「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第42回更新分


 G・エボリューションとイブンブロウではバシレウスには勝ち目がない。性能差が大き過ぎることも理由の一つだが、他にも状況というものがある。
 この場でバシレウスに攻撃しようにもG・グリッターとウルがバシレウスに近過ぎて邪魔なのだ。
「ちっ……エオローさえあれば……!」
 エプシロンが舌打ちする。
 エオローがあれば片鱗を用いて空間を隔離できる。片鱗のフィールドに包むことでバシレウスと捕獲することだってできたはずだ。もちろん、突破される可能性もあるが、イブンブロウよりも遥かに戦い易い。クセの無いイブンブロウよりもクセのありすぎるエオローの方がエプシロンには扱い易かった。
「……バシレウス、ゼロが乗っていないなら、何故ここに?」
 リューネルトは距離を置いて冷静に分析していた。
 バシレウスはゼロが持つ兵器の中でトップクラスの戦闘能力を誇る機体だ。ゼロ以外に、誰が乗れるというのか。そもそも、ゼロが自分以外の人間をバシレウスに乗せるだろうか。
「……偽装機、いや、レプリカか?」
 だとしたら、可能性の一つに思い当たり、リューネルトは隣にいるイブンブロウの肩を掴んだ。
「いきなり何?」
「時が来た!」
 驚くエプシロンに、リューネルトは笑みを浮かべて見せる。
 エプシロンが彼女の言葉の意図に気付くよりも早く、異変は起きた。
 レーダーに反応が出た。二つの反応が、一直線にこの場へと向かってくる。方角は、バシレウスが向かって来たのと同じ、連盟のある場所からだ。
「ふっ、ははっ、ははっ!」
 噴き出したように笑い始めるリューネルトに、エプシロンはただ驚くしかない。
「あいつら、今頃目を丸くしているはずだ! いきなり概念二機が勝手に動き出したはずだからな!」
「マジ!?」
 言葉の意味を理解して、エオローは目を輝かせた。

 相手がゼロであろうとなかろうと、この場ですることに変わりはない。何を躊躇う必要があったのだろう。エータは目の前のバシレウスと戦えばいい。リンを奪われるわけにはいかない。アリスも、リュウエも、この場にいる全てが今のエータの戦力だ。何一つ失うことなく、バシレウスを撃退あるいは破壊することを考えればいい。
 まだ、最終決戦ではない。ゼロ自身がいないのはそれが理由とだけ思っていればいい。戦いは続く。そのためにも、今ここで戦力を崩されるわけにはいかない。
 ウルが巨大なビームソード、グラムの柄を握り締める。
「エータ! 一瞬でいい、高度を下げろ!」
 リューネルトの声に、エータはすぐさま反応していた。言葉の意図を瞬時に理解できたのは、接近してくる概念の反応を探知したからだ。
 武器を構えたはずのウルが大きく高度を落とす。バシレウスにはゼロの気配を感じない。あの耳障りなゼロの声も、途中から全く聞こえなくなった。まるで、ゼロが今いる場所で異変でも起きたかのように。
「リューネルト、遅過ぎやしないか?」
 エータは小さく溜め息をついた。だが、そこに落胆はない。
 天を仰ぐような体勢で高度を落としたウルの真上を、刺々しいシルエットが高速で通り過ぎた。
 エオローだ。アンスールがエオローを掴み、ここまで駆けつけたのだ。
「文句を言うな。いいタイミングじゃないか」
 リューネルトの声は微かに弾んでいる。
 いい兆候だ。
 エータの口元にも自然と笑みが浮かんでいた。

 落下するネクサスをヴィング・Oが捕まえた。
「早く起動しろ!」
「わかってるよー!」
 ネクサスが起動した途端、立場が一転する。ヴィング・Oと引っ張るようにネクサスが急上昇し、落下した分の高度を一気に取り戻す。
「どうするんだ? 退くのか?」
 聞いておきながら、リュウエの声からはそんなつもりは毛頭無いように思えた。
「リンを残して行けるわけないでしょ!」
 アリスにも、この場で退くなどという考えは無かった。
「二人とも、良く聞いてくれ」
 突然、エプシロンから通信が入った。
「何? どうしたの?」
 撤退すると言われるのではないかと内心焦りながら、アリスは受け答える。
「これから、イブンブロウとG・エボリューションが落ちる。受け止めてくれ」
「は? お前何言って……」
「頼んだぜ」
 ウィンクして通信を切ったエプシロンに二人は呆気に囚われる。いきなりの、それも一方的な通信内容は二人には意味が解らなかった。事情も知らない二人は、とりあえずイブンブロウとG・エボリューションの方向に視線を向けた。
 水平飛行から垂直に角度を変えて移動する二機の概念が見えた。
 イブンブロウとG・エボリューションはその二機に機体の正面を向けている。
アリスとリュウエが見ている前で、イブンブロウとG・エボリューションのコクピットが開いた。そして、パイロットであるエプシロンとリューネルトが飛び降りる。
 イブンブロウとG・エボリューションの二機はそれから暫くオートパイロットで上昇し、落下を始める。その下方で、エオローとアンスールが動きを止める。落下するエプシロンとリューネルトとの相対速度を合わせるように効果し、コクピット付近に二人が飛び乗らせた。
 そして、リューネルトはそのままアンスールのコクピットに滑り込む。エプシロンはコクピットを開けると、いきなり中にいた人物に蹴りを見舞っていた。場所を奪い、コクピットから放り出す。とどめとばかりにアンスールの腕部ビームサーベルがパイロットを消した。
 二機はイブンブロウと・Gエボリューションには目もくれずにバシレウスへと向かって行く。
 アリスとリュウエは慌てて落下を始めたイブンブロウとG・エボリューションを受け止めた。
「無茶するなぁ……」
「無茶の塊が言ってもねぇ」
 リュウエの呟きに、アリスは苦笑した。
「何だよ?」
「んーん、何でも」
 たとえ世界がズレていても、今隣にいるのはリュウエなのだと、アリスは再認識していた。

 リューネルトがアンスールに与えたプログラムは、パトリオティック・ダンセとそっくりな思考回路を持つAIだった。いや、パトリオティックとしか思えないAIを組んだのだ。
 ゼロの懐にまで入り込まなければ、機会を探るのは難しい。いくら、かつてゼロであったエータが相手の思考を先読みしても、それは所詮ゼロも推測できる範囲でしかない。ゼロも、エータの思考を推測することができるのだ。ならば、新たなゼロである、今のゼロの思考にエータは追い付くことはできない。
 予想外のナンバーズの動きに対抗するためには、相手にとって完全に予想外な動きをしなければならなかった。そのために、リューネルトはアンスールにパトリオティックの人格をインストールし、放置した。
 エオローが奪われ、エプシロンが連盟に軟禁された際、リューネルトはあえてアンスールを手放したのだ。
 エオローと同時に回収されたアンスールは、パトリオティックの人格によってゼロに従う。ゼロの下で得られた情報はアンスールの奥底にある、リューネルトが組んだプログラムに蓄積されるようにした。
 そのデータで戦況を判断させ、リューネルトが最も必要とするであろう時に事を起こすようにセットした。
 単純な思考プログラムを組み込めるアンスールならではの作戦だ。
 これは確実にゼロも予想できなかったはずだ。
「それにしても、ややこしいことするよな」
 エプシロンの声が通信回線から流れてきた。
 自分の専用機としていた機体のコクピットに座れたことが嬉しいらしい。かなりリラックスした表情になっている。今までよりもだらしなく見えるのは気のせいではあるまい。
「当たり前だ。単純な作戦を組んでどうする」
「そういや、リンの子孫だっけな、リュー姉って」
「その呼び方は止めろと言っているだろ」
「何が気に食わないのさ?」
 エプシロンの問いを無視して、リューネルトはバシレウスへと視線を向けた。
「……とりあえず、暴れようぜ姉御」
 その言葉に無言でエオローをどつき、リューネルトはアンスールをバシレウスへ向けて走らせた。
 エオローが片鱗を展開、フィールドバリアを展開させてバシレウスの逃げ場を奪う。
「タネは読めてるぞ、ビアンドゥ」
 リューネルトはサイドアーマーを外して投げ放った。ビームチャクラムとなったサイドアーマーが触れる寸前、バシレウスの機体がぼやけた。弾かれたビームチャクラムが手元に戻って来るの確認し、リューネルトはそれをサイドアーマーに戻す。
「ソウェイルか!」
 エプシロンもようやく気付いたようだ。
 崩壊装甲、という特徴が大き過ぎて忘れてしまいがちだが、装甲に特殊な機能が持たせられているソウェイルにはもう一つ別の能力がある。崩壊装甲の機能を転用した、カムフラージュだ。崩壊装甲による特性で装甲表面の可視光を反射、操作することで機体を偽装できる。偽装の種類は多岐に渡り、単なる不可視から全く別の外見を得ることも可能だった。
 ソウェイルがバシレウスの姿に偽装してここまで来たのだ。
「確かに、予想外だったよ」
 どこか強張ったような声が返ってきた。ビアンドゥの声だ。
「ゼロの資質を持つ者の中に、これだけ奇抜な策を思い付くものがいるとは……」
 リューネルトは鼻で笑った。
 彼女の中にはゼロの資質よりもリンの資質の方が色濃く受け継がれている。ゼロと大きく違うのは当然のことだ。アンスールという概念を得られたことは偶然だったかもしれない。だが、それをこの必然に繋げるのはゼロには考え付かないことだろう。一度自ら力を手放すことで、より大きな利を得るという手段は、手にした全てを抱え込み、手放すことを知らないゼロには思いつかないはずだ。
「私は今回が初参加なんでね」
 リューネルトは言った。
 この騒乱が、リューネルトにとっては初めてのものだった。エータのように、一度ゼロを経験してもいなければ、ゼロの下で連盟世界を潰しに掛かったこともない。その前にエータに引き抜かれ、ナンバーズとなるよりも早くアンチナンバーズとなったのがリューネルトだ。
 ゼロとの面識はほとんどなく、それ故にゼロはリューネルトの思考を読むには彼女を知らなさすぎた。
「だが、忘れるなよ。G・グリッターは私の手の内にある」
 崩壊装甲が発動すればG・グリッターと言えども大きなダメージは避けられない。捕らえられた状態ではG・グリッターを人質にされているようなものだ。
「それに、この場で共振を起こしてみるか?」
 サイコ・フレームで機体の九割以上を構成された概念同士の戦闘は共振を引き起こす。本気でぶつかりあった時、周囲にどれだけの被害が振り撒かれるのかは想像がつかない。
「どうするんだよ、姉御」
「その呼び方も止めろ、鬱陶しい!」
 イマイチ緊張感の感じられないエプシロンに、良い兆候なのかもしれないとも思う。真剣に見えないのはいつものことだが、エプシロンは調子に乗っている方が頭の回転は早い。
「まぁ、こっちから仕掛ければリンは殺されるかもしれない。けど、向こうも殺さずに済むならリンを生かしたまま持ち帰りたいってとこだろう」
 この状態が続く限り、互いに決定打は出せない。どちらが先にこの均衡を破るか、相手の意表を突いた策を考え付くかにかかっていると言ってもいい。
「まぁ、もう少し考えようぜ。チャンスが来るかもしれないし、な?」
 言って、エプシロンは不敵な笑みを浮かべた。リューネルトの回線に映るエプシロンは、Exeを掲げている。淡い光を帯びたExeを見て、何かがこの世界の中で動きがあったのだと判った。
 情報収集機能が働いている。エプシロンの様子から、ゼロからの妨害も少ないようだった。
 だとすれば、ゼロがExeの妨害に手を回している余裕が少ないということだ。チャンスが巡り始めているかもしれない。

 G・グリッターが思うように動かせないのがこれほどまでにもどかしいとは思わなかった。
 マニュアルで完璧に操作できるように訓練しておくべきだった。リンは歯噛みしながら、状況を見つめていた。抵抗することに身の危険を感じ、バシレウスに掴まれてからは一切機体を動かしていない。
 もちろん、G・グリッターの機能が完全に回復したなら直ぐにでも反撃に転じるつもりだ。だが、問題はそのチャンスがあるかどうかだ。
 バシレウスはネクサスも捕獲したいらしく、身構えるウルと対峙していた。だが、剣を抜き放ったウルが急に高度を下げた時にはリンも目を見張った。
 目の前を二機の概念が通り過ぎ、イブンブロウとG・エボリューションへと向かって行く。エプシロンとリューネルトが二機の概念に飛び乗り、その機体でこの場を包囲したのだ。
 エプシロンの機体、エオローから放たれた片鱗がフィールドバリアを作り出し、戦場を固定する。
 そして、バシレウスが別の概念、ソウェイルの偽装であったことも発覚し、リンは混乱した。とはいえ、事前に聞いていた情報と合わせれば辻褄は合っているようにも思えた。
 追い詰められているのはソウェイルだろう。
「私がどうにかできれば……!」
 噛み締めた奥歯が音を立てる。
 この場で何もできないのはリンだけだ。G・グリッターが完全でなければ、この先の戦いも難しい。戦力外通告を受けた気分だった。いっそ、イブンブロウやG・エボリューションで参加した方が戦力になれるのかもしれない。これから先、G・グリッターがまともに使えないのであれば本気で考えるべきだろう。
 不意に、喪失感が軽くなり始めた。
 停止していたG・グリッターのシステムに光が灯り始める。落下して、それでも片手に繋ぎとめていた背中の輪が、浮かび始め、元の位置へと戻る。
 システムが復旧した。
 G・グリッターのシステムだけではない、WEBRINGのシステムも復旧したのだ。それが、解る。
「何が起きているかは解らないが、チャンスであることに変わりは無い、か……
!」
 リンは行動を起こした。
 左手でソウェイルの頭部を鷲掴みにし、右膝を腹部に叩き込む。突然の行動だったが、全員がリンの動きを知っていたかのように動いた。
 弾き飛ばされたソウェイルに周囲に配置された片鱗からフィールドバリアがビームとして放たれ、装甲を焼く。崩壊装甲で耐えるソウェイルに、アンスールの蒼穹が二発叩き込まれた。そこにウルがグラムを叩き付けた。
 グラムのビームに拮抗する崩壊装甲に、別方向から片鱗がフィールドバリアを照射、さらにアンスールが肩からミサイルを乱射する。
 集中砲火を受けたソウェイルに、リンは不動剣を振り下ろした。
 連続して放たれる攻撃に対応し切れず、徐々にソウェイルが破壊されていく。全身を崩壊装甲で包んだ時には、既にパーツの複数個所が剥ぎ取られていた。装甲の無くなった、内部機器が剥き出しの部位へピンポイントに攻撃が降り続き、やがてソウェイルは爆散した。
「……とりあえず、戦力は揃ったな」
 エータの声に、皆は無言で頷いていた。
 システムがダウンする可能性が出て来た。次に停止する時間がわからないのであれば、稼動している間に決着をつけるしかないだろう。
 バラックスは格納庫は半分潰れたものの、とりあえず飛行するのに支障は無さそうだ。
「補給を済ませたら、丁度頃合だろう」
 リンの言葉に、皆がバラックスの半分残った格納庫へと向かった。スペースはかなりギリギリだろうが、仕方がない。今更修理している余裕はなかった。
 恐らく、補給が済む頃にはこちらから仕掛けられる距離に入っているはずだ。
「とりあえず、腹減ったな。何か食おうぜ」
 エプシロンの緊張感のない言葉に、皆が失笑を漏らした。