小説置場二戻ル。


寝覚月


 後孔に宛がわれた指は、何の躊躇いも拒否もなくすんなりと奥まりへと進む。
 時折軽く波打つ体を、逆の手で宥めるように撫でてやれば、指の侵入を進めるように腰が揺らめく。
 そこからは甘い淫蕩が薫るようで。

 夢現の頭で、ぼんやりと考える。
 始まりは、どうだったのかを。



 その日、恋次は通常の隊務の後、これもまた通常となりつつある練武場へと通った帰り道だった。
 体を鍛えること、強さを身に付けること、それが恋次の日々生きる、糧。
 練武場に風呂なんかはついているはずもなく、9月の冷たい風が吹く中を隊舎へと小走りで向かっていた。汗が冷えて、体の熱を奪う。
「ふ……っくしゅ!!」
 突如襲ったくしゃみは、一度で済まず、癲癇のように何度も繰り返し襲う。恋次は仕方なく立ち止まってくしゃみの発作が止まるのを待つ。
 そこが、金観堂の裏手とは知らず。
 金観堂が隊首会の会合に用いられていることをヒラ隊員でさえ知っていることだったが、生憎恋次は、その日その夜に夜の会合…つまり飲み会が開かれているなんて思いもよらず。
「ふぇっくしゅ!」
 何度目かのくしゃみでようやく体は治まり、改めて隊舎へと向かう。
 と。
 したところに、上から声がかかった。
「おーい。阿散井くぅん!」
 その声に顔を振り上げると、建物を囲む廊下から、恋次の所属する隊の隊長が恋次を手招きしていた。
「あっ、藍染隊長ッ!?」
 手すりから身を乗り出し、恋次の肩を掴む藍染は、間違いなく、酔っ払っていた。
「…くっさ!」
 体からぷぅんと匂う酒の香りがなんとも強烈で、それにも増して、いつもは平静な藍染がへらへらと締まりのない笑顔を寄越している。
 恋次は、手すりを掴むとひょいっと体を廊下へと躍らせる。草履を脱ぎ、腰に結びつけると、体から緊張の奪われた藍染に近寄る。
「大丈夫ですか!?」
「あーいやぁ、今日は新入隊員の歓迎会でねえ。つい飲みすぎてしまったよぉ」
「はあ…」
 藍染はすっかりその体を手すりに凭せ掛けている。多少体の冷える風が心地よいと言ったところか。
 そんな藍染を廊下に残し、廊下から引き戸をそっと開け堂の広間をそっと覗き込む。
 ・・・死屍累々。
 新入隊員とはいっても、三席以上の新しく席官に付いた人たちを迎えての歓迎会だったのだろう。が、まあ、こんな機会でもないと羽目を外して飲めないからか、その惨状はあんまりなものだった。
 対して広くもない天井の高い広間では、幾つか輪が出来、幾人か壁際に転がっている。あの一番盛り上がっている輪の中心は、八番隊隊長か。
 隊長が声を掛けてくれたおかげで珍しいものが見れた。と、藍染を振り返ろうとしたときに目の端に掠った姿があった。
 広間の上座端の方で静かに酒を飲んで…いや、嗜んでいる、その場には不似合いな姿。
 そこだけ空気が静かで、温度が低い。
 あれは、六番隊隊長、朽木白哉。
 恋次は目の端から中央にその姿を捉え、知らず目が奪われるカタチになる。
 意識が白哉に釘付けになっていた為、恋次は気が付かなかった。後ろに忍び寄る人影を。
「よぉ、阿散井」
 一瞬にして体が強張り、振り返った先のその声の主は、身の丈ゆうに恋次を越える、十一番隊長その人であった。
「ざ、ざ、更木隊長っ!?」
 何度もその雄姿を見かけ、幾つもその功名を聞いてきた。けれどもそれは全て清廉なものではなかったが。
「藍染を迎えに来たのか?」
「は、い、いえ」
 対峙すると肌をピリピリと焼く、この人の強さを感じる。
「まあいい。オメエも飲んでけや。酒は腐るほどあるしなあ」
 そうがっちりと肩を掴まれたとき、恋次は、明日が非番で良かったと深く、深く嘆息をついた。

 ふ。
 と目を覚ますと辺りはとても暗かった。
 自分の部屋であれば枕元に小さな灯りがあったはずだが、手探りで探しても手は空を掻き、辺りは暗闇のまま。
 どこだろう。と体を起こすと、頭が鐘を打つような痛みで、四肢に妙に力が入らないことを知る。
 これは間違いなく酒の、いや、更木の所為だと。恋次は更木と飲んでいたことを思い出す。
 大きな手で押され、広間に入り誘われた場には同じ十一番隊の面々やら、かなり出来上がっている人たちが。そしてその輪に入ったということは、モチロン。
「……っはー」
 頭を掻いてため息をつくと、その自分の息すら酒臭くて眩暈がする。
 そのため息と前後して、恋次の近くで衣擦れの音がした。
「…だ、誰だ?」
 酒で焼けた喉は痛み、その声は掠れてしまっている。
 恋次の問いかけを受けて、衣擦れの音がした方向から白い手が伸びてくる。

「目覚めたか」

 白い手に頬を触れられたからではない。
 その、聞き覚えのある声に、恋次は背筋が伸びるのを感じた。

「…朽木…隊長…?」

 相変わらず暗闇しか見えない目には、人影すら捉えることは出来ないでいたが。
 確かにその声は、あの、朽木白哉のもので。
 と言うことは、この手は。
「具合は」
 うまく働かない頭で、白哉が近くにいると言う事実がただただ信じられず、白哉のその問いに恋次はタイミングを大きくずらし返事をした。
 頷きのみで。
 それを頬に触れていた手で分かったのか、
「そうか」
 と短く言うと、白哉は恋次の体を抱き寄せる。

「…た、隊長ッ!?」

 短く叫んだ批難の声は受け入れられず、その唇はそのまま白哉のものに絡めとられた。
 何か、熱い液体が喉の奥を焼きながら通っていく。
「んっ。ふ、うっ」
 液体が熱い感覚を持ったまま胃の腑に落ちると、途端に噎せりが起きる。
 ゲホゲホと咳をする恋次には全く構うことなく、白哉に再び唇が奪われる。
 咳までも飲み込まれ、息をすることも出来ず、ただただ苦しいだけのキス。

 暫く口腔を蹂躙し、ようやく離したときに白哉はただ一言いった。
 酒に、付き合え。と。

続>>


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