エクス・スラッシャーズ〜船上のmerry苦しみます〜第3弾
神城蒼馬さんの作品です♪


 かがや き はじ めた ほしの そら へ

   ♪

 まず最初にアリスの目に飛び込んだ光景は、崩壊した都市と見覚えのある建物だった。
「これって……オリガン連盟本部?」
 アリスの前に広がるのは、崩れ去った連盟本部と横たわるセントラルタワーの姿だった。
「一体……こんないきなりどっかの映画みたいな」
 こらこら。いくらこのシーンが某名作映画のパロディだからって、そんな台詞わざわざ言うなよ。読者にバレちゃうじゃんか。
「まさかっ、さっきのキセアたん人形の爆発でまた多元間転送を? それにしてもこんな……っ」
 そこでアリスは気がついたようにもう一度辺りを見回す。空は灰色に包まれ、ほの暗く太陽も星も見えない。地上には廃墟と化した連盟本部のガレキの山。その向こう、地平線の先は見渡す限りの荒野だった。アリス以外人の気配は全くない。
「そんな……こういうのはリンの役目でしょう? あたしはリンと違ってインドア志向でおしとやかなの!」
 そう呟いてアリスはその場にペタンと座り込んだ。いつもならそんなアリスの言葉にすかさず突っ込みを返してくれるリンは、しかしここにはいないようだ。
 アリスの脳裏に嫌な予感が過ぎる。まさか、またやっかいな事件に巻き込まれてしまったのか。
 と、そのアリスの思考をさえぎるようにふいに辺りに低く唸るような重低音が響き渡った。どこかで聞いたことがあるような気がするが、今は思考が麻痺してしまったようで、うまく思い出せない。
 音の響いてくる方向に目を凝らしてみると、地の果てにこちらから向かって来る影があることに気がついた。人だ。
 始めはいきなりの展開にビクッと体を強張らせたアリスだったが、すぐにその表情は笑みへと変わった。その人影がアリスの良く知った人物であることに気づいたのだ。
「リ―――ンッ!!」
 アリスはその、数々の苦楽を共にしてきた頼れる相棒の名を力いっぱい叫んだ。対するリンの方もアリスと同じように何か叫んでいる。どうやら向こうもアリスの名を呼んでいるようだった。
こうして互いの名を呼び合っていると、呼び合うごとに不安もどこかに消し飛んでいくようだった。だからアリスもリンに負けじといっそう声を張り上げる。
「リィィィ―――ンッ!!」
「アリスーッ!」
「リ―――ンッ! 良かった、あたしも無事だよ―――っ!!」
「アリスーッ! ……げ……て……っ!」
「リ――ンッ! 良く聞こえな―――いっ」
「だか……に……ろっ!」
「何ーっ!? 良く聞こえないよー」
 そこでアリスは耳を澄ました。リンはさっきから必死に何かを叫んでいる。何をそんなに焦っているのだろう。辺りに響く重低音はいよいよ大きくなっていて、それが邪魔でリンの声が聞き取りづらい。
「にっ……っ……ろ―――っ!!」
 それでもアリスは必死にリンの叫びを聞き取る。
「ニ……ゲ……ロ……。に・げ・ろ……?」
 一瞬何のことかアリスには分からなかった。にげろ、逃げろ。逃げろ――?
 アリスがリンの叫びの内容を理解したその時、辺りに一段と大きな重低音が響き渡った。そこでアリスはふいに思い出した。さっきから聞こえている重低音。これは――MSの推進音だ!!
「逃げろ―――っ!!」
 リンが絶叫した瞬間、地平線の果てからMSの巨大な姿が飛び出した。
「な・ん・だ・そ・れ―――っ!?」
 訳が分からず叫ぶアリスの傍らを猛然とリンが駆け抜けていく。慌ててアリスもリンを追って駆け出した。
「ちょっと、アンタ! なんてもん連れてくんのよっ!」
「連れてきたわけじゃないっつーの! アレが勝手に追いかけて来たんじゃん。それに私は何度も逃げろって言ったでしょうーがっ!」
「分かるか―――っ!」
 ふたりは全力でMSから逃げながら怒鳴り合う。しかし今は喧嘩なんかしてる場合じゃない。ふたりのすぐ後ろには見知らぬMSが迫っているのだ。
 リンもアリスも必死に走ったが、如何せん一面ガレキの山な上に追いかけてくる相手はMSだ。どんどんその差は縮まっていく。
「もうダメだーっ!」
 謎のMSがすぐ後ろに迫り、アリスはもはやパニック状態だ。背後でMSがマニピュレーターを蠢かせる気配にアリスは思わず目を閉じる。しかし、予想したふたりへの攻撃はなかった。
 恐る恐る後ろを振り向くと、謎のMSは立ち止まり頭部を盛んに廻らせている。アリスたちでない、他の何かを探している……?
「アリス、こっちっ!」
「わわっ!?」
 リンに引っ張られるがままに、アリスはガレキの隙間へと滑り込んだ。ふたりが身を隠したすぐ後に、周囲を新たな空気を切り裂くような飛行音が響き渡る。
 謎のMSが転進しジャンプの予備動作へと入る頃には、アリスとリンのふたりにも空の彼方から迫る三つの機影が確認できた。その機体にリンは見覚えがあった。
「あれって、確かメイヴァーシリーズ?」
 編隊を組んで飛んでくるのは確かにゼリスたちマキナリアンが所有するモビルマシン・メイヴァーのようだった。だがその機体はリンの記憶にあるものとは違い真っ黒にカラーリングされ、細部の形状も変わっている。
 その三機の黒いメイヴァーに向かって、謎のMSがスラスタを吹かし飛びかかる。黒メイヴァーは散開すると、手足を収納した半MA形態のような姿になり、加速した。そのまま謎のMSの周囲を高速で旋回し出す。
それは一種の高速戦闘形態なのか、変形した三機の黒メイヴァーの高速フォーメーションに謎のMSはついていけず、瞬く間にハチの巣にされてしまう。
「ああっ……」
 アリスとリンの目の前で黒メイヴァーたちの持ったライフルの弾が飛び交い、謎のMSの腕が飛び脚がもげアーマーが吹き飛ぶ。四肢を失い落下していくMSに黒メイヴァーたちは容赦なく銃弾を浴びせた続けた後、取り出した高周波カッターを同時に投げつけ、すでに事切れた獲物をガレキの山へと磔にした。
 その様子はまるで百舌のはやにえ――一連の黒メイヴァーの動作からは全くもって人間身、機体を操るパイロットの意思というものが感じなれなかった。
「何なの……何なのよアイツらは……」
 呆然と呟くアリスに、リンもゴクリと唾を飲み込みながら答える。
「そんなの……私にだって分るわけないでしょう?」
「だってリン、あたしより先にここに来たんでしょう? 何か知ってるんじゃないの?」
「私だってパーティー会場からいきなり荒野に飛ばされたと思ったら、すぐにあのMSが出てきて逃げてきたんだから。ここの情報なんてテンでわからないっての」
 どうやらリンの方もアリスとさほど変わらない状況だったらしい。共通点はあのパーティーでの爆発の後、ふたりとも一瞬で別の場所に移動していたということ。
「私たち、あの爆発がきっかけで別の世界に飛ばされたってことかな」
「リンもそう思う?」
「状況から判断するとそうとしか思えないんだよね……」
 確かに。爆発の後に気がついたらそれまでとは全く違った光景が広がっていたのだ。アリスの中であの時連盟を襲ったある事件がフラッシュバックする。あの時も突然の爆発の後、ふたりは全く別の世界に飛ばされていたのだ。
「でも、今度はWEBリングシステムが暴走した訳じゃないんでしょう?」
 アリスの問いかけに、WEBリングシステムの管轄者であるリンは力強く頷く。
「うん、今回のこれはWEBリングシステムが原因じゃないよ。あの時と違って事前に何の異常報告もなかったしね」
「じゃあ、原因はやっぱり……」
「あのプレゼントの人形だよ」
 そこでふたりは押し黙る。原因はやはりあのプレゼントだとしか考えられない。つまり今ふたりが置かれている状況は事故ではなく、何者かによる陰謀だということなのだ。

 ここに来てからどれくらいたったのだろう。空は相変わらず灰色に包まれていて、まるでこの場所は時という概念を抜き去ったようだ。謎のMSを破壊し終えた黒メイヴァーたちは警戒を続けるように周囲をゆっくりと旋回し続けている。その規則正しい動きだけが静止した空で唯一時を刻むものだった。
「みんなは……他のみんなはどうなったんだろう」
 ヒザを抱えながらアリスが思いついたように言う。
「やっぱり他のみんなも何処か別の世界に飛ばされちゃってるのかな?」
「さあ、どうだろうね。キセアかゼリスでもいれば何か分かるんだろうけど……今の時点じゃ情報が少なすぎるよ」
 答えるリンの声にもあまり力がない。行動を起そうにも、さっきから周りを飛び続けているメイヴァーがいるうちは迂闊に動けない。当分はここで身を隠しているしかなさそうだった。
「そもそもここって何処なんだろう? 連盟本部があるってことは、やっぱりここも未来世界なのかな……?」
 ここに飛ばされたとき確かにアリスは崩壊した連盟本部を目にしている。だとしたら順当に考えれば、ここはかつて連盟が存在した世界=自分たちのいた世界の未来だということになる。しかし、そう結論づけるには何かが引っかかる。
 アリスの問いかけに、リンは無言だった。リンはロダンの考える人よろしくポーズを取りながら、何かしきりに考え込んでいるようだった。
「世界……セカイか」
 そう呟きながらリンはアリスに向き直る。
「アリス、アンタはここに来たときどう感じた?」
「どうって……いきなり気がついたらこの場所にいて、一体何がどうなってるのーって」
「それだけ? 何かおかしいとは思わなかった?」
「おかしいも何も、目の前は廃墟だし、崩壊した連盟本部があるし、周りは一面の荒野だし……前みたいにまた何処か別の世界に来ちゃったのかなって思ったよ」
「そう、それだよアリス。今回の出来事は前によく似てるんだよ。つまり……」
「そうか、そういうことなんだね」
「そう、そういうこと」
「うん、あれなんだよね」
 そこでふたりはゆっくりと頷きあい、アリスがその結論を述べる。……それはまさに禁断の果実、触れてはならないタブー。
「夢オチ……」
「こンのぉスカタ―――ンッ!!」
 すかさず眉間に炸裂したリンのツッコミチョップに、アリスは即座にKOされた。
「うお、いてぇぇぇっ! ギブギブギブ。リン、これ以上はギブアップ」
「だったら最初からつまんないボケかますな! 分からないならそう言え!」
「だって〜、リンがシリアスなんだもん。ガラにもなく……」
「ほう、今言ったのはこの口? 大変素敵に私のことをさりげなく挑発しやがりやがっのはこの口ですか!?」
「うわっ、ゴメン。つい口がすべった……じゃなくて。今のは……今のはそう! チュミミ〜ンいう背後霊の仕業だよ!」
「ほうほう。そんな嘘を垂れ流すのはこの口ですか、そうですか。ほらほらほらほらほらほらほら―――っ!」
「ぼ……ぼらーれ、びいーあ(や、やめてよ、リーン)」
 リンに頬っぺたを引っ張られ、アリスが涙目になりながら必死に否定する。
 さっきまでのパーティーでの狂乱の再現。ルール無用のサドンデスマッチの第二ラウンドが始まった。赤ぁコォーナァー、ピンクはいらない娘100%ポンド、アリスゥ。青コーナァァァ、アホ毛所持金120ペソ、リィィィン。ガァンダムゥ・ファイットゥ、レディ・GO。マッハごうごうごう、555、ファイズゥゥゥッ!!
 ……おかしいな。真面目な話を書くつもりだったのに、なんでこんなトチ狂ってんだろう? やっぱり沸いてんのか、作者の頭が。
「ぜぃぜぃぜいぃ……」
「はぁはぁはぁ……」
 ひとしきり取っ組みあった後、ふたりは肩で息をしながらようやく我に返った。
「……つまりね、はあはあ。私が言いたいのは、今の状況はあまりにも前回に似すぎているってことなんだよ」
「……はふはふ。どういうこと?」
「だから……不自然過ぎるんだよ。ここだって一面の荒野に都合よく連盟本部の廃墟だけあってさ、あらかじめ用意されてたみたいに。これじゃまるでここは…………っ!?」
 突然リンは話しを中断した。リンに一瞬遅れてアリスもその気配を感じ取る。
「何か……何かがくるっ?」
 ふたりがとっさに身を伏せるのと、上空を何者かが通過していく巨大な影がガレキの山を通り越していくのは、ほぼ同時。
 アリスは自分たちの頭上を通り過ぎて行ったそのシルエットを凝視する。
 その機体は全身のいたるところから突起状のパーツが突き出し、頭部からはまるで楽器のようなパイプ状のパーツが幾本もなびいている。アリスは知っていた。その機体の全身からハリネズミのように飛び出した棘は無数の砲身であり、アウトレンジからの砲撃戦に特化したそれは圧倒的な火力を秘めていることを。鈍く黄土色に輝く装甲に身を包んだ、エクスターミネート・ヘッジホッグ(殲滅のハリネズミ)。
「ナースホルンッ!?」