「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第33回更新分


 ビームサーベルの出力を最大にしたハガルが今にもその刃を後方の戦艦ごと真っ二つにしようとしている最中で必死のアリスの説得は続いていた。この世界の『自分』を殺してこの世界のミュナを奪取した彼が、イマジナリー・ナンバーとしての宿命を感じてしまったのかどうかはわからないが先ほどと比べて精神的に不安定になっているのは明白だった。
「お嬢さん・・・もう何を言っても無駄のようだ」
「でも・・・!」
 それは彼に父親のように慕われていたラムダだからこその決断。彼はこの世界にいたリュウエが殺された時点で彼の叔父という設定を消去した。この世界のリュウエだったからそれを望んでいたのであり、いくら別の世界からリュウエが来ようとも、残念ながらそれは彼の知るリュウエではない。
 しかし『父親』としての後始末としてその道を選んだ、その思いだけは彼女に理解してほしかった。
「わかってくれるね」
「・・・なら、私がやります。今度はヘマはしません!」
「・・・期待しているよ」
 彼のその言葉を聞く前に身体は動いていた。再びネクサスを我が手足のように操り、ハガルへと突撃していく。が、このネクサスよりも先行してハガルに向かっていく機影を2つ目撃して彼女は驚く。それが街中で暴れまわっていたG・エボリューションとイブンブロウだったからだ。
「あんたがアリスか。随分無茶をする」
 それが今の行動に対してなのか、今の心境に対してなのか。そのパイロットのそっけない優しさが垣間見えたような気がした。
「お前は戦艦のところに行きな。アイツは俺たちが何とかしてやる」
「でも!」
「アイツに何を思ってるかは知らねぇが、この世界での重要人物はアイツじゃなくてあのお嬢さんなんだぜ」
 アリスの言葉による制止も聞かずに2機のMSはハガルへと突っ込んでいく。街中で単に暴れまわっていたときとはまるで違う動きが、先のネクサスの頭を押さえての進攻も含めて彼らが只者ではないことを気づかされる。アリスはすぐに進行方向を修正し、刃の光に怯えているであろうミュナの救出に向かう。


「雑魚が引っ込んでろ!」
 リュウエの逆鱗がリューネルトたちに襲い掛かる。ついにそのサーベルを振りぬいてきたのだ。このままでは戦艦ごと、アリスまでそれの餌食になってしまう。
「アリス!急げ!」
「え・・・!?そんな!」
 彼女の驚愕の声とともにその刃は振りぬかれた。大きな光の帯のようなそれをG・エボリューションとイブンブロウがそれぞれサーベルを交えて防ごうとするがあまりの強大なエネルギーの差は歴然で通常のサーベルならその効力を打ち消されてしまう。
「リュ、リュー姉!それ乗ったことあるんだろ?何とかしてくれよ!」
 接近戦主体のイブンブロウならこの状況を打破する力を持っているかもしれないと踏んだのだが。
「お前こそ。むしろそっちのほうがゴテゴテして強そうじゃないか。何かあるんじゃないのか?」
 互いに打破の策を擦り付け合っている。真っ先にG・エボリューションのほうが力尽き、マニピュレーターで何とか押さえ込もうとする。
「お前たち、そのまま耐えろ!」
 様子を見かねたラムダが沈黙している彼らのさらに上を飛び、刃渡り数百メートルはあろうサーベルを伝ってハガルの頭部をマニピュレーターで鷲掴みにし、踵で腕部を蹴り上げてサーベルへのエネルギー供給を切断する。
「ラムダ・・・!」
「自分が犯した過ちを自分で拭えんとはな」
 機体の出力に差はあるかもしれないが、基本的な駆動力の差はほとんどないのだろう、ヴィング・0のマニピュレーターでもハガルの頭部をそのまま握りつぶせる勢いさえ見せる。
「お前たち、さっさと手伝わんか!お前たちの仕事だぞこれは」
「一番おいしいところは俺たちに回してくれるってかい?おっさんよ!」
 イブンブロウよりも機動力に長けるG・エボリューションが先行してハガルへと突っ込み、上半身と下半身を分断してみせる。後を追っていたイブンブロウは得意の接近戦で刃を左腕部と胴体の付け根に刺し込むとそのまま機体ごと後方へと回り込ませ、バックパックを胴体から切りはなす。推力の大部分を今の攻撃で奪われてしまったハガルはヴィング・0に支えられているようなものだが、ラムダはその手を緩めてしまう。彼なりのけじめなのか、彼はリュウエを助けようとせず、彼をそのまま地面へと落下させた。

「駄目だよ!」
 白い機影が1つ、ラムダたちの下方を通り過ぎていく。落ち行くハガルの上半身を受け止めたのはアリスだった。リュウエとの決着を選択した彼女が、何故彼に手を差し伸べたのか。あのラムダでさえ募る思いを振り切って彼に手をかけたのに、彼女がここで救ってしまっては彼の立場が無い。
「どういうつもりだ?お嬢さん!」
「リュウエはここで死んじゃいけない、生き延びなきゃいけない!ラムダさん、あの戦艦にミュナはいなかったんですよ!
「な、なんと!」
 望遠モニターで見たときは確かにミュナはブリッジにいたし、それをこの世界のリュウエとも確認していた。それが何故か姿を消していたのである。思い当たる節は・・・。


「リュウエ、全部話して」
 コクピットの中で気絶していたリュウエが目を覚ましたのは街中にある病院の一室だった。病院とはいえ暴れまわっていたG・エボリューションとイブンブロウの攻撃によって半壊していたため、この病院も屋根が吹っ飛んでいたり、医療機器が使えなかったりと病院としての役割も果たせないような状態だったが、ベッドが生きていればまずはそれでよかった。
 彼の周りにはアリス、ラムダ。そして少し離れて女性と青年が突っ立っていた。表情は非常に険しかったが・・・。
「俺はまた何もかもを失ってしまった・・・」
「リュウエ、お前にはまだ生きなければいけない理由がある」
 ラムダが何かを諭すように言う。
「お前がサーベルでミュナの乗る戦艦を切ったとき、すでにミュナはそこにはいなかったそうだ。この意味がわかるかね?」
「・・・!」
 リュウエが表情を一転させ、上半身を起こした。彼にも思い当たる節があったのだろう。
「時空を移動できる力を持つ者の仕業としか考えられないだろう。お前も然り、そしてゼロも然り・・・」
「まさか・・・ゼロが・・・」
 不安なのか、それとも安堵したのか、なんとも言いがたい複雑な表情をしながらリュウエは脱力し、再び枕に頭を埋めた。彼女に不思議な能力があったからか、または別な要因があったのか。どちらにせよ自分たちの仲間内が手を出してきたのは確かである。
「私はお前を殺すつもりだったが、お嬢さんはそうしなかった。お嬢さんに感謝するんだ」
 アリスはリュウエに再び生きる理由と価値を見出させてくれた。この世界のリュウエを殺した罪はそれで償えないかもしれない。しかし彼はミュナを救い出し、この世界のリュウエの代わりとして生き抜くことこそが最低限の人間としての、そして兄としての償いとなるのではないだろうかとアリスは考えていた。
「ただのバカだと思ったが・・・」
「うるさいなぁ、さっさと体調を治してすぐにでもミュナを追うんだよ!」
「・・・わかって、いる・・・」
 彼の声が心なしか涙声になっていたのはこの一室にいた誰もが気づいていた。



「ところでさ、あんたたち誰?」
 ベッドから離れて突っ立っていた男女2人に対してアリスが言う。いきなりの参戦、援護、そしてここまでついてくる人の良さ。ここまでくればもう人が良い止まりの行為ではないだろう。
「あんたを連れにきた。それだけだ」
「私を?」
「ラムダのおっさん、あんた、まだ言ってなかったのかい?」
 エプシロンに問われたラムダは彼と一切目をあわさず、遠くを見ていた。この様子では彼の口から真実を語ることは辛かったのだろう。
「アリスって言ったっけか。あんたがいた世界が今超絶ヤバい。どれくらいヤバいのかってーと、そうだな・・・」
 彼は腕を組み、俯いていたが。
「世界が崩壊して、あんたたちの存在が消えた未来になる」
 どこかで聞いたようなフレーズを耳にして、彼女は目を見開いた。
「それ・・・ラムダさんが言ってたのと同じ・・・」
「なんだよー、言ってたんならそう言えよ。二度手間じゃねぇかよ」
 大げさに地団駄を踏むエプシロンだが、当のラムダは終始落ち着いた表情でその話を聞き、スッと立ち上がって自分はこの世界の話をしたまでで、今連盟が危機的状況にあることは伝えていないと改めて事の重要性を彼女に伝えた。
「もうリンは連盟のある世界に戻ってきてる。お前も早く・・・」
「待って、私はまだミュナを取り戻してない」
 この状況下で何を言い出すかと思えば、彼女もリュウエとともにミュナを探しに行くというのだ。
「おいおい冗談じゃねぇぞ!?」
「さっきはミュナのほうがこの世界では重要だとか言ってたくせに!」
「だからってお前が行く必要は無いんだよ。俺たちで何とかする!」
「信用できないねっ」
 一刻を争う中で何をふざけたことを言ってるのかとエプシロンは激昂するがそんな彼を手で制し、リューネルトが割り込む。しかもかなりアリスの耳元に接近し、むしろリュウエには聞えないように。
「アリス、わかってると思うけど連盟が崩壊した世界の未来がここの世界。でも連盟が存在する世界の未来はこうはならないの。わかるでしょ?リュウエもミュナも、もしかしたら連盟が存在する世界の未来には存在していないかもしれない」
「そんなの、そんなのわかんないよ!」
 リュウエやミュナがこの世界で生きていられるのは連盟が崩壊してしまったからこそ。もし自分が元の世界に戻って連盟が存在する世界にしてしまったら、彼女は結局彼らを殺してしまうことになる・・・そんな葛藤が彼女の中でずっと続いていた。ラムダがこの世界のことを話してくれたとき。そう、ミュナを送った空港からの帰り道でラムダと初めて出会い、この世界の実態を耳にしたときからずっと。
 だからこそミュナは自分の手で救い出したいのだ。リュウエの償いがミュナを救うことだとしたら、彼女もまたミュナを救うことで、もしかしたら連盟が復活してしまうことで彼らの存在を消してしまうかも知れない、その償いをしたかった。







 目の前に広がる世界・・・何の実感もなく、冷たく、存在すら感じ得ないこの世界を一言で言い表すのであれば白。真白なる世界がフェリオの目の前に広がっていた。ゼロの姿はまだない。彼の声が自分の中に聞えてくるような感覚に戸惑いながら、しかし彼女はこの世界が意識の世界であることに薄々気づいていた。
 しかしゼロの声は聞えるが、そのゼロの声に若干の戸惑いが感じられたのはどうやら彼女の錯覚ではないようだ。
「これは・・・僕の感情じゃない!」
 この真白な世界を自分の感情ではないと言い切るゼロは先ほどの意気揚々とした態度とは打って変わって、焦燥と不安に駆られたように情緒不安定になっていた。フェリオはそんな彼の複雑なる感情や意識がこの世界を形成していることを実感し、真っ黒の闇の世界ではなくあえて白い世界を映し出しているのは彼の中に救いの余地があるか、それとも彼が救いを求めているからなのかもしれないと思っていた。
「ゼロ・・・いえ、フィット・・・」
「ぼ、僕の名を・・・呼ばないで!」
 意識の世界であるこの白き世界がその言葉を皮切りに一気に一転の闇に吸い込まれていく。そして彼女はすでに自分の中に封印してしまっていた過去の光景を目にする。思い出したくも無いあの出来事を、弟であるフィットを失ってしまったときの出来事を彼女はもう一度見なくてはいけない、その苦しみに彼女は耐えねばならないと覚悟を決める。
「姉さん、辛かったら目を伏せても良いんだよ?」
 懐かしい声が彼女の鼓膜を振るわせる。しかもそれはゼロから発せられるものとは別方向からだった。
「・・・アグゼ!?どうして、声が!」
「ここは意識の世界。これは僕が発している声じゃなくて、僕の意識だよ」
 この存在感こそが弟であるフィット。目の前にしているゼロはフィットの姿をしているが、中身はまるで別物のように感じていたのはそのせいだったと考えられる。


「・・・そうか、アグゼ・・・!」
 ゼロの中にある感情を引き出していたのもアグゼだとわかると声色を豹変させ、怒りと憎しみに満ちた真っ赤な世界へと変貌させる。
「どうやら君を意識の世界へ引きずり込んだのは失敗だったようだ」
 そこにはすでに少年はいなかった。少年の姿をした、立派な首謀者にして戦に手を染めた人間がそこにいた。
「ゼロ・・・もう、終わりにしよう」
 そういえば眼鏡の存在をすっかり忘れていた。胸ポケットにしまいこんでいた、一度は破壊されてしまった眼鏡を久しぶりにかけると、彼女もまた連盟を束ね、組織の長を司る人間となる。今は戦を好み、好んで戦に身を投じる戦士。世界を守るため、そして弟を救い出すためなら鬼となろう。