「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第38回更新分
暗き回廊にて、エエタ佇みけり。
エエタ、独白す。
エエタ:
執務室 事務室 演算室
この連盟本館は昔から変わらないんだな
私が立つこの床も 全く素っ気無いままだ
壁は少々色あせたが...
フエリオ、回廊に入る。
やがてエエタ、フエリオに向き直りていひけり。
エエタ:
何かあったのか?
顔色が悪いぞ
フエリオしばし考察し、エエタがその言に答ふ。
フエリオ:
大丈夫よ さっき薬を飲んだから...
あなたから私に話しかけるなんて初めてね
エエタ:
いや... お前に死なれるのは困るからな
それよりアリスから連絡は?
フエリオ頭を静に振りけり。エエタ、目を細め、鼻より深き息吐く。
さてフエリオいひけり。
フエリオ:
私はこれからもう一度キセアを探しに出るわ もちろんアグゼも
エエタ、やがて遮ぎていふ。
エエタ:
危険だ 今の連盟のメンツではナンバーズの攻撃は防ぎきれない
お前とお前のストラテーゴスが必要だ
フエリオ:
でもこのままほっといたら きっとゼロはキセアを探し出す
そしたらあいつの...あの子が...
フエリオが唇、悔しさ故に血滲みたりけり。エエタ、いと奇しと思ひ、フエリオに尋ねけり。
エエタ:
お前はゼロが何者か知っているのか?
あいつが何なのか 何をしようとしているのか
フエリオ、目を伏せつつ答ふ。
フエリオ:
あの子は...私の弟 フィットよ
事故で消えたと思っていた たった一人の弟
今までずっと アグゼがフィットだと思っていたけど違った...
そんなことも判らないなんて 駄目な姉ね
フエリオが頬に一筋、露光て落ち行きけり。
フエリオ:
あの子の目的はわからない
けれどこの連盟を狙っていることだけは確かよ
キセアとアグゼを狙うのもそれが理由ね
エエタぼそと呟きつ。
エエタ:
キセアとアグゼは表裏一体 キセアが稼動し続けるにはアグゼが行き続けることが必要
そしてキセアは連盟を管理するユニット...
フエリオ、顔を振り上げ、眼を見開きてエエタを見る。エエタが詞、いと奇妙なりと思ひし故なり。
フエリオ:
ええ...そうよ
彼女を起動させ続けるためにはアグゼが生き続けなければいけない...
でもなぜあなたがそれを知ってるの?
エエタ、頭を伏して、思案しけり。やがてフエリオ、問ひ直す。
フエリオ:
あなたは一体 何者なの?
エエタなほ頭を伏したりけり。
フエリオ重ねて問ふ。一歩、一歩とフエリオ、エエタとの距離を縮めき。
エエタ:
私はエータだ。それ以外の何者でも...
フエリオ:
私の目を見て
エエタが眼にフエリオの面映りけり。は、とエエタ、詞を失ひけり。
フエリオ:
あなたは誰?
その時、連盟全館に地鳴りが如き音響きけり。スキユル、ヲロール両名の悲鳴僅かに聞こゆ。
館内の放送、事の詳細を告げけり。
放送:
敵襲 敵襲!
総員緊急戦闘配置 防衛隊は全機出撃!
敵は一機のみ 繰り返す 敵は一機のみ
フエリオ:
敵襲?一機?
一体何なの!?
エエタ:
サルターテか...
***
連盟の手前に広がる草原に一機、ダンセのナースホルンは何かを待つように佇んでいた。
その左腕には連盟に大きな衝撃を与えた、レプリカのインペリウムが、背後にそれが繋がる外部エネルギータンクが聳えている。そのタンクはナースホルンの何倍もの大きさがあったが、インペリウムはその中にあった硬化凝縮エネルギー体を全て使い果たしてしまっていた。
「さすがに連盟本館ですわ。」
インペリウムの一撃をもってしても連盟の設備へは、傷一つ付かなかったことにダンセは関心した。
しかし彼女の心はいよいよ高揚感に満たされていく。その連盟から幾機かモビルスーツが現れたからだった。
ルナツーからの補給路は絶った。今連盟に残る地力というのは、ダンセとダンセのナースホルンにとって取るに足らないレベルだろう。三人娘の三機を除いては。
「ゼロ、早くいらっしゃい。真の将軍が目覚める前に。」
ダンセは言ってインペリウムを捨てた。
ナースホルンの攻撃はまるで弾幕のようだ。
しかしその弾丸やミサイルの全てが目標を持って飛び、確実に数機の連盟の機体を墜とす。
やがて連盟からは動きが無くなった。ダンセは面白くない、とため息を吐く。
そうして睨み合っていると三機、連盟の陣営の中から、明らかに他のものとは違う威厳を放ったモビルスーツが現れる。
ストラテーゴスと、G-グリッター、そしてウルであった。
『ナンバーファイブ、たった一機でやってくるとは思いもしなかった。』
『あら、その声は、エータ様ですわね?』
ダンセは笑った。エータの面影が、自分が最も愛する人によく似ていたからだった。同時に彼のあと数分後の姿を想像すると、可笑しくてしょうがなかったからでもある。
『いくらお前のナースホルンでも、この三機相手では分が悪いはずだ。』
『ええ、そうですわね。でも今のあなたならお分かりになるはずですわ。もうすぐここに...九番目のゼロがやってくることが。』
『くっ...!』
エータのこめかみに走る痛みがそれを最もよく伝えていた。ゼロ、九番目のゼロは近い。
『ゼロが...フィットが来るって?』
『そのままの意味ですわ、フェリオさん。ゼロが、あなたと、連盟を、奪うために、ここへ。』
不意に、『それと』と付け加える声が、その場にいた全員の意識に入り込む。少年の、甘くも凍りつくような冷たさを持った声。
その声が響いた瞬間エータは激しい頭痛と吐き気に襲われ、噛んだ唇からは鮮血が滴る。
間違いなく、その声はゼロのものであった。
『それと、正確には僕はまだフィットじゃない...残念だけどね。でもそれもあと少しで、連盟が手に入れば終わるんだよ。みんなが幸せになれる。もちろん、君もだよ、エータ...いや、八番目のゼロ。』
両手でその頭を押さえるエータはうめき声を上げた。
『八番目のゼロだって?エータが?まさか』
信じられないのか、信じたくないのか、それとも嘘だと思っているのか、リンは冷笑まじりにそう言う。
それに対してフェリオは頭の片隅で否定し続けてきた答えを否でも検証せざるを得なかった。あまりにも辻褄が合うのだ。その知識、行動、そして何よりもフィットの面影。エータをゼロではないと否定する理由がだんだんと消えていく。
『同じ魂を共有して違う器と存在であるというのが、そんなにも苦しいとはね。もう楽になりなよ。この世界にフィットは僕一人で十分だ。』
上空からバシレウスが隼のように降下し、その巨躯を一瞬のうちに全員の前に現した。その姿は王の名に相応しく、高貴で美しく、その白さはまるで太陽を湛えているいるようであった。
そしてナースホルンの傍らに立ったバシレウスが右手をかざすと、次の瞬間、エータは鳥のような悲鳴を上げて意識を失った。
『君の中のフィットはもう薄すぎる。既にフィットではないくらいね。』
ゼロがあざ笑うように言ってから、バシレウスは両腕にインペリウムを構えた。
『連盟軍に告ぐ、直ちに降伏せよ。さもなくば誰一人とて真の未来に生きること叶わぬと知れ。』
右腕のインペリウムの照準をはるか彼方の山脈へあわせ、そして引き金を引く。インペリウムが放った光はその山脈の中腹にぽっかりと真円に近い穴を穿ち、そこから輝く星を覗かせた。
その威力の前に連盟軍は微動だにできず、また誰も降伏を恥と思わなかった。
連盟標準時、午後九時三十二分。
連盟本館施設――陥落。