「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第8回更新分

 キセアアンテナを形成する29つのリングの前で、フェリオとアグゼは半ば立ち往生している状態にある。『全て』を指差したアグゼの意思を尊重するか否か、それは先にアグゼが月へ行きたいと意思表示した時と同じように、彼女の幼い故の決断力の低さというのがここでもあからさまになってしまう。
「本当に・・・いいんだね?」
 こくんと頷くアグゼの表情は実に生き生きとしている。月の件を蔑ろにするつもりはないものの、今すぐに月に行ってあげられないのだから、やはりここは彼の意思を尊重するべきだと、自分の中に巣くう、大変さゆえの反発心を押し殺した。
「よし、行こっか」
 彼の手をそっと握ると彼もそれに答えるように握り返す。彼女たちはその淡い緑色をしたリングにCヴィックを進めた。そしてCヴィックのシルエットがリングの中に全て納まると世界は急に流れるように移動し始める。

 別世界への入り口。新たなる冒険。
 アグゼにとって、次に目にする新世界をどう感じるのだろうか。例えその世界が争いで埋め尽くされた、混沌とした世界であろうとも。彼はこの眼差しを消さないでいてくれるだろうか。
 自らが選択した場所。
 自らが選択を委ねた場所。
 そしてそこに目標であるキセアがいてもいなくても、彼女たちは選択したこの場所この世界に『介入』する。

 目を開けられないほどの光が彼女たちを包み、そしてその光が次第に引くと、そこには幾億もの星々が瞬く宇宙が広がっていた。アグゼもその光景に不思議そうな顔をしているが、世界が違っていても宇宙は同じ景色を描いていてくれるというのは当たり前のことなのだ。これが例えば陸地に出ればもっと世界の違いを感じられるに違いない。
「えーっと・・・」
 端末を開き、現在の世界と時代を確認するフェリオ。場所は知っている。時代も知っている。あとは選択した場所とここが一致していればいいだけの話。
「・・・うん、間違いない」




「わ、私は・・・」
 銃を向けられ、諸手をあげるアリス。リュウエの剣幕とその銃を突きつけられることで感じる威圧は並みのものではなく、アリスは自分の名前すら言えずにおろおろとしてしまう。そんな彼女に助け舟を出したのは彼女の隣にいたリュウエの妹、ミュナだ。
「お兄ちゃん、この人は私の麦藁帽子をとってくれたの。・・・お、お友達なの」
「・・・?」
 鋭い眼光は未だアリスを睨み続けている。見たことの無い服装、いや、若干正規軍のもののようにも見えるその服装に決して予断を許さないでいるリュウエ。彼ら青年側のこの部隊は正規軍が建設した砦をたった今沈黙させてきたばかりなのだ。そんな正規軍の生き残りが妹を人質に・・・ということだって考えられる。
「・・・わかった。危害は加えない」
 ミュナの必死の抵抗にようやくリュウエも折れる。緩む眼光、しかし銃は未だ突きつけたまま。
「だが、お前は俺たちと来てもらおう」
「そ、そんなぁ〜なんか定番の展開だなぁ」
「なんか言ったか?」
「い、いえ、なんでもないです。はい」
 いつもの能天気な彼女が身の危険を感じるほど、今のこの立場がやはりまずい状態にあることを察している。これではリンを見つけるどころか段々と彼女から遠のいてしまうではないか。抵抗することも許されず、ミュナとアリスをマニピュレーターの上に乗せたヴィングを駆るリュウエはひとまず自分たちが本拠地としている街へと向かった。

 風が気持ちいい・・・。と呑気にしている場合ではない。が、まだミュナが傍にいてくれるだけ、安心かもしれない。少なくともこのまま握りつぶされることは無いのだから。
「ミュナ・・・私、どうなっちゃうんだろ」
「私にはわからないの」
「お兄さん、反正規軍組織なんでしょ?」
 自らの服装をつまみながら言う。白、青、赤を基調としたこの服装、このデザインではそう間違えられてもおかしくは無い。
「うん、そうなの。でもお兄ちゃんたちだけじゃ正規軍をやっつけられないの」
「なるほど・・・いろいろどこかで聞いたような情勢ってわけだね」
 次第に街に近づく。街並みこそ今まで見てきたものと差は無い建造物で構成されているが、明らかに違うのはオリガン連盟管轄にあった世界の中のどれにも該当しない服装のデザインの奇抜さである。
「ミュナもリュウエさんもちょっとあれだと思ったけど、たくさんいると圧巻だなぁ・・・」
 砦の沈黙、その朗報は街の人々にも知れ渡っていたようで、彼らのMSが着陸するなり群衆が我先にとそのMSの周りに集まりだす。街の人々にとって、彼ら青年たちで構成されたこの組織は言わずもがな英雄なのである。正規軍の圧制、政府の圧政、それらから救ってくれる存在、それが彼ら。
 腕部を地面につけ、マニピュレーターをそっと開くとリュウエはコクピットから降り、右腕にミュナを、左腕には銃を構えてそれをアリスに突きつけながら顎で「立て」と指示する。そしてそのままリュウエたちは本拠施設に入る。
 と、同時にリュウエはアリスに突きつけていた銃をそっと降ろし、ミュナを彼女の元へとやる。先とはまるで違う態度にアリスは拍子抜けしてしまう。
「俺だって馬鹿じゃない。ミュナがお前を気に入ってるようだし、『お前のような奴が』正規軍なわけも無いだろう」
「は、はは・・・」
 それは馬鹿にされたのか?
「言え、お前がこの世界のものではないことを。そしてどこから来たのかを」




「・・・まただ・・・」
 数日。数日が過ぎた。この世界に来て、そしてこのやかましいエア姉妹と出会って数日が過ぎた。専ら動けずにいる彼女たちは食料調達が日課ではあるが、そんな中、リンは時折空が光るのを目撃し、しかもその回数や間隔が一定であることに気づいていた。
「1日に3度・・・場所はバラバラだが、近いな」
 スキュルが言っていた、もしかしたら別世界の人間が同じようにこの地に転送されてきているのでは、という話は半ば当たっているのではないかと推測する。この光は誰かが転送されてきた場所に現れ、自分たちと同じようにこの世界で彷徨っているのではないだろうか。
「あのMSもそうだ。全くわからない言語で・・・でも・・・」
 彼女はWEB RINGを管理、運営する中であのMSをどこかで見たような覚えがある。そしてそれもまた『WEB RING上に存在する』別世界のものであり、同じようにこの地に転送されてきていると仮定すれば・・・納得はいくのである。
「オロール!」
「はーい!」
「妹の名前を気安く呼ぶなーー!!」
 と駆けてくる姉のスキュルではあるが、初見時と同じように途中で躓いて顔面から着地する。
「何故私の名を呼ばない!」
「いや、だって・・・」
 実に返答に困る質問だ。率直に「やかましいから」と言えればそれでいいが、言ったら言ったでややこしくなるし、言わなかったら言わなかったで・・・。
「お姉ちゃんはこんなだし、わかりますよ、呼びたくない気持ち」
「こ・・・こんなって・・・い、言ってみろ!オロール、言ってみろ!」
「それは私たちだけの秘密ですよね?リンちゃん」
「あ、あぁ・・・」
「な、何だって・・・?リン!オロールに何を吹き込んだ!?」
「えへへ、いろいろだよ〜♪お姉ちゃんは知らなくていいの」
「あ、あぁ・・・?」
「くぁー!歯ぁ食いしばれ!こんな女、修正してやる!」
 結局こんな感じで話はややこしくなるのである。
(いつになったら本題に移れるんだか・・・)
 光の出現場所に行ってみようと切り出せるのは、さていつになろうか。




 眺めることに飽きた男、いや少年とでも言うべきか。傍観者がいつしか当事者となり、自分の野望のために動き出す。発端は本当にいきなり訪れた。同盟とWEB RINGを統治する人間はこの世界にはおらず、連盟を統治する『姉』は自ら本部を離れたのだ。
「あとは雑魚だけだ」
 ついに動き出す組織。ついに動き出す『弟』。戦略などは後からついてくる。むしろ主のいない連盟本部など自らが出る幕も無い。望んだ、本当の意味での本部との対決は残念ながら今回は見送られることになるが、次回がある。本部を取り戻しに来るであろう彼女たちの本当の力と合間見えることが出来るのならそれもまたよしとするか。

 ワッと押し寄せる軍勢を察知したのは連盟本部自衛部隊ではなく、本部をさらに遠巻きに囲う護衛部隊である。さすがに索敵能力に長けるだけはあり、外部からの侵入にいち早く感づくことが可能であった。
「何だってまぁ・・・」
 連盟本部が外部から狙われるということがないため、自衛部隊は一応は存在しているものの滅多にそれが任務を遂行することは無い。リンやアリスが訓練をしていたのもそういった場合を想定しているだけであり、実際にこんな事態になろうとは誰もが思わなかっただろう。
「これは・・・来るな?総員第1戦闘配備!これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない!」
 辺りに響き渡る警報が緊迫した状況をさらに掻き立てる。
「MS隊出撃用意!ミラージュ隊、ランサー隊はポイントC9にて左舷右舷に展開!シャリオ隊はポイントG7で待機!レグナム隊は前衛に展開!」
 各MSに行き届く、護衛部隊隊長の指示。以前クオンが搭乗していたMSミラージュとその兄弟機ランサーがそれぞれ部隊を展開する。さすがに訓練どおりの綺麗な隊列であるが、その訓練が実戦で生きるかというと、一概にそうとは言えない。経験、特に実戦経験がものを言う。まして相手は見たことも聞いたこともない、そしてこの連盟本部に攻め入ろうなどという馬鹿な人間だと、護衛部隊のパイロットたちは口々に言う、その甘さもまた危険要因の1つとなりうる。

 しかしそんな侵攻する軍勢の様子を見ながら本部の自衛部隊を統べるウィンストン艦長はその軍勢が只者では無いと読む。こさえた髭をいじりながらモニターに目をやるウィンストン。
「レーン、何故小娘は我々をここに残したのか、ようやく判った気がしたよ」
 Cヴィックに加え、このコロンブス級改装戦艦があればもっと早く彼女たちを発見できるかもしれないのにわざわざフェリオは自分たちをこの本部に残した、その理由が。
「さて、我々だけでここを守れるかね」
 事実、自分たちのほかにも、より先に戦闘を開始する本部の護衛隊がいるわけだが、彼らのためにも、前衛に展開したMSレグナムとその軍勢との初接触の瞬間を見届けるのが、護衛部隊に守られている本部の隊の長としての役目であると、そう認識する。