「OGFオリガンリレー小説〜ケ・セラ・セラ〜」 第9回更新分

 
「変わった奴だ、二撃目は避けられたのに当たった。どういう戦士なんだ、オマエは?」

彼女はもう返答することは出来ない。

「太刀筋は中々だ、それほどの腕をもっているなら、2発目は回避できた筈だ。それなのに瞳に当たった。それとも何か、圧倒的な不利な条件でも持っているとでも言うのか。馬鹿な奴だ、相手に戦いを挑むと言うことは、自分がどうなっても構わないということを意味するのに。それとも殉死を何処かで望んでいたのか?」

彼女はもう返答することは出来ない。

「敗者に聞いた俺がバカだったよ。今の所、未遂に終わったのはお前が始めてだ、偶然か必然かなんてことは無意味だ、この世界は所詮結果が全て。だからお前は幸運だったかも知れん」

その男の手首の下には黄色の球体が見える。

「さて、答えをきかせてもらおうか」


***


「彼」が気がつくと、そこはただ、暗黒が広がるばかりの場所だった。

「ここは何処だ」

「彼」が目標と接触した時には既に状況は終了しており、このまま帰投しようとしたときであった、視界が突然ブラックアウトし、気付いたときにはいまいる空間にいた。
目の前には幾つもの球がそれぞれ違う軌道を描きながら回転している。

「くだらん」

どのようなものであれ、それが現時点で「彼」の役に立つとは思えない。自分にとって役に立つもの意外は全て意味を持たない。

「だから。君はそのままなんだ」

唐突に声が響き。その方向に振り向く。

「始めまして、スライダー君、いやもっと別の呼び名がいいかな?」

暗闇の中、姿は見えない。ただ気配だけは感じることが出来る。

「何処の酔狂だか知らんが。ここは何処だ」
「ここは何処でもあって何処でもない場所」
「理解できないな」

フッと「やれやれ」と言った嘆息が聞こえる。

「話を変えよう。俺に一体どうして欲しい?」

これ以上、この件に関して話を続けても無駄だと判断し、話題を転換する。

「私に協力して欲しい」

その言葉が終わるない内に瞬間、「彼」はナイフを投げつけていた。
それは正確に気配のする方向に投げられ、青年ならば頭部、成人なら胸部を直撃するコースを飛んでいった。
しかし命中の感覚はなく、ナイフが床にぶつかった音だけが響いた。

「ふむ…」

思案する「彼」に向かって気配の主は

「端的に言ってしまえば君の五感に直接作用する力を使っている。だから私はここにはいない」
「成る程な、貴様に感じている感覚は全て偽者と言うことか」
「そう解釈してもらって構わないよ。さて、返答を聞こうか」

勿論答えは決まっている。

「イエス、だ」
「協力に感謝する」

これは確定している回答だ、「彼」は何時もより強力な側につく。
それまで知らなかった技術を体験することによって、所属する組織を変えたに過ぎない。

「で、俺は一体どうすればいい?」
「その前に聞きたい、君は一体何のために戦っているのか、とね」
「そんな物はない」

個人的感情を「彼」はもたない。命令の理不尽さに不愉快こそあれ、戦闘に快楽を求めるとかそのようなことは一切ない。

「だから、ダメなんだ。君はそこまでなんだ」
「どういう意味だ?」

一息ついて。

「戦いには理由が必然だ、でなければどのような力を行使し、目的を果たしたとしてもそれはただ、粗暴な暴力をふりまくだけに過ぎない」
「それで何が悪い?」
「粗暴な暴力を振りまくこと自体が目的になってしまっている段階で、その戦いは既に完結していて先がない、そこいらの喧嘩となんら変わらないと言うことだ」
「俺に大儀を持てといいたいのか?貴様は。」
「そうじゃない。そんなことをしたら君は私を殺しに来るからね」
「よくわかっているじゃないか」

誰かの感情を「自分」に押し付けるような者を彼は認めない。その場で鉄槌を下す。

「だから、君に対して私はただ提案するだけだ。君が求めていることを、自分の力を見てみたいと言うね。利害の一致とみてもらっても構わない」
「俺はいつもそうだがな」
「ああ、だが。約束して欲しい。行動がなされた結果、私が得たものに対して反旗を翻すのだけはやめてくれ」
「それ以前に、俺が離反することは考えないのか?」
「多分それはないと思っているよ、仮に離反してもそれが僕の目的の達成前なら構わないよ」
「結構な高待遇じゃないか。仮に俺が貴様の元で目標を達成したとしてだ、その後はどうなる?」
「もう考えてるよ。君を君が望む世界に転移させる。」
「ほほう、面白いな。例えば明日にも滅ぶ世界にも転移させてもらえるわけだ」
「そういう事になるね。まぁマインドレンデルの君には丁度いいだろう?」

自殺志願と言う意味の単語を言われ、「彼」は一瞬言葉を失う、がそれも一瞬のことだ。

「まぁな。一応、俺に行動理由はついたわけだ。次は」
「具体的な話に移ろう。君の目の前にある装置、それは世界だ」
「世界?」
「そう、球の一つ一つが世界なんだ、パラレルワールドと言うのが適当だと思う。普段済んでいる世界と、わずかながら違う、しかし何処かでつながっている世界、それを表したものがそれだ」
「ふうん、全部で幾つあるんだ?」

改めて回転する球郡を見る、それぞれが様々な色をして回転している。

「今いけるのは29。本当はもっと沢山あるんだけれども。私の目的はこの29の中にしかないから、関係ない」
「なるほどな。この中のどれかに派遣されるって訳だ。」
「そういうこと」
「で、何処に行けばいいんだ。自分で決められるわけじゃないないだろう」
「そう、わかってるね。出来うる限り彼女らに可能性は残したくない。それが今刈り取れるなら、それに越したことはないだろう?だから、障害の程度が低い所へ行ってもらう」
「反対する理由はない。好きにしろ」
「そう言ってもらえると助かるよ。君には外から4番目の世界へ行ってもらう」

「彼」が目を凝らすと、確かに回転している球が見える。

「そこへ行けばいいわけだな、目標は?」
「リンと言う少女だ、生きて捉えてくれ、それ以外の生死は問わない」
「わかった、それじゃあ行って来る」

彼の感覚がする方向を一度向き、その世界へと通じているであろう球を見つめる。

「待ってくれよ、渡すものがある」
「まだ何かあるのか?」

呼び止められうんざりした様子で返答する「彼」

「手を顔の前に」
「やれやれ・・・」

「彼」がそのようにすると、右腕に小さなユニットが装着された。
全体が黒で、手首の下に黄色の球体がセットされている。
体にフィットする平坦なデザインで、服を着ても目立つことはなさそうだ。

「主空間の転移、言語翻訳、白兵戦のサポートをしてくれる。コードネームはExe。本当は別の名があるんだけどとりあえずそれでいいよ」

本来の名とはXEAに対極すると言うような意味合いだが、この名前も間違ってはいない。

「起動プログラムと言うわけか」
「そういうこと。君の意思にある程度反応できる。取り外しも自由だから、好きに使うといい。簡易通信装置も兼ねているから、出来うる限り対応してくれ」
「わかったよ、動けと思えば動くのか?」
『Standing by』

機械音声が響き、黄色の球体の内部を光がなめるように動く。

「聞く必要も無かったか」
「そういうこと」

「使用説明は不要だ、自分で理解する」
「君に名前と、概念を貸す」
「名前の方はともかくとして、概念とはなんだ?」
「君はそれを使って、自分の限界をはかってもらう。そして、そこで超えられない壁にあったらそれを突破してもらう。この繰り返しだ、無論私の目的が最優先だけど。名前の方は現段階での最終メンバー No7.断絶者 Slider」

「断絶者ね、結構な名前だ。まぁ使わせてもらう。で、概念とは新型MSのコードネームなのか?」

突飛な発想だが、使役するものといえばそれしか思いつかない。

「限りなく正解に近いが、ちょっと違う」
「どういう意味だ?」
「既に名前はあるのだけれども、君の元いた世界にはそれに対応する言葉がないんだ。だから最も適当な言葉、概念を選んだ。」
「つまり?」
「象徴、偶像、想像、希望、絶望、野望、渇望、羨望、朔望、歓喜、期待、謀略、悲嘆、畏怖、畏敬、虚偽、真実、夢、悪夢、憎悪、恍惚、嫌悪、目標、過去、現在、未来、昨日、今日、明日、歴史、世代、系譜、終わり、始まり。全てを内包する概念、世界で最も普遍的な名で呼ぶなら、――」


***


「また、光った」

リンはまた光を見つけていた。

「リンちゃん、どうしたの。流れ星?」
「んー、そんな所かな」

光の落ちていく場所に行こうと思いつつも中々そうすることが出来ないで結局また2日が経過してしまった。
何時までこんなサバイバル生活を続けるのだろう

「リンちゃんはロマンチストだね〜」
「なんで、そういう発想なのかな」

小さくつぶやく、どうせ気にとめてはもらえまい。

「リン!、また私のオロールと馴れ馴れしく!、離れろ!!」

厄介なのがきた。

「はいはい」
「全く、来る日も来る日も妹のためを思って狩猟生活に出る姉の身にもなってみろ。このサヴァイヴァル生活を始めて―」

言葉が変だって。

「お姉ちゃんは頑張ってるよ。うん。」

熱弁をパタッとやめ、オロールの方を凝視するスキュル。

「おおっ、そうか!態々行ってきた甲斐もあるというものだ、さぁ食事だ」

スキュルが啖呵を切った瞬間、視界を巨大な影が横切った、次いで飛ばされるかと思うほどの強風。

「な、なんだ!!」
「落ち着いてお姉ちゃん」
「助けがきたよ〜」

思い思いの言葉を叫び、飛来した機体を見上げる。
濃紺のカラーをしたそれは、かなり重武装のように見え、砲撃系の装備が施されている。
その機体は3人を確認したのか、キャンプ地近くに着陸した。立ち膝を突き、中から人が降りてくる。黒い髪に緑色の瞳であることがわかる。
着地時も揺らぐことなく3人の方へ向かってくる。

「リン、オロール、離れろ」
「えっ、ちょっと。どうしたのよスキュル」
「いいから、離れろ。アイツは、私と同じ気配がする」
「気配?」
「説明するのは難しいな、同類の匂いだ。」

オロールは逆らうことなく後ろに下がる。

「だが、あいつは私とは何かが違う、そんな気がする」

相手の気配を探っている。そんな感じがする。

「えっ、何やってるのよ!敵だって思われちゃうじゃない!!」
「黙っていろ、いいから下がれ」

日本刀を抜刀する。

『Standing by』

機械の起動音のような音が聞こえた。

「やだよっ!おーい!!」
「黙れと言っている。如何にオロールの友人といえど斬るぞ」

抜き身のような脅しのような声でスキュルがそう告げる。それ以上声をあげられず、後ろに下がる。

「聞こうか、オマエは一体何者だ」

日本刀を振り下ろし、キッと相手に突きつける。距離はあまりないが緊迫感は、ある。

「こちらも問おうか、武器を向けると言うことがどういうことを意味するか」

答える相手もナイフを取り出しそれを握る。

「やはり敵か、目的は何だ」

剣を一度降ろし、攻撃の構えに移行する。

「さぁな。どうでもいいだろう」
『Slashe Mode』

次の瞬間、両者はほぼ同時に走り出していた。二人が接触する。
振り下ろされる日本刀をまるでそれが最初から来ることが予測していたかの如くスッとそれを交わしナイフを振り上げる。と、次の瞬間にはスキュルの右腕が肘のやや上から日本刀ごとポーンっと飛んでいった。
その表情には恐怖よりも驚きの表情だった、幾らナイフといえどそこまでの威力を持っているはずがないと。
そこに胸部へ回し蹴りが入る。突撃した勢いを殺せないまま受けたソレの影響で身体が一瞬沈んだ後、後方へ飛ばされる。

「下らん」
『Cool Down Mode』

「お、お姉ちゃん!!!」

オロールが叫びながら吹っ飛ばされた隻腕の少女へ駆け寄る。斬られた衝撃か、蹴られた衝撃か、気絶している。
右目からも出血があり、2回斬られたと言うことがわかる。彼女は自分の服を強引に裂き、切り口の上に縛り付ける。
しかし、もう出来ることはなく、ただ片割れの少女の嗚咽が小さく聞こえるばかりである。

「目は本物の戦士だった。もうちょっと出来ると思ったんだが、予想外だ。全く面白くない」

彼は至って平常心で、服でナイフの血をぬぐっている。

「敵対すると言うことはこういうことだ、それがわかっていなかったわけでもあるまい」

それは誰に向けられている言葉なのだろうか。

「あ、あなた!!」

リンが「彼」に向かって声をあげる。

「なんだ?」
「ど、どうしてこんなことを・・・!!」

実感が全然わかない、けどスキュルが斬られた、そのことは解る。

「理由は言った筈だが、敵対すると言うことはそういうことだ。刀など持ち出さなければ少しは穏便に済んだかも知れないが」
「でも、あなたは」
「あの娘、中々センスはある。ただ、何かが決定的にかけている」

冷静に状況を判断し、話をする気が無い男に向かってリンがまた声を荒げる。

「なんだってこんなことを!!」
「だから、それは言っているだろう。煩い娘だ」

男は手を止めナイフを投げつける。それはリンの横の髪を僅かにかすって飛んでいった。
無造作に投げられた一投だったが計算されている。そのことをリンは悟った。

「俺に敵対したからだ、もう言わせるな。こっちは尋ね人をしている。リンとか言う娘らしいんだが、口頭での説明だけだからな。斬りかかってきたのが本人かもしれないと思って、片手だけにしたんだがどうやら違ったらしい。付き添っているのもあの親身さから本人ではない。消去法で残っているのはお前だけと言うことになるんだが」

「そ、そうよ」

「それなら都合がいい、一緒に来て貰おう」
「い、嫌よ!!」
「それは困った。なら、心残りなく行けるようにトドメをさしてもいいんだが」

悪戯をしかる親のような口調で彼はそう言った。

「リンを確保できるなら他の者はどう扱っても構わないと。だから、お前がもし着いて来ると言うならあの娘たちに手を加えることはしない」

だが、これは「何もしない」ということを意味する。
Exeを頼ったとしてもそこまでの医療技術はないだろう。
失血死が先か破傷風になるのが先か、いずれにしてもよい未来は待っていまい、本当の助けが来なければ。
一緒に連れて行って欲しいと懇願されても別に構わない、それを受け入れても、その先がないからだ。
雇い主はどうやら目標以外に関しては興味がないらしい。危険分子を治療する理由はないだろう。
ジャングルの中で死ぬのか、コンクリートの床で死ぬか位の違いだ。

暫くの沈黙と、会話とよべない会話。

「教えて、教えてよ、一体どうすればいいの」

言葉にならない言葉を、何処にいるとも解らない友に向かってつぶやく。
ハッと気付いた時には彼が目の前にいた。

「時間切れだ。このまま、連れて行かせてもらう。」

腹部に鈍い感触。そしてリンの意識は途切れた。


***


話を聞くために今はリュウエの自室にミュナとアリスは通されていた。先の大勝によって1人部屋があてがわれている。

「なるほどな、信じられねぇけど。」

「けど本当なの」

考えを巡らすが、叔父の言葉も聞こえず。肩を落とす、スケールが大きすぎる。

「とりあえずここの司令官に相談しなきゃならねぇーんだが」
「そこなのよねぇ」
「まぁウチの司令官はまだ話がわかるほうだから営倉へ放り投げられる、なんてことはないだろうけど」

実際、ロールアウト直後の機体を実戦で使うと言うのはかなり勇気がいるはずだ。

「それは勘弁だなぁ」
「可愛そうだよ」

「まぁ、そこらへんは大丈夫だと、思う。直感だけど」
「そこらへんは任せるわよ。今すぐ行くの」
「俺なんか話し相手にならないだろう?あっちの方がそう言うのには向いてるからな」
「それはそうだけど、やっぱり心配だよ」
「なら、ついてってやるよ。何も出来ないと思うけどな」
「あ、ありがとう」
「私はお留守番?」

「そうなるかなぁ、ミュナには難しい話しだしなぁ」
「うう」
「直ぐに戻るからそんなに心配するな。ここは安全だしな」

頭の上に手を置き髪の毛をぐしゃっとする。ミュナは不満そうな顔をするがどうにか納得してもらえたようだ。

「さて、行くか」
「はい」



「成る程ね、他の世界から飛ばされてきたと、如何にもな作り話だな」
「司令!」
「信じられないかも知れません。でも、本当なんです」

司令の部屋へ行き、二人はソファーに座り、司令は専用の椅子に腰掛けている。リュウエは基本的に会話には参加しない。
常識的な判断能力を持つ人の答えが返ってきた。ここで信じられる人間は相当出来ている。

「だが、君のその格好を見れば少なくともこの国の人間ではないということは解る」
「えっ」

全く意外な言葉だった。もっと疑われると思っていたのだが。

「とりあえず国賓とは言わないがそれなりの対応をさせて貰おう。ただ、技術供与などはして貰うことになるがね」
「よっ、喜んで」

確かに安心した。しかし、このようなことをして良いのだろうか。私は元々は違う世界の住人だ、異世界である人に技術供与をすると言うことはその国の歴史をいじることに他ならない。
バタフライ効果、南国の島で羽ばたいた蝶の影響でニューヤークで嵐が起きる、そんなことを少しばかり考えた。しかし、世界を飛ばされている時点でパラレルワールドを含めた全ての世界が大きく歪ませていると言えるのではないか。私はその異変に更に刺激を与えようとしている。
言ってみれば私はこの世界から見れば、世界の敵、なのかも知れない。

「では、部屋を手配しないといけないな」
「おっ、お願いします」
「今の時点でのお願いは、無闇に出歩かないことかな、服は着替えてもらうが、それでも君には何か違う雰囲気がある。軍人と言うものは疑り深いからね。リュウエ君が世話係になるのが適当かな妹君も含めて、現在の状況が続く限りは、このままでいさせてもらう」

「ありがとうございます。司令」
「あ、ありがとうございます。で、司令は私のいっていることが真実だとして、どう考えますか」

暫く考え込む司令。

「そうだな。実感がわかない話ではあるが。君とその友人たちは同じ現場にいたのだろう」
「はい」
「となると、やはり作為的に飛ばされたと見るのが普通だろうな」
「どうして、ですか?」

偶然に起きた現象ならともかく、人為的なもので違う場所に飛ばされるものだろうか。

「過程と結果、手段と目的の話だよ。連盟なる存在を混乱させるのが目的ではなく、君と君の仲間を分断することが目的でありその為に罠を張ったと言うことだ」
「連盟そのものの混乱は2次的なものってわけですか?」

だとすれば、敵は相当入念な準備をしてきた筈、一隊誰がそんなことを。

「さぁ、どうだろう。2次的と言うよりは前提条件のような気がする」
「前提条件。つまり、わたし達は一緒にいては困ると言うことですよね」
「そういうことになる。失礼ながら、君がその管理人とは信じられないが、管理人とは言い換えれば門番だ。地獄の番犬ケルベロス然り、門番は重要な役割を持っている。これはわかるね」
「わかります」

関西弁の人形、ではなく、黒い3つ頭の巨大な犬が頭に浮かぶ。案外自分達って凄い仕事してる?

「門番がいない地獄は囲いが取り除かれ出入りが自由になる。連盟の本部もその状況に限りなく近いのではないかね?」
「ええ、ですけど仮に軍勢が攻めてきても防衛隊が展開して応戦している筈です。並みの軍隊ならすぐにやっつけられます」
「成る程。砦は残っているわけだ。しかし、そう長く持つものでもあるまいし、第一君達管理人がいると言う前提の下で訓練を行ってきたのだろう?」

少し考え込む、幾多の演習を繰り返してきたが、確かにその前提には自分達が陣頭指揮をとるというものであった。

「どの程度の防衛力を持つとしても、士気が低下していることは間違いない。攻め落とされるのは時間の問題、かも知れない」
「そんな、困ります」

「困らせるのが敵の目的なのだから仕方ない。その意味では君達は飛ばされている時点で負けているんだよ。恐ろしく広義の意味での勝敗だがね」

既に負けている。とすれば勝機は何処にあるのだろう。

「1体、これからどうなるんでしょう」
「考えられるのは君達が合流するのを阻止することだな。敵の戦力が如何ほどかわからない状況では、1人の合流阻止は1人以上の意味を持つ」
「もう誰かが、つかまってるかもしれないってことですか?」
「可能性の話をすればキリがない。こちらからは別の世界をのぞくことは出来ないのだから」
「歯がゆいなぁ」
「だが、普段の我々がソレだ。だが、君は少し感謝すべきだと思うがね」
「何をですか?」
「君が世界移動能力を持たないことだよ、もし持っていたらこのようには行かなかっただろう」

「そ、そうですね」

返す言葉も無い。仮に世界移動能力があったらこんな所さっさと逃げ出している所だけど。

「ま、まぁ良かったじゃないか。とりあえず匿ってもらえてさ」

あんまりいい状況ではないのだがリュウエの言葉には感謝したい。

「そ、そうだよね。うん、何が出来るかわからないけど。とりあえず置いてもらえるし、私頑張るよ」
「さぁ行こうぜ。司令、お世話になりました」
「ああ、こちらも興味深かったよ。また何かあったら言ってくれたまえ」

彼女達が去った後、司令室に1人の男が入室する。身のこなしに無駄な動作が全くなく、年を重ねれば立派な紳士になるだろう。
手首の下には色は判別できないが、半球体が見える。

「これでよかったのかな。『調停者』君」

「ええ、構いませんよ。彼女は貴方の提案を呑まざるを得ない。彼女は利用するだけ利用したと思ったら、こちらに引き渡してください」

それは長い視野で考える必要のあることである。相手が何処で満足するかはまったくわからないからだ。
だが、要はここに引き止めておく時間があればいいのである。救援がきたとしても先ずは攻撃を仕掛けるように仕組んである。
向こうとしても無闇にこちらの世界に介入したくはなく、武力的手段には応じにくいだろう。
そこを逆手に取り一方的な攻撃を仕掛け「させる」。
情報が提供されたとしても、自分としてはこの世界は自分にとって全く関係のない世界なのだから、敵とか味方とかいうものは関係ない。
兵士の生死も然りだ。

「だが、彼女の能力は本当なのかね?」

その言葉に全く考える様子はなく。

「実際に彼女に聞けばわかることです。こと、MS運用に関して言えば僕よりも彼女の方が優れてますから」

と返答をした。

「私が提供したメンタルサーキットの調整用部品も、使って頂ければ実用性が解る筈ですよ」
「我々の勝利が、より有効になるのであれば、手段を選んでいる時期ではないからな。有り難く使わせていただくよ」
「こちらとしても、提案に快く応じて下さって感謝していますよ」

アリス本人でも知らぬ所で、既に敵の攻撃ははじまっていた。


***


凄まじい音を立ててMSが「吹き飛ばされて」いる。一体どのような攻撃を加えればこのようなことが起きるのだろうか。

「不味いことになったな」

敵の第一陣をようやく看破したと思ったとたんに転移反応を確認。直後から猛攻を受けている。
単機にしては圧倒的過ぎる砲撃力だ。接近しようとする機体は特に狙い撃ちにされている。重砲撃タイプ、恐らく接近戦など全く考慮されていない。

「砲撃点の背後にも部隊を展開させろ。砲撃にひるむな、撃ち続けろ!」

激を飛ばすが、そう上手くはゆかない。破壊と言う殲滅戦と言うべき戦闘方法だ。

「1体で乗り込んでくるなんてどんなバカだ、それとも本気で一機でここを制圧するつもりか、いやそれはない」

この本部の守りは堅牢だ、たった一機で制圧できるわけがない。もっと大部隊で来る筈だ、先ほどの様に。
消耗戦を狙っていても単機で可能なわけがなく、狙いが全くわからない。
敵は遮蔽物から攻撃を繰り返しているらしく直接姿を見ることはできず、遠隔操作のカメラも時折射出しているのだがことごとく破壊されている。
だが、姿が見えないだけで位置そのものは掴んでいる。

「通信?」

恐らく敵からだ、降伏でも迫るつもりだろうか。無駄なことを。

「誰だ」
「ちょっと!、せっかく人が呼んでいるっていうのになんで無視するんですの!」

甲高い声がマイク越しに響いてきた。救援要請では在るまい。音声のみだが相当に若いことがわかる。
信じられないがどうやら敵らしい。

「誰が司令官かと思いましたのに随分と叔父様じゃありませんか。ワタクシ嫌いではなくてよ」

強化人間かもしれないと直感的に感じる。そうでなくとも普通ではあるまい。

「用件は?」
「素直に降伏してくださいませんか」

思ったとおりの要求だ。

「攻撃の目的は」

頭の方はあまりよくないようだ、少しは情報を引き出せるだろう、そう踏んで話をずらす。

「決まってるじゃありませんか、この施設の完全なる制圧です」

当たり前、と言うような調子で返してきた。恐怖とか不安とかそういう感情は全く感じられない。

「出来ると思っているのか?」
「あら、なんの勝算もなしだと思って?、既に全体の10%程の戦力は削らせて頂きましたわよ」

数字からみれば大した数字ではないが1機で成し遂げた戦績としては異常だ、先ほどの戦闘と合わせれば25%程度の戦力を喪失している。だがそれが即ち敗北を意味しない。

「そのまま削り続けられたらな。ひょっと負けるかもしれんな」

同じ勢いで軍団を破壊し続けることは不可能だ。こちらにも要素は揃いつつあり、反撃の準備は整いつつある。相手も機械である以上廃熱処理や残弾の問題は必ずある。
長期戦に持ち込んだ時点で相手の敗北は確定している、と思う。問題は、その後だ。

「調子に乗っていられるのも今のうちですわ。ワタクシには切り札があるのですから」
「切り札?」

その言葉に逡巡する。一体どのようなものを隠していると言うのだろうか。

「それにワタクシは負けません。何せ概念で戦っているのですから」

また訳のわからないことを言う。しかし勝ち誇ったその様子から自分の技能以上にその「概念」とやらを信仰しているような節がある。

「概念とは何だ?」
「フフッ、本当は解っていらっしゃるくせに。近い内にわかりますわ」

普遍の存在。成る程、そういうことか。

「ワタクシの自信がブラフでないことを証明して上げますわ。一発目はサービスですわ、行きなさい」

通信が一度切れ、直後に敵が潜伏している辺りから上空に向かって一直線に何かが飛んでいく

「不味い。サーチ、並びに迎撃体勢に移れ、全機射程に入り次第攻撃開始!!」

レーダーで追尾されたそれはただ上を目指しある高度まで達した時点で落下してくる。
攻撃可能になった機体から順次攻撃を開始するが破壊することが出来ない。

「何をやっている、敵が切り札といっているんだ破壊しろ!」

執拗に攻撃を加えるがミサイルが爆発する気配は一向にない。が、突然に爆発した。
衝撃波が本部全体を揺さぶる。直撃したら一体どれほどの被害が出るのか想像もできない。

「やったと見て間違いないな。危なかった」

幾つかの機体が爆発に巻き込まれたが本部を直撃しなかっただけよしとしなければならない。
暫く完全にモニターが断絶し機能を取り戻す。

「なに?我々の攻撃で爆発したのではない?。あの小娘、そういうことか」

「解っていただけましたか?ワタクシの切り札」

通信が回復し、またあの甲高い声が聞こえる。

「核か」

あの破壊力はそれ位しか思いつかない。

「核ではありません、放射能汚染はないとかで。限りなくそれに近いものだそうですわ。ま、ワタクシの知ったことではないですが。さて、返答を聞かせて頂きましょうか、ワタクシにはまだあれが2発残っていましてよ」

残りに2発、1発目は防げたとしても残り1発を防ぎきれるかどうか保証はない。
確かにブラフではなく、ここを沈黙させられる火力だ。
弾頭自身が誘爆を防ぐために相当な防弾力を持っているらしい、こちらから破壊するのは難しいだろう。
だが、敵を打ち倒すだけの条件も揃った。敵が強かろうが弱かろうが、そんなことは関係なく、その性質がわかれば、クリアすべき条件に変わる。
この敵の場合は敵がフルバーストを行った際には3.07秒の空白時間が生まれ、また、弾頭着弾時には17秒間、一切のモニターが使用できなくなり、敵からもこちらの生存の有無を確認できない。
決死だがここを制圧されるよりはマシだ。

「早く決めてくださらない。ワタクシも暇じゃなくてよ?」

「そう急かすな。こっちも命と任務の瀬戸際でな」
「バッカみたい。命と任務なら命をとるのが常識と言うものですわ。可笑しな人ですわね」
「私から見れば君の方が充分変だがね、名は何と言うんだ?」

作戦を練るための時間稼ぎの為になんとか話を続ける。向こう側には負けると言う気は全くないらしく余裕の構えで会話に応じてくる。MSの性能に負けている。本当に有能なパイロットならサッサと任務を行うはずだ。

「ワタクシですか?。No.5 殲滅者 トゥイレッティ・ダンセ、といいますの」
「成る程。確かに変わった名だ」

ナンバーを入れると言うことは少なくとも同じようなのが最低でも4人、ゼロも含めれば5人いることになる。
一番数字が新しいナンバーが気になるが、恐らく彼女も自分の番号しか知らないだろう。
指揮系統は統一されているが、個々のナンバーが独立して任務に当たる、普通の軍隊とは違う指揮系統で動いているのだろう。
このナンバーズの頭脳が皆彼女と同じレベルなら既に全滅していそうだが、多分それはない。
フェリオたちが飛ばされたのもこのナンバーズが原因と考えていいだろう。全く面倒な連中だ。
あの小娘を撃破したところで、別の部隊、ナンバーズが来ると言う可能性も否定できなくはないが、今は目の前の目標だけに集中しなければならない。

「大体解った。やはり君に従うことは出来ない」
「フン、無駄なことを。ワタクシに勝てる要素などないというのに!」

わかっていないのはお前のほうだ、ナンバー5。勝負は確率論で論じるものではないのだ。

「では、任務に焼かれて退場なさい!!」

戦闘再開だ、上空に向かって1発目の弾頭が発射され、同時に絶え間ない砲撃が加えられ始める。

「1機とはいえギリギリの戦い。『概念』か、面倒な物を持ち出す。全機フォーメーションを展開、総力を持って目標に対処せよ!」

殲滅者との本当の戦いが始まった。