| 母と息子 「あら?国光さん、居間にいらっしゃるの?」 そう言いながら、帰宅した手塚・母は何気なくリビングに顔を出した。そこで彼女が見たものは・・・。 いかにも「今、風呂から上がりました」と言わんばかりの濡れた髪と薄紅色の肌をして、息子のパジャマ(なぜか上だけ)を着て、我が家のようにくつろいで、ファンタを飲んでいる越前リョーマの姿だった。 「あ、・・・オジャマシテマス」 「いえ、・・・ようこそ」 「・・・・・」 「・・・・・」 「なっ!!母さん?!旅行は明日までの予定じゃ・・・」 一瞬の沈黙の後、うしろから聞こえてきた息子の声に彼女が振り返ると、そこには・・・。
いかにも「今、風呂から上がりました」と言わんばかりに濡れた髪にタオルをかけ、自分のパジャマ(こっちは上下)を着て、風呂上がりの習慣として飲んでいるミネラルウォーターを持った息子の姿があった。 「え、ぇ・・・そうなのだけど、急に明日、行かなければならないトコロが出来て・・・」
「そ、うですか」 手塚親子がぎこちない会話をしていると、どこか不安そうな声でリョーマが手塚を呼んだ。 「ぶちょー・・・・・」 その表情は、まるで怒られることを覚悟した子供のようだった。そう、リョーマは2人の関係が手塚の母親にバレたのではないかと不安で、・・・怖かったのだ。
「あぁ」
その事を瞬時に察知した手塚は、手短にそう言うと、母親の横を通り抜けてリョーマの元まで行き、頭にポンポンと手を乗せながら小さく囁いた。
「大丈夫だから」
「うん・・・」 そして、リョーマを安心させるように優しく微笑むと、おもむろに母親の方に向き直った。
「母さん。こっちは今年の新入部員の越前リョ」
「ま・・・ぁ!!国光さん、あなた」 いきなり正気に戻ったかのように、ハッとした表情で、こちらに歩み寄ってきながら話し始めた手塚・母。 ギクっ・・・バレたか?!
「あの・・・母さ」 「眉間に皺のない表情もできるじゃないの!!」 「ん?」 「は?」 まさに「鳩が豆鉄砲を喰らった」様な顔で自分を見つめる2人のコトなどお構いなしに、手塚・ 母は喋り続けた。
「国光さん。わたくしはね、常々思ってましたの。どうして国光さんはいつもいつも小難しい顔をなさっているのかしらって。テニスをなさっていても、表情は六法全書を読んでいるようで・・・全くさわやかでは無いんですもの。お父様くらいのお年なら分からないこともないけれど、国光さんはまだ中学生でしょう?もっと、こう、中学生らしいというか、若々しい表情をしていても良いのではないかしらって。ほら、菊丸さんのトコロも不二さんのトコロも、とっても魅力的な笑顔をなさっているじゃない?それなのに国光さんたら笑顔どころかいつも眉間に皺が寄ってるんですもの。わたくしね、正直不安でしたの。もしかしたらあの皺は既に消えないものになってるんじゃないかって。もう、何度国光さんの寝顔を確かめに行こうと思ったことか・・・」
「か、母さん?」
「だけど、本当によろしかったわ。そんなに優しい表情もできるじゃないの」 「は、はい・・・」 そうか、自覚は無いがいつもそんな表情をしてたのか。しかもそのことが母親を不安にさせていたのか、と手塚が少々複雑な思いをしていると、手塚・母はニッコリ微笑んで更に話を続けた。
「しかも、こんなに可愛らしい方までいらっしゃって」
「!!(やっぱりバレた?!)」×2 「国光さんはともかく、相手の方が選んで下さらなければどうしようもないでしょう?こう言うことは。・・・我が子ながら、いつもあんな表情をしていたのでは誰にも相手にされないだろうと思ってましたのに。よく、よく選んで下さったわ。本当に嬉しいこと。国光さん、大事になさってね」 そう言って、ほんっとーーーに嬉しそうに「ほほほほ」と笑う母親を前にして、もう何を言っていいのか、さすがの手塚も分からない。・・・結構失礼なことも言われたのだが、それさえ気にする余裕がない。 「あぁ、もちろん大事にはしてるが・・・」 「でも、国光さんは鈍感なところがあるから気を付けて。この機会を逃してはなりませんわ。・・・・・そう!この機会を逃す手はありませんわ。ねぇ?」
何かを思いついたらしい手塚・母の笑顔に、ある意味不安を覚えながらリョーマと手塚が注目すると、 「あなた達の結婚式を挙げましょうよ♪」
彼女は爆弾を落とした。
「はぁ?!」×2
「ね?そうしましょう?大丈夫、わたくしが全て準備しますから。あなた達の手は煩わせませんわ」
そう言って1人暴走する彼女を前にして、さすがのリョーマも度肝を抜かれたのか・・・先程とは違う意味の、不安な表情をしている。
「・・・ぶちょう?」 「なにかしら?」 「何か誤解をしているようなんだが」 「?・・・国光さん、その方のことお好きではないの?」 「え・・や、あの・・・それは」 「お付き合いなさってるんでしょう?」 「あ、あぁ」 「それでしたら、なにも誤解はしてませんわよ?」 「いや、それが・・・さっきも言ったと思うんだが、越前は部活の後輩なんだ。つまり・・・・・男性なんだが・・・」 「そんなことは見れば分かりますわ。それに国光さん、あなたわたくしを莫迦にしているの?まだ耳は遠くないですわよ?記憶力もそう悪い方ではないですし」
「え?」
「?!そ、それだったら、どうして結婚って・・・」 「国光さん、耳が遠いのはあなたの方ですわ。わたくしは『結婚式』と言いましたの。『結婚式』であれば同性であろうが、年齢が18歳未満だろうが挙げられますでしょう?」 「や、まぁ、それはそうだが・・・どうしてそんなことをわざわざ・・・」 「何を仰ってるんですか!こんな可愛らしい方、いつ誰に獲られるとも分かりませんでしょう?」 「確かに、狙ってるヤツは多いんだが、」 「そうでしょう?!しかも、相手が誰であれ、こちらは国光さんなのですよ?わたくしは多いに不安です。ここは先手必勝。家族公認で『式』まで挙げたとなれば少しは優位が保てるはずです。そう簡単に手も出せなくなりましょうし、あなた達の気も引き締まるでしょう?」 もう彼女は止まらない。そして、げに恐ろしきは「女の感」と「母の愛」。一目でリョーマを息子の恋人と見破り、果ては息子の将来を心配するあまりリョーマの性別などお構いなし。ついでに本人達の意志もお構いなし。そんな手塚・母を呆然と眺めながらリョーマが口を開いた。
「ねぇ、結婚式、するの?」
「・・・・・・」 「部長のお母さん、ホンキ?」 「あぁ、多分。あの人は、人をからかって遊ぶタイプじゃないからな」 「・・・ねぇ、部長は?したい?」 そう言ってリョーマは手塚のパジャマの裾をクイクイっと引っ張った。「こっちを見て」その合図に手塚がリョーマに顔を向けると、そこにはいつもの自信に満ちた瞳で、自分を見上げる恋人の顔。そして、口にしたのは明らかに手塚の意志を聞いた言葉。欲しい言葉が返ってくるのを期待した言葉。これに応えられないようでは、やはり誰に獲られても文句は言えないだろう。だが、手塚は即答した。
「あぁ、したいな。」
「ホントに?」 「あぁ、皆に見せつけることが出来るからな。リョーマはオレのものだって」 「でも、アノヒトタチには効かないと思うよ?」 「まぁ、な・・・。それでも、見せつけることは出来るだろう?式の間中オレがリョーマの隣にいるのを、あいつらは邪魔することも出来ずに見てるんだ。それに、リョーマがオレに誓う言葉も聞かされるわけだしな。多少なりともダメージはあるだろう?」 「/// ば、ばか・・・」 「まぁ、あの人の息子だからな」 そう言って笑う手塚の胸に、リョーマはバフっと顔を埋めて、真っ赤になった顔を隠した。そんなかわいい恋人を抱きしめながら手塚がどうやって母親の暴走を止めようかと考えていると、やはり急用で出張先から急遽手塚・父が帰宅し、一応の収拾を収めた。
結局その夜は、「恋人達の夜」を奪われた手塚には(顔には出なかったが)少々不満が残る夜となり、リョーマには・・・手塚の両親に会ったことで知らない手塚を知ったような気がして、なかなかに嬉しい夜となった。 |
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