「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第41回更新分


「ねぇ!何があったの?リン!」
「WEBRINGが・・・堕ちた・・・」
「・・・ってことは・・・」
 アリスは最悪の状況を想像したが、リンはそんなアリスの表情を見るなり、すぐにそうではないと訂正する。
「大丈夫・・・完全な消滅じゃない。反応が消滅しただけ・・・多分誰かが電源か何かを抜いたんだろう」
 リンはG・グリッターからの影響を受けてだいぶ疲労しているが、今はWEBRINGとのつながりを比較的強く持つG・グリッターへの影響が深刻だろうが、それでもWEBRINGを介した能力が使えなくなるだけであり、マニュアルによる操作であれば可能だろうが、しかしほとんどをコンピュータによる制御をしてきたG・グリッターをマニュアル操作するのは骨の折れる仕事である。
「まずいね・・・何が原因かはわからないけど、今ゼロに感づかれて攻められたら・・・」
「だ、だいじょぶっ私が頑張る!」
 と意気込んで見せるものの、彼女のそれが空元気であることも重々わかっていた。彼女はそういう人間なのだ。こういうときだからこそ不安な気持ちを、少なくとも私の前では見せないよう努めるのが彼女なのだ。アリスはリンに休むよう言うと、1人ガンダムネクサスのコクピットへと身体を押し込み、いつでも出撃が出来るように準備をする。
 彼女も薄々は感じていた。連盟に近づくにつれてミュナの意識にもまた近づいているということを。ゼロを探し出せばミュナに会えるという自分たちの予想は見事に的中していた。あの世界ではミュナを助けられなかった。ミュナだけではない。街の人々も、『あの時代』のリュウエをも助けることが出来なかった。そんな自分ができることはミュナを助けることだけだ。それが精一杯の罪滅ぼしだと自分に言い聞かせながら、神経を研ぎ澄ませ、徐々に近づいてくるミュナの反応を感じていた。


***


「動くな!次は・・・これを殺るぞ!」
 ナンバーズ2番手、ヴォードが再び彼らの前に現れたのは、一度Exeシステムによって別の場所へと飛ばされてから十数分という短い間隔だった。まさに不意打ちのようにフィリスは出会い頭に現れたヴォードのその豪腕から繰り出されたパンチを交わしきれずに吹っ飛び、体を壁に埋められてしまうほどな強烈な一撃を見舞われてしまっていた。
 ナンバーズの狙いはわかりきっていた。とっさにクオンはWEBRINGの電源ケーブルを抜き、WEBRINGを盾にしようと考えたのだ。
「そんな真似はいい!早く・・・プログラムを作動させろ・・・!」
 片方の肩がすでに砕けて動かないことに加えての全身打撲によって意識が朦朧とする中で、先に仕掛けておいた『小細工』をクオンに早く作動させるよう指示するも、クオンは言うことを聞かない。声は確かに届いているはずだが、彼がその意思で自爆プログラムを使わんとしているのだ。
「あの・・・バカ・・・!」
「フィリスさん、勝負はもう後回しに出来ない。俺ももう長くはないんですから」
 WEBRINGが崩壊してしまえば、ゼロたちはまた『WEBRINGが存在している世界』へと飛び、完全な形でのシステム確保に臨むだろう。少なくとも今の危険からは逃れられ、体勢だって整えられるはず。
 口先だけで話す彼の背中はかすかだが震えていた。それは体格に歴然の差があるヴォードとの一騎打ちに武者震いしているのか、恐怖しているのか、それとも消え行く定めを恨んでいるのかはわからなかったが、少なくとも彼からは今、直面するたくさんの現実を全て受け入れた上で、全てに立ち向かおうという気迫が感じられた。

 こんなことならプログラムの主導権をウルスラに託すんじゃなかった・・・。少しでもクオンに気を許し、彼を頼った結果がこれだ。情けない・・・今までの自分ならこんなミスはしなかっただろう。これもやはりクオンという存在が原因か。気にも留めなかったただのパイロット要員だったのに、何故か彼という存在が思考を狂わしていることが幾度かあった。それはずっと表には出していなかったが、明らかに彼という存在は自分の中ではイレギュラーと認識されるものだった。
「くっ・・・バカはお互い様だってことか・・・」


***


 空港をとびだったバラックス編隊の航行は順調である、と少なくともウィンストンは思っていた。すでに眼前には連盟本部もうっすらだが見えてきたのだし、後は迎え撃ってくるであろうナンバーズに一泡噴かせてやるだけと意気込んでいたのだが。
 ウィンストンは視界の端のほうで影が現れたり消えたりする現象に遭遇していた。その方に振り返っても何もないのだが、正面を見るとまたしてもその現象が起こり、何なのかと原因を突き止めようとした途端、大きな衝撃が後部から襲ってくる。
「な、何なんだ!」
「MS格納デッキをやられています!」
「なんと!」
 ウィンストンが視界の端に見ていた影はナンバーズの概念、それも長であるゼロのバシレウスだった。しかも単機で襲撃してきている。いや、ナンバーズのあの力を過去に幾度も見せ付けられているのだから、このようなケースも無きにしも非ずだっただろうが。
 しかし船を落とさず、直接MSデッキを狙ってくるとは、これでは待機しているパイロットが狙われているようなものではないか・・・。
「こいつはまずい、まずいぞ!」
 ウィンストンの心を代弁するかのようにラムダがブリッジへと上がってくる。老体にはデッキからブリッジへの距離はきつかったようで、息はすでに上がっている。
「MSを出したほうがいい!」
 半壊状態となったデッキにはすでにハッチの開閉作業など必要なかった。大穴が開いた天井からリュウエのヴィング・O、リューネルトのG・エボリューション、エプシロンのイブンブロウは脱出できたが、全機能が停止してしまっているG・グリッターとガンダムネクサス、エータのウルはバシレウスの妨害にあっていた。
「ゼロ・・・!」
「エータ、君には用は無いよ」
 あどけない声を発しながら、しかしやっていることは正反対である。バシレウスはまともに動けないG・グリッターを鷲掴みにすると、もう片方のマニピュレーターでネクサスを捕獲しようとする。
「アリスちゃん、おいでよ。君の子孫が待ってるよ」
「だめだ!こいつの声を聞くな!」
 マニュアルモードで動かすことが出来た唯一の部位、腕部から放つ不動剣でデッキを真っ二つにし、バシレウスの魔の手からアリスを遠ざけようとするリン。さらに腕部への指示を切断し、脚部へとそれを切り替えてネクサスを蹴り飛ばし、バシレウスとの距離を開ける。
「リン!」
「アリス!私はこのザマだよ・・・あんただけは逃げな!」
 バラックスからMS格納庫だけが切り取られ、重力によって海へと落ちていく格納庫と、先に蹴り飛ばしたネクサスを見やりながら、無事に逃げ切り、体勢を立て直すまでの猶予を得てくれと願う。今の自分にできることはこれくらいしかない。ゼロだって自分たちをそう簡単には殺さないだろう。勿論、その確証はなかったが・・・。

「貴様!?」
 捕らえられたリンを助けようと機体を仕向けるエータだったが、バシレウスに接近した途端、このバシレウスにあのゼロの存在感が全くないことに気づき、手を出すことをやめてしまう。
「こいつは・・・!」
「どうしたの?攻撃しないの?」
 あぁ、わかっている。ゼロはここではないどこかでこの戦闘を悠々と閲覧し、ここには別の誰かを仕向けている。直接手を下さないのか、それとも手を下せない状況にあるのかはわからないが、リンがWEBRINGの一時的な停止を感じていることから、やはりそちら側で手一杯になっているとも予想できる。
 しかしこいつは誰だ。あのバシレウスを意図も簡単に操ってみせるこいつは・・・。
「君にも来てもらわなくちゃ、ね、『ゼロ』」
「俺はゼロじゃない、エータだ」
 かつてはゼロとして存在していた。しかし今は違う。
「俺はエータとして生きてきて、初めて守りたいものを見つけた。失いたくないものを見つけたんだ」
 それはゼロとしてではなく、エータとして生きたからこそ得たもの。もし今の自分という存在がなければ何も知らずに朽ちていた、そんなつまらない人生を歩んでいたに違いない。
「何を言うかと思ったらそんなこと・・・」
「ゼロ、もうお前の夢は終わりだ。夢は『ゼロ』が見るものではない!」


***


 お世辞にも体格がいいとは言えないクオンと、明らかに体育会系のヴォードでは、肉弾戦では差がありすぎる。先の戦闘だって、フィリスはわざわざ銃火器を用いてヴォードと対峙していたほどだ。それでも彼の肉体に申告なダメージが与えられていなかった(頭部を撃ったのにもかかわらず)ことを考えると、残念ながらクオンに勝機はない。ましてフィリスがやってのけた、Exeシステムを使った応用技も、一度見て聞いただけではなかなか真似のできるような芸当でもなく。一歩一歩、ゆっくりと歩み寄るヴォードを目の前に、身体はおろか、思考回路までが麻痺してきていたのを感じていた。
「クソッ・・・やっぱり俺は、俺の力じゃ何も出来ないってのかよ!」
 ウルスラへと繋がったプログラムの始動キーを、有線制御コントローラーから作動させると、クオンは張り詰めた緊張の糸がぷつりと切れたように、その場に膝をがっくりとついてしまう。これでWEBRINGシステムは崩壊し、彼らの目的はまたしても果たされずに、再びWEBRINGシステムが健在する時代へと跳躍するだろう。
 こうも早く最終手段を使ってしまったことが情けなくてたまらない。あんなか弱い女性一人を救えずに逃げたような感覚にさえ陥ってしまうほど・・・。

「・・・やっぱりバカはお前一人だよ・・・」

「・・・え?」

 彼を待っていたのはこの身を吹き飛ばすほどの爆風ではなく、眩い光の渦だった。