるのは日々の鍛錬以外の要素が確実に要因しているのは言うまでもない。

 それを客観視しているラムダでさえ、ネクサスに乗った途端に変わったアリスから発せられるそのオーラを感じられたほど。
「お嬢さん・・・やはりあなたにはあなただけに相応しいものがあったのだな」
 ヴィングでもなく、はたまたティル・ヴィングでもなく、ガンダムであることが、彼女の中の本当の力を引き出すのだと改めて実感する。あれだけすごいものを見せ付けられてきた。彼女のニュータイプとしての素質、メンタルサーキットへの順応も素晴らしかった。しかしそれは彼女の本当ではなかった。
「しかし・・・悲しくもあるな」
 彼女の本当の姿を見るためにはあんな兵器を介さないと見ることが出来ないとは、本当に悲しい。あのリュウエと戯れていたときのアリスですら、何かを出せずにいた彼女だったのかと思うと本当に悲しくて悔しい。

 逆に甥を失ってしまったことに気負いも、滅入りもしていなかった。戦いの中で親族を何人も失ってきた、彼もその中の1人という程度の感情なのだから・・・。

 ・・・と、これでで片付けられればよかったが、さすがにリュウエに関しては少々移入しすぎた感も否めないようで、リュウエが目の前で撃墜され、今この手の中にいることが本当に信じ難い。このマニピュレーターをちょっとでも動かして揺らしてやれば起きるんじゃないか。そう思えるくらいに彼の表情は柔らかで、しかし無念にも満ちている。
 ミュナが死んでいると知らされ落ち込んだことも、ミュナが生きていることをこの目で確かめ喜んだことも、そしてもう1人の自分と遭遇し戸惑ったことも、もう1人の自分に撃たれミュナを取り戻せなかった悔しさもことも、彼の今のこの表情が物語っているようだ。
「リュウエ・・・あのリュウエをお嬢さんはどうすれば、一番いい方向に向かうと思うかね?」


 激突を繰り返す2機。何故か銃火器を使用せず、接近戦だけを挑んでいるのは一番殺したという実感が沸きやすいからなのかどうなのかはわからない。これを吹っかけたのはむしろアリスだったように感じる。
「お前は俺を殺せるのか!?」
「あんたはもうリュウエじゃないよ!」
「・・・よく言う・・・!愛してたんだろう?『俺』を!」
「付け上がるな!」
 ガンダムネクサスのサーベルが執拗にハガルのコクピット周辺を狙い続けている。それが逆にガンダムネクサスの隙を大きく見せる結果となっていたのは言うまでもなく、簡単にハガルの接近攻撃を受け、空中から地上に叩き付けられそうになる。
(ネクサスの機動性に助けられた・・・か。クソっ!)
 地面すれすれのところでフルブーストをかけたことで砂や埃が一斉に宙を舞う。互いに視界を奪われた状況にもかかわらず、そこにハガルが上空から突っ込んでくる。
「俺もお前もやってることは一緒なんだよ!」
「私はあんたを殺してミュナを取り返す!」
「大きく出たな・・・俺が死ねばやつは哀しむぞ。何せ2回も『俺』が死ぬんだからな!」
 地面すれすれの場所で剣を結ぶ2機。機動性は圧倒的にネクサスの方が上だが、実戦経験と慣れがリュウエに軍配が上がっている状態にある。言ってしまえばアリスはまだネクサスと馴染んでいない部分が多く残ってしまっているのだ。平和ボケしてしまったと言ってしまえばそれまでだが、これなら日々の訓練をもっと真面目に受けておくんだったと、そんな過去の自分に腹を立てている。

 大幅に押されていることの原因の1つが彼女の戦術にあると思い知らされながらも攻撃法が先ほどとは大して変わらないことに、ラムダがそれを危険視する。
「いかん!お嬢さん!」
 ハガルの接近攻撃を横から機体をぶつけることでネクサスへの攻撃を逸らさせる。
「ラムダさん!」
「お嬢さんがこれ以上血で手を染めることはない、リュウエはこの私が殺る。それで幕引きとしようじゃぁないか」
 この機体でハガルには勝てないことは承知だった。それでもこう言っておかないと彼女のコクピット狙い一点張りの攻撃は変わってくれないだろう。
「リュウエを殺してもリュウエは帰ってこない。それをわかっていながらその手で殺そうとする・・・戦う者としての定めかね?」
 上空へと退避したハガルが次なる攻撃を仕掛けてくる、その頃合を見計らってラムダは同じく剣を抜き、接近戦を受けて立つ。




 懐かしい・・・と言えばいいのだろうか。
「ここか・・・」
 何故かそれを声に出してしまったことに、自身でも驚いている。恐らくこの言葉を言わせたのはやはりこの場所が懐かしいと思えたからなのかもしれない。あの事件から何日経ったのか、はっきりとは覚えていないが、今自分はオリガン連盟本部上空へと舞い戻ってきた。あの時となんら変わらない外観、のようにも見えるがエータはいつものように表情を変えない。やはり何かしらの異変が本部で起こっているのだろうと考えるのが自然というものだ。
「今はどういう状況なんだ?」
「・・・さぁな」
「何だそれは・・・」
 リンの少し困った顔が見たくて、わざといたずらな答えを言ってみるエータ。いつも感情の抑揚を見せない彼が、本部に戻って来れたことに安堵していたのだろう。心の余裕が彼をそうさせていたのかもしれない。
「いや、ちゃんと連盟本部だ。しかも『現在』の。ただ、残念なことにここを仕切っていたやつがいないようだな・・・」
「ウィンストンさんか?」
 そのリンの質問に、素直に首を縦に振れないのは仕切っている人間はウィンストンともう1人、フィリスがいたからだ。彼は彼女が他の世界へと飛んでいた時間を考慮し、ここで説明を入れて事態をさらにややこしくすることを恐れ、何も言わなかったのだ。

 勿論、『フィリスがいる』と言ったところで『誰だそれは?』と返ってくる可能性は大だっただろうが・・・。

「でも良かったんですか?この人連れてきて・・・」
 連盟本部が崩壊した後、月の地下にある基地に逃げ込んだクオンが崩壊前の本部にいるというのは自身に加え、リンもどうしていいのかわからなかったが、あの時はエータの指示で転送したのだから、この責任はエータにある。自分に非はない。あるわけがない。
「・・・あるわけがない」
「何言ってんだ?リン」
「ん?今なんか言った?私」
 どうやら考えていたことが口に出ていたようだ。面倒ごとが立て続けにやってきてはいっそ殺されて面倒ごとから解放される寸前まで達したこともあったが、しかしエータこそちょっと余裕のありそうな雰囲気もかもし出していたのに対し、リンはなかなか緊張を緩められなかった。何せ本部はこの後崩壊の道を辿っているのだから。
「『さん』を付けろよデコ助やろー!」
「うわっと!」
 振りかざされた細い腕を間一髪で退け、それをがっしり手で握る。
「・・・姉のほうか?」
「お前はリンより『下』なんだろ?なら『さん』を付けろよ」
 方やWebRing総括を担当する人間。方や本部護衛の1人。差は歴然。
 というよりはオロール姉妹の、リンへの愛情の差が歴然としている。

 どうやら物事を深刻に考えていたのは自分だけだったのだと、周りの様子を見て感じる。現に今は崩壊前の本部に来ていて、今からなら本部を崩壊させない道を進む事だって不可能ではないのだから。アンチナンバーズも全面的な協力をしてくれているし、Gグリッターも手の内にある。心残りなのはアリスとフェリオがこの場にないことだけ。

 しかし次の瞬間、エータが急に不調を訴える。がっくりと膝を突き、顔を上げることすら出来ないでいる。心配そうに駆け寄るリン、スキュル、オロール、そしてウルスラに乗っていたクオン。
「どうやらオリジナルの持ち主が介入を始めたようだ・・・!」
 未だに苦しさの抜けないその声は少し距離を置いたクオンには聞えないほど弱弱しいもの。
「何番が来る・・・?」

 例えば次元が歪んで、その歪からゆらりと体が出てくるとか、別世界への介入とはそういうものを期待していたが、残念ながらそうではなく、ふとした瞬間にその場に存在しているというのが正解のようだった。
 いきなり背後に現れた少年は無垢な表情で膝を突くエータの元へと歩み寄ろうとする。
「こんにちわ。正解はナンバー0でした」
「ゼロ・・・!」
 苦しそうに言うエータの今の状況を彼も察したようで。
「そうか・・・大変だねぇ、コピー物は」
 と、手を後ろで組みながら、今の自分よりも目線が低くあるエータを軽く見下している。

 彼の淡々とした口調からは何も感じられない。今すぐに自分たちを殺そうとするようなおぞましき殺気も感じられないのが逆に恐怖だ。これでは本部を目の前にして彼がこの場に現れた理由がわからない。エータが言うには『完全なままのシステムを得るため』に様々な時代へと赴いているという話だったが、自分たちをこうやって相手にしているように、即ち真っ先に本部へと向かわなかったということはここはすでにシステムが破壊された後の本部だと言うのだろうか。
「ゼロ・・・あんたの口から直接聞かせてもらうよ」
 彼の本当の目的を。
「そうだね・・・端的に言えば・・・」
 彼を目の当たりにする人間全てが、彼のその続きの言葉を固唾を飲んで待っていた。




 懐かしい・・・と言えばいいのだろうか。アグゼが月に行きたいとその方向を指したのは何日前のことだっただろか。
 あれからずっとアンテナに繋がっている世界に飛んではキセアの情報を集めていた。最大の情報源だったのはやはりフィットとの接触が大きかったし、あの時は彼が自分たちを転送させて『招かれた』形になったから良かったものを、恐らくキセアそのものは彼の手の内にある。手の内と言っても、支配下にあるといったほうがそれに近いか。
 アグゼを休ませるために自分の考えでアンテナに繋がっている世界とこことを行き来してきたが、ほとんどが無駄足に終わっている。そこで彼女はふと先のことを思い出してみたのだ。何故あの時アグゼが月に行こうとしたのか。

 それはもしかしたら実に簡単なことだったのかもしれない。
 月にキセアがいるから。
 これ以外に何が考えられようか。答えを導き出そうとするその道のりは複雑だとずっと思っていた。そしてその答えはアンテナの先に必ずあると思っていた。しかし答えへの道のりは至って簡単で、自分のそういった頑なな意思が答えへの距離を遠ざけていたのかもしれない。
「行こう、月へ・・・」
 傍らで調子を取り戻しはじめていたアグゼは彼女のその声に呼応するように手を上げて笑顔を見せてくれる。

 月への道のりは比較的近く、Cヴィックの機動性ならそれほど時間もかからずにたどり着ける。それこそシャワーを浴びていればその途中で着いてしまうくらい・・・と言うのは少々大げさだが。
 アンテナのリングを後方に、そして月影を前方に見やる2人。そこへ行けば事態は収束へと向かう。何もかもが元通りの平穏な世界へと戻る。そう思い、そう信じていた齢15の少女がいた。


 しかしその景色を見ていたアグゼは再び意識を失い、ブリッジ空間を漂う。フェリオもそれに続くように意識が徐々に遠のく。これは・・・この感覚・・・!
「フィット?!」
 暗転。そして次に目の前に広がった世界に彼女は驚愕し、言葉が出てこない。
「厄介だねぇ、アグゼってのは。どれだけ先を読んだのか・・・ふふっ僕でも驚きだよ」
 そもそもアグゼが月を指したのはフェリオたちが本部を発って宇宙空間に出て直後の出来事だった。フェリオは知りもせずに一番可能性の高いアンテナへと向かったわけだが、そのときに月には何もなかった。
 しかし後に月には何かが存在することになる。そこまでアグゼは読んでいた、いや、感じていたのだという。オリガン連盟本部が崩壊し、月へと逃げ込み、地下施設で黙々と力を蓄えてることになったことも、彼女は知らない事実だが、アグゼはそれを、そうなることをわかっていた上でのあの意思表示。
「残念だけど、君たちはまだそこには辿り着けさせないよ」
「くっ・・・!」
「あ、そうそう。いろんな世界に、いろんな時代の『僕』がいるけど『僕』はまだアリスちゃんに会ってないんだ」
「・・・言っていることがよくわからない・・・」
 何故彼の口からアリスの名が出てくるのか。そもそもいろんな時代の僕とは?彼は時間跳躍でも出来るのか?
 
 そして何より、この目の前に広がる世界は、何だ!?