陶芸Q&A
絵具・絵付・化粧
Q5.昔そごうで、「陶磁器人形と仲間たち」という瀬戸輸出陶磁器工業組合青年部の創立20周年記念事業を見てきたのですが実演コーナーや、ビデオで、制作過程を説明していました。釉薬を使った絵付けの薬は、シンナーのように、きついにおいでした。「これを塗って、もう一度焼くと、この部分が、金色になるのだよ」と瀬戸のおじさまが、おしえてくれました。これはどういうものですか?
又、この中で、「松ぼっくりを釉薬に混入すると、おりべの緑が鮮やかになる」という説明があったのですが、??どうして?
A5.え?そう?なんで?何の臭いがするんでしょ?
あ、もしかして、それ、上絵具でしょうかねぇ。だとしたら、膠かテレピン油が入っているからじゃないでしょうか。布海苔(ふのり)ならば、それほど臭いしないと思うし。(腐っていれば別だけども)まつぼっくりについてはわかりませんので調べてみます。
Q9.上絵具は、釉薬じゃないの?
A9.簡単に言うと、上絵具は釉薬です。
ただ、普通、器に掛ける釉薬が1250度内外なのに対して、上絵具は650〜800度でガラス化するようになっている「低温釉」という分類に入っています。(ちなみに、1250度あたりで熔ける釉薬を「高温釉」というわけですね。)
では、なぜ、「上絵具」などと言うかと申しますと、本来は、高温釉のように全面を着彩するためのものではなく、線や、ある程度の面をぬるための、いわゆる「絵を描くため」の釉薬だからです。つまり、「釉薬(高温釉)の上に絵を描く釉薬」ということで、正式には「釉上絵付けの絵具」と言うべきなのでしょう。(ちなみに、高温釉の下に絵を描くための着色用酸化金属を下絵具と、いいます。古伊万里焼などにある青い線描画が代表的なものですね。)
それで、Sさんが見た物は、上絵具の中でも特殊な「金彩」というものですね。これは近年になって開発された「水金」というやつで、730度で金を上絵として焼き付けるための特殊な釉薬です。一応、説明しますと、金彩は、硝酸ビスマスという金属を繋ぎにして金の膜を器の表面に付けるもので、二つの金属を溶かすために「テレピン(ターペンタイン)」という松油を精製した物を使用します。これが、Sさんが嗅いだツ〜ンとした臭いの原因ですね。(実は私、油絵科出身なので、この辺の油に関しては結構、詳しい。) で、金彩や銀彩(他にもあるけど)などのビスマス金属を利用した特殊な上絵付け以外の場合には、テレピンではなく、水に釉薬を溶かしますが、下に高温釉がすでに焼き付けてあるので、水に溶かした釉薬では流れて、絵を描く事ができません。それで、釉薬の粘性を高めるために「膠(にかわ)」という動物(主に鹿や兎)の油脂を入れてエマルジョンという状態(化粧品でもありますよね)にして、絵付けをするわけです。
あ、そうそう。ちなみに、瀬戸の磁器人形は世界最高水準のしかもシェアー世界一だそうですよ。ヨーロッパの人形でも、実はmade
in Japanというのは、知られざる事実だそうです。(Japanって表記しないらしい。)
Q10.緋(火)襷で使用する藁は一度、塩水に浸してから巻く方がきれいに襷が出るといってました。
A10.藁を塩水に浸けるかどうかは、土の性質に因るのだと思います。
藁にも粳米と、もち米の藁がありますから、そのどちらを使用するかによっても、藁の使用方法は違うそうです。大抵は、粳米の方を使用した方が襷が綺麗にでると言われているそうですが、どうなんでしょう?
それはさておき、藁にもナトリウムなどのアルカリ分の多いものと少ないものとがあります。少ない場合には当然、塩水に漬けなければなりませんが、私が東急ハンズで買った藁で実験したところ(信楽水簸土(やや赤土)、および合成備前土使用)、塩水に浸けると、逆にアルカリ分が多すぎて藁の襷がぼやけてしまった事があります。(緋色が強く出すぎたって事ですね。)また、合成備前土だと、鉄との反応が強すぎて、少量の火膨れが見られました。素地が浸食されすぎたようです。しかし、ただ藁を撒いただけだと、何故か弱く、冷水に浸けてから撒いたものが、一番、襷という感じで出ていました。(理由は定かではありません。)ちなみに、緋色そのものは、どちらの土も似たような赤色でしたから、蛙目系の粘土に適量の鉄が混入されていると、それなりの襷はでるようです。
Q22.最近色付き備前というのを時々見かけるのですが
A22.俗に色絵備前とも言われるものがあります。これは江戸時代に主に池田藩の御用窯で焼かれていたものです。素焼きの上へ絵の具で絵付けします。たしか、それ以上には焼かなかったのだと思います。明治になっても作っていた人がいたはずです。人形など置物がほとんどですね。
現在では彩色した備前が存在します。、「色彩備前」といって山本陶秀さんの三男坊 山本 出さんという方が独自路線を歩みつつやっておられるものの様です。これは器としての備前の本質から言うと異端であり論議をかもしていると思いました。もしかしたらその手の備前のことかも知れませんね。
Q28.柿衛門に代表される白と、白薩摩に代表される白とは
A28.柿衛門に代表される白と、白薩摩に代表される白とは、素地の性質が180度くらい違うので、あのような瀬戸のサラッとした白と、薩摩のぬっぺりとした白との差がでます。瀬戸の磁器土は、その主な主成分が珪酸という「ガラス質」の物質で、この物質が多くなると「透過性」という光を通す性質が強くなり、その上に赤をのせると、幾分、発色が強調されます。
一方、薩摩白は、カオリン(カオリナイト)という土が主成分なので、ガラスの白い発色とは違い、透過性はありません。また、カオリンは良質の物であっても鉄やチタンがガラス質のものよりも多いので、白の発色に、それらの物が関連して、純白の白さを出しにくいようです。そうした、カオリン質の白に、あの柿衛門の赤をのせると、少々、赤が濁って(くすんで)見えることが多いため、どちらかというと、柿衛門赤よりも透明度のある赤を使用することが多いようです。 ちなみにカオリンとは一次粘土という、熱水作用を受けて鉱物が変化した粘土の名称ですが、その語源は高嶺山(たぶん、本当は「カオリンさん」と読むんだと思う)という中国の山に堆積する白色の粘土にあります。
で、そのカオリンの構成鉱物(粘土)の大多数を占めるのが「カオリナイト」という結晶形態を持つ粘土です。
Q31.唐津で買った湯呑みが、白い湯呑みで、お湯を入れると、しばらくたつと、水玉の様な、まだら模様が浮き上がってきます(貫入ではないのですけど)お湯を捨てても、しばらくは、ホルスタイン状態で、完全に乾くと(気付くといつの間にか)もとの真っ白に戻っています。
A31.その湯飲みって、粉引きみたいに化粧土がのってたりしませんか?。だとしたら雨漏り手といっていいと思います。雨漏り手は、本来、「雨漏りをしたような模様のあるもの」の総称を「雨漏り手」と言います。
で、雨漏り手が何故出来るかですが、私も詳しいことは分かりません。実を言うと。ただし、素焼きをした素地に、生の土系の白化粧(白い土を泥状に溶いて、それを器に塗ること)をし、さらに、天然藁灰を使用したやや分相系の釉薬を掛けると、かなりの確立で雨漏り手が生じますから、そこから考えると、どうも、この雨漏り手には、釉薬中に出来る空気の泡と、素地と釉薬との密着度が関係しているような感じがします。
天然の木灰を使用した釉薬は、鉱物を原料とした釉薬に比べ、大抵、釉薬中に生じる泡が多くなります。これは、素地から出る水蒸気や釉薬原料の反応による分解作用で生じる物ですが、天然の木灰は、特にこの泡が多く発生し、また残留します。(それで、釉薬に微妙な色の差を作ります。)
で、その泡は、釉薬の熟成中に表面まで上がり、やがて、破裂して釉薬の中から出ていきますが、その際に、釉薬表面に「ピンホール」と呼ばれる小さな孔を作ります。このピンホールは、肉眼で確認できるものから、ちょっと肉眼では確認しづらいものまで大小さまざまですが、雨漏り手は、このピンホールから毛細管現象によって入り込んだ液体(主に水)が、素地と釉薬が密着していない隙間に入って出来る模様です。
前記した、素焼き後に白化粧をした方が雨漏り手が出やすいというのは、素焼き後の素地に、生土の白化粧を塗ると、亀裂や剥離が起こりやすく、よって、素地と釉薬の隙間が出来やすいからでしょう。
「水玉のようなまだら模様」は、まさに、この現象です。通常の雨漏り手は、この隙間に入る液体に色素などがあり(茶などですね)、それが徐々に残留して、渋い色の雨漏りを作ります。
しかし、中には窯から出した時点で雨漏りがすでに生じているものもあるそうで、これは、私も調べましたが、なぜそうなるのかは分かりませんでした。(ただ、想像するに、素地の鉄などが釉薬中のピンホールに集中して表れる御本手のちょっと違うバージョンのような気もします。あくまでも、想像ですが。)
ってことで、お分かり頂けたでしょうか?雨漏り手。
Q36.白刷毛に挑戦していますがいつも結果は芳しくありません。問題は地のねずみ色なのですが、これは何の(?)色なのでしょう。鉄分の強い土に、土灰釉で還元で焼くらしい事は分かっているのですが、何時も、真っ茶っ茶になってしまいます。他の作品も同じようにガラス質が出ずに茶色になってしまうところを見ると焼き方が悪いのでしょうか?特に鉄分の多い個所に出るようです。先生は釉薬のかけ方が足りないと言いますが(確かに厚くかけた方がガラス質が残っていい様ですが)どうも納得が行きません。
A36.御質問の件ですが、極端な話、陶芸の結果は複数の要因が微妙に関わって生じることが多いので、原因は多数考えられます。ただ、“
ガラス質が出ずに茶色になってしまう”という事ですから、おそらく、釉薬が薄い(または釉薬の撹拌が悪い)のが原因でしょう。
それに絡んだ事として、以下に、その原因を書いてみました。
まず最初は、土の選別によるものです。
「鉄分の強い土」という事ですので、おそらく陶芸教室で使用しているものは、「信楽水簸土(赤)」または、「特赤」と呼ばれるものでしょう。前者は、ややきめが細かく、焼き締まりの強い土。後者は粒が荒く、焼き締まりが「水簸土」よりも弱い土です。前者を使用の場合は、相当釉薬が薄くない限り、まず地が茶色になることは無いと思いますが、後者の場合ですと、焼成中、素地が釉薬を吸収しますので、特に厚く釉掛けをするようにしないと、結果的に釉薬が薄くなって地が茶色くなることがあります。
次が、素地の厚みです。
これは施釉との関係もあるのですが、施釉時の釉薬の付きは、素地がどれだけの吸水力を有しているかによって変化しますから、磁器のような薄い素地の茶碗を作っていらっしゃるようならば、吸水力が落ちるので、施釉時に2度掛けや3度掛けという特殊な施釉をしなければなりません。本文の“
土灰釉で還元で焼くらしい(以下略)”という文面から察するに、生土段階の処理だけで、乾燥後の後処理については、ノータッチのようね。
施釉は個々の陶芸教室によって解釈が様々ですから、何とも言えませんが、確実に釉を厚く付くようにしたいとお思いならば、器をある程度厚く作っておくのがベストでしょう。
最後が、施釉時の事と、釉薬の調合による問題です。
釉薬の調合上の問題として考えられるのが、「土灰釉」の調合です。「土灰釉」と一口に言っても、その調合は千差万別で、天然灰を使用したものから、合成土灰と称する複数の化学薬品を使用したものまでいろいろありますから、それによって、施釉時の釉薬濃度を微妙に変えないといけません。ちなみに、天然灰使用の場合は、灰の殆どが焼成時に消失してしまうものですから、釉濃度を高くして(水を少なめにする)、厚めに施釉できるようにしますし、合成土灰使用の場合は、焼成消失物質(これを熱量杓減と言います)は少ないですから、天然灰使用よりも濃度をずっと低くして(水を多めにする)おかないと、白く濁った釉になってしまいます。
又、何かの原因で釉薬が薄くなってしまっていることも考えられます。たとえば長い間容器に入れて使っていると、自然蒸発で濃度が変わりますので時々水を加えて攪拌する事があります。この時、水を入れすぎたりすると薄くなるわけです。
一方、施釉に関しても(これは、先の素地の厚みでも少し話していますが)、ずぶ掛け、杓子掛け、浸し掛けなど、施釉の方法を変えると、釉薬の付きも変わります。どの方法で施釉しているかによって、釉薬の付く量も変わりますし、釉掛けする人の癖もありますから、この辺は、釉掛けする本人の杓子によるものが大きいので、よく注意した方が良いでしょう。
で、後は、ちょっと申し上げにくい事なんですが、陶芸教室でバイトを雇って経営をしている場合で、特に、施釉を職員側で行っている場合は、窯入れ前に、沢山の作品に一度に施釉をしなければならないため、途中、かなり撹拌状態や釉薬濃度に気を使ってやらないと、施釉の最初と最後で、かなりの濃度差が生じてしまう事があります。バイトさんの場合(特に学生)、この濃度差を気にせず、ただ機械的に施釉をする方が多いので、監視がしっかりしていないとまずいって話もあります。無論、通っていらっしゃる所がそうだとは申しませんが、この辺は、陶芸教室をやっている人間としては、非常に頭の痛いところであったりします。
いずれにしろ、「釉薬が薄い」という事には、様々な原因がありますから、この辺は、通っていらっしゃる陶芸教室の職員の方と、よくお話されたら良いのではないでしょうか。
Q43.西洋の器に染め付けっていう話
A43.絶対にそうだとは言えませんが、大抵、西洋磁器の染め付けは非常にオリエンタルでオリジナル性がありません。(模様等は、西洋的解釈があったり、人物が西洋風であったりはしますけども、西洋上絵のようなゴージャスさが無いですよね。)
これは、元々、西洋で磁器が作られたのは中国からの染め付けの器を模写する目的が非常に大きかったという歴史的背景が強いわけです。
つまり、中国の染め付け磁器を作りたいが為に、その研究が行われた。これは、言うまでもなく中国の白磁が非常に高価なものとして各地に流れた結果で、アウグスト帝は東洋磁器120点を入手するために、600名の兵と交換したという話もあるそうです。いうなれば、1つの白磁は約6人の人間の命に等しいという事にもなるわけですよね。そうした透けるような白い器(実際に透けるんですけども)は、西洋人の夢であり、同時に産業として一獲千金を売る事のできる夢ともなっていたわけです。
しかし、ヨーロッパと中国は、戦争の影響で白磁の輸入が困難になり、その代りに、日本の伊万里が目をつけられ、日本の磁器はヨーロッパの需要に答えて、その多くを輸出することとなります。ところが、御存知の通り、伊万里は輸出用にもっぱら柿右衛門様式のような金襴赤絵を売り出し、国内需要に染め付けの伊万里となりました。ヨーロッパの人々にとっては、単色で渋い色合いの染め付けよりも、その豪華絢爛(いわゆるゴージャス)な上絵の色彩の方が、注目に値するものだった事もありますし、呉須の青が、西洋人の求めるブルーでなかったという事もあるでしょう。(もっとも、日本人が手間のかかる金襴上絵を外国市場に向け、地味で上絵ほど手間のかからない染め付けを日本の市場に流そうとした産業構造もあるにはあるでしょうが。)
その結果、西洋の染め付け。いわゆる呉須絵付けは、その柄の発展が進まず、のちに、上絵が西洋独自の技法や表現を求めるのに対して、あくまでもオリエンタルの象徴として、いわば、取り残されたような形で淡々と中国白磁の写しを作り続ける事となるわけです。
では、染め付けが西洋のゴージャスと圧倒的に違ったのは何故なのか。あるいは、染め付けでは作ることの出来ない西洋人が求めたゴージャスとは何だったのか?。これは別に,学説であるとか,公然の定義ではないんですけれども,私は「輝いていること」と「技術が手中にあること」ではないかと思っています。「輝いていること」は,「光沢があること」や「金・銀を使っていること」という意味合いですね。当然といえば当然ですが,特に,この思想は顕著です。
近年ではマットな釉薬も使用されますが,高価なものは,大抵,傷や一片の曇りも無いという事が最重要項目ですし,机を傷めないという目的もありますが,高台までしっかりと釉薬が掛かった器は,ティーカップやソーサーの頂点となっています。日本では「土見」といって,高台近辺には釉薬をかけない事で見せ場とするという方法がありますが,それとは非常に対照的ですね。
また,特に,金・銀の使用は器のランクの上でも重要なポイントです。西洋磁器は,その性質上,どうしても鋳込みによる形作りがメインとなりますので,ランクの低いものも高いものも,同じ鋳込みの型を使用する事になります。そうした時に,その差別化をはかるための方法が,金や銀をどれだけ使用しているか。あるいはジュール(ジュエル)という釉薬を盛り上げて宝石を埋め込んだように仕上げる技法によって,輝度を上げられるかという事になるようです。
「技術が手中にあること」は,ちょっと表現がしにくいんですが,製作する側の意図が,完璧に表現されているという事になるでしょうか?
よく言われる事なんですけども,中国や西洋における形成の頂点は「土をどれだけ制服できたか」あるいは「力技で形を作り上げたか」っていう事だと言われます。これは,日本においても,須恵器の時代から,高度な技術によって土を我が物にするという思想があったことは間違いないでしょうが,後に織部を始めとする優れた茶人の登場などで「土を征服せず,共存する」という方向に流れが変わり,未完成の力強さとか,左右非対称を味として尊重するようになります。
話がそれましたが,とにかく,「形を作るために,どれだけ土をねじ伏せる事ができるか。」「材料がどれだけ自分の言うことを聞くか」という事は,西洋の形づくりの根源になっています。そして,製作者の思い通りの形が出来たとき,それが最高の品物となるわけです。
私は,微妙な呉須の濃度によって色合いが変わったり,面を均一に染めることが非常に難しい染め付けは,こうした意図にそわなかったのではないかという気がしています。
マイセンの器には,染め付けの作品も数多くありますが,どういうわけか,後にわざわざ,赤や金の上絵で,模様を描き込んだり,白い空間を表す部分に,上絵の濃淡をつけたものが少なくありません。それは,何か染め付けに物足りなさを感じたヨーロッパの方の心があるような気がします。
Q53.古伊万里の技法で「墨弾き」というのがあるらしいんですが、ご存じでしょうか。
A53. 私も別冊太陽って,結構好きで,特に陶芸関係だと写真が多いので,たまに買っています。「古伊万里」もあったと思いますが,どこかに埋もれちゃった。で,墨弾きなんですけども,雑誌の説明だと,ちょっと不足していますね。実際にやっていみると分かると思いますが,墨だけだと,あまり抜けが良くないし(その抜けの悪さが好きな方もいらっしゃいますけど),空焼後に扱いづらいんです。で,正確には,墨に珪石を入れて擦ったものを使用します。珪石は高温でも単味ならば溶けませんから,空焼後に,払うときれいに取れます。
本来は,乾燥すると油膜を作るエマルジョン効果を持った膠と,珪石とをを混ぜで使用すれば良いのでしょうが,これだと白地に白色で何を描いたか分からなくなってうので,色の付いた墨を使用するわけです。それで,墨弾きとなるわけですね。
で,要は,塗った時に油膜が出来て,空焼して油を飛ばした後に,取れやすい物質が合体していれば良いって事になるわけですから,墨の他にも,クレヨンとか,溶き油なんかと珪石(またはアルミナ)を混ぜて使うっていう手もあるわけです。これはこれで,墨とは,また違った効果がでて面白いですよ。
空焼は,墨に含まれる油や糊(膠)を焼いて揮発させるための処置ですから,400度以上にすれば,間違いなく飛ぶでしょう。塗り面が小さい時には,ハンディーガスバーナーでちょっと焼いてOKにしちゃう時もあります。(笑)
ただし,表面がガスの墨で黒くなりますから,ちょっと勇気がいるかもしれませんけどもね。という事で,素焼きに入れても構わないと思います。
が,私は,まだ空焼を素焼きと一緒にやったことが無いので,確信は無いのですけれども,素焼きの時には当然ながら,大量の水蒸気が発生し,本焼きに関係するものは,何らかの影響を受けます。
以前,辰砂釉の色戻しをしようとして(辰砂釉は,銅赤色がでる釉薬ですが,失敗して赤が消失した時に,800度程度で焼き直すと,コロイド結晶が出来て赤い色になることがあります。これを色が戻るといいます),素焼きの窯に入れたらば,表面に水蒸気の影響による膜が出来て,全滅した事があります。一応,本焼きまで済んでいたので,クレンザーと金属タワシで擦ったらば,何となく膜は飛びましたけども,あまり良いものではありませんよねぇ。
同様に,上絵を素焼きの窯で焼くと,見るも無残に白濁(というか,ぬる〜〜い色に濁った)した色になります。ですから,呉須にも何らかの影響がでなるとも限りません。もしかしたら,墨に入れた珪石と,水蒸気で出た水とが,結晶水になって再結合するという事も考えられますから,あまりお薦めは出来ません。
素焼きしたものを,400度程度の温度にあげるくらいならば,どんなに大きな窯でも3〜4時間あれば十分でしょうから,もし,空焼が出来る状況が整っていれば,無理して素焼きには入れないほうが懸命だと思いますけどもね。
Q54.釉薬で,特に松灰を使用したものは,場合によって弁柄や呉須絵が流れるときがある?
A54.今,使用している松灰(光沢)と,松灰半マット(先の松灰カオリンマットの,ちょっとマットが弱いやつ)は,間違いなく弁柄が流れます。松灰(光沢)の場合は,呉須も流れます。ま,どちらも松灰を40%近く入れているので,そうなるんだと思いますが,もし,流れるのが困る場合は,松灰の半分以上を石灰に置き換えることをお薦めします。
Q104.煙草を1箱位巻き紙をほぐして熱いお湯に浸し良く撹拌した溶液に呉須を混ぜ、「ぽたり」と落とすと、みるみる内に丁度樹木の小枝の尖端が円形にどんどん発展成長して行くような、結果的には円形の小枝の絵模様のような紋様が出来るって言う彩色手法とは?
A104.これは「モカウェア」の事ですね。
私が持っている「陶芸の技法百科(グラフィックス社)」では,フラクタル模様の柄が入った器を「モカウェア」,それを行うための煙草の水溶液に普通は酸化金属を溶かしたものを「モカティ」と呼ぶと書かれています。1785年頃にイギリスで始められた技法だそうです。結構,古いですね。
で,じつは技法があることは知っていたんですけれども,私は煙草を吸わないので,そういう技法を行ったことが無いんです。良い機会ですから,ちょっと実験してみました。
ただ,煙草は持っていないので,同じ葉っぱという事で,安いお茶葉を使う事にしました。急須に葉を入れてお湯を注ぎ,冷めるまで放置してから,ベンガラと混ぜて疑似モカティを作って実験したらば,なんとなく,それなりのものは出来ますね。
しかし,モカティそのものよりも,むしろ,塗ってある泥漿の濃度の方が重要なようです。泥漿が薄いと,フラクタルにならず,ただの一本線で流れてしまいますし,濃すぎると流れていきません。また,茶汁を使わず,水でベンガラを溶いたものを使用すると,にじむだけでフラクタルの樹枝模様は出来ません。(とすると,おそらく,お茶の濃度にも関係あるのでしょう。)
簡単かと思いましたが,結構,それぞれの条件が整っていないと上手くいかない微妙なもののようです。
毛細管現象というよりは,むしろ,濃い濃度の泥漿の上に薄い水溶液が広がる際の濃度差にポイントがあるような気がします。おそらく,表面張力や泥漿と水溶液の侵食によって,ああいう模様が出来るのではないでしょうか。
まぁ,理屈はさておき,葉っぱから抽出した溶液を使用すると,それなりの模様が出来るのは,確かなようです。
Q106.陶器からの鉛の溶出について
A106.たしか、どこかに日本の衛生基準をメモしていたんですけれども、今、ちょっと見つからないので詳細な説明は出来ないんですけれども、日本の溶出に関する検査も、かなり面倒な手続きをとっていたと思います。
酸につけて○分放置し、さらに何とかいう液に浸けて・・・という感じで、検査行程が3行程くらいあったと思います。
ただ、問題はそうした衛生基準は、あくまでも大量生産用の業者(ノリタケみたいな業者ですね)に対して行われているだけで、地場産業として陶芸を推進しているところでも、陶磁器作家一人一人にまでは、そうした基準を適用していないという事です。
ましてや、趣味で陶芸をやって、ちょっとギャラリーに置かせてもらっているという感じのところでは、衛生基準がある事すら知らない方が沢山いらっしゃいます。
よく、陶芸入門書を見ていると、○○釉を作るための調合などとレシピが明記されていますが、「おいおい、大丈夫かよ、そんな調合して」と思う事は少なくないですね。特に、トルコ青や、青銅マット釉、亜鉛結晶釉などの調合は、かなり危ない調合だと、素人目にみても、そう思います。
表面がガラス状になっているから、溶出はしないという話もありますが、逆に言えば、酸による腐食が起こらなくても、表面のコーティングとなっているガラスに、万が一、細かい傷でも入ろうものなら、たちどころに溶出量が増えると言い換えることもできます。そういう意味では、確実に安全な釉薬でいこうと思うならば、長石・石灰・カオリン・硅石の4成分か、プラス鉄分の入った5成分しかありません。
しかし、それでは変化が小さいですし、なかなか思う色は出せないので、結果的に、いろいろな物を加えることになります。ただ、朝昼晩と毒性の強い器で酢の物を食べ、それを50年、60年と続けるという事でないかぎり、即効性で死んだり病気になったりするものではないですから、ことさら異常に、釉薬に過敏になるひつようは無いと思います。もちろん、表面に緑青が結晶で付いているような器は、論外なことは言うまでもありませんが。
日本と違い、外国(特にヨーロッパ)の陶芸の釉薬は、基本が鉛から出発しているので、釉薬を作るためには、まず長石(または硅石)と鉛が出発原料となります。それで、外国の場合は、余計に釉薬に対して規制が厳しくなっているという現状もあります。
ただ、日本でも短時間焼成の窯が出来るようになって、かなり、鉛や硼酸を入れたフリット釉が主流になってきましたから、対岸の火事というわけにもいかないんですけれどもね。
Q107.錦窯の水抜き
A107.大型窯の焼成初期に発生する水蒸気は、そのほとんどが窯が吸い込んだ湿気です。
まず、窯の水を抜いてから、土の水を抜く。これが焼成初期の鉄則で、近代の電気やガスの窯では、あまり意識されなくなりましたが、窯は非常に多量の水分を吸っています。窯は、器よりもずっと耐火度の高い土(煉瓦)で出来ています。つまり、焼き締まらないので、それだけ湿気を吸いやすいわけですね。
素焼きや本焼きでは、あまり慎重にはなりませんが、上絵の時などは、この窯の水蒸気が残っていると、間違いなく釉薬に白い水蒸気の膜がつきます。だから、上絵を焼く窯は、昔から錦窯として、通常の窯とは別に作られていました。通常の窯では、湿気を吸いすぎていて、クリアーな上絵の色が出ないためです。特に柿右衛門赤のようなものは、色合いの変化が激しいですね。
昔の窯ほど水分は吸っていない現代の窯でも、夏場などの湿気の多い時には、多少、窯を空焚きして水を抜いてやらないと、微妙に膜が出る時もあります。
Q118.素焼きをした器に施釉し、その上から金やプラチナで彩色して本焼き(OF
で1250度)したら、金・プラチナ等の彩色は飛んで消え失せてしまうでしょうか?
A118.釉薬の上に金やプラチナで彩色すると、使用する量にもよりますが、発色はしますよ。ただし、高温で焼成した場合、金は「金茶」という赤茶色っぽいものになってしまって、金色にはなりません。
白金やプラセオジウムの場合は、鈍い銀色やネズミ色に発色し、釉薬に金属が完全に溶け込まずに表面に残っている時には、金属磨きで研磨すると、光沢が戻る場合もあります。
銀などは、いぶし銀のような感じで面白い効果も出たりするんですが、如何せん、高価なので、私はほとんど使えませんけれども。
ところで、高温で使うの金は、「本金」、低温で使用する金は「水金」と言います。金の成分そのものは同じですが、水金の場合は、前にも話た通り、ビスマスなどと反応させて、接着出来るように加工しているので金の使用料が少なく、本金は、ほとんど(あるいは完全な)金なので、使用料が多くなります。マロン色、つまり金茶色は、上記の「本金」を使用した発色で、言うところの、「下絵用の含金絵の具」です。
Q120.化粧と釉薬を使用した際に発生する変化
A120.あれは、化粧土に使用されている顔料が、どういったものか。によって変わるんです。
今回の黒化粧を例にとると、黒化粧には、着色剤として添加している顔料が、黒い顔料(複数の金属の化合物)を使用しているものと、鉄・クロム・コバルトなどを単純に混ぜて撹拌しているものの2種類がありますが、そのどちらのケースも、施釉すると、化粧土と釉薬の接触面で反応を起こします。前者の黒い顔料の場合は、ほぼ高温でも安定しているはずなので(というか、安定させる為に、わざと化合させているんでしょうけれども)、あまり変化がなかったり、化合せずに残った少量のコバルトやクロムの色が表れる程度ですし、後者の場合は、個々の金属が高温で釉薬と反応しますから、かなり複雑な発色になります。
そのどちらが良いかは、作品を作る人間の好みによるわけですが、どちらにしても釉薬が素地に食いつく時に、反応をするわけですね。
釉薬は、素地面と表面では、素地面の方が先に熔け出します。炎に当たっている表面の方が、先に熔けるような気がしますけれども、実は素地の成分と反応する方が早いわけですね。
なので、反応色は、表面から熔け始めた釉薬に、素地の顔料が徐々に溶け込んで発色するわけではなく、素地と釉薬の接触面で、複雑な反応を起こしながら釉薬が熔けていき、面白いな発色や流下現象が生まれる事になるんです。
この辺りは、陶芸の不思議でもあり、楽しい所でもありますね。
Q121.上絵具を下絵具と同じ使い方(つまり、素焼きをして施釉し、上絵具で絵付けをして本焼きする、と言う事)をするような解説をたまに見るんですが、これって有効なんでしょうか?上絵具の性質によっては(高温に耐え得る上絵具によっては)使用出来るって事なんでしょうか?
A121.基本的には可能です。というか、なまじ「上絵」と名前があるから、変に固定観念が働きますけれども、要は、低温釉と顔料の混ざり物です。しかも、使用料が少量ならば、鉛やホウ酸は早期(と言っても900度〜1000度ですけれど)に揮発してしまって、結局は顔料だけが残るという計算になりますし、釉上の顔料が、ある程度熔けてくれると、定着も良く、妙なメタリックの発色をしなくなります。
私は、下絵具の代わりに上絵具を使用することはありませんが、下絵具をオングレイズで使う時には、石灰系の透明釉で溶くようにしています。ま、似たような考え方なわけですね。
勿論、ほとんど下の釉薬をコーティングしてしまう程、大量に塗りたくると、ブクを吹いたりしますけれどもね。
ただし上絵用の顔料には、高温で揮発して発色しないものも複数あります。メーカー側としては、お客さんに文句言われないように、上絵や下絵と設定しているので、かならず発色するとは限りませんね。
Q127.絵の具に混ぜる油について
A127.テレピン(松油)やペトロール(石油)、ラベンダーなどは揮発性油、リンシード(亜麻仁油)やポピー(ケシ油)などは乾性油と言って、性質が異なります。
油絵では、この2種の油の調合や使い方がポイントになるのですが、陶芸でも、これらの使い方はポイントになります。揮発性油は固着力よりも乾燥速度を重要視する場合、乾性油は乾燥速度よりも固着力を重要視する場合に使用します。
簡単に言うと、揮発性油は硬化を早くする時に、乾性油は硬化を遅くする時に使うわけですね。金彩などは、元から乾性油が入っていますので、通常は揮発性油で調節するという使用法をしますが、通常の洋絵の具には乾性油は使用されていないので、揮発性油だけを使用すると、固着力が弱くなったり、扱いづらくなったりします。そこで、乾性油を入れるわけですが、調合が面倒なので、私の場合、最初から混合してあるペインティングオイルを使っているわけです。
私も、全てのペインティングオイルを使ったわけではないので、「これが一番」という事は言えないのですが、昔からマツダをひいきしているので、いまだにマツダのペインティングオイルを使っています。ただ、ホルベインはちょっと安いので、お金が無いとホルベインを買う時もあるんですけれどもね。
ペインティングオイルを買う際に、注意するのは、揮発性油としてテレピンを使っているか、ペトロールを使っているかという事です。ペトロールは非常に希釈力が強いので、私はテレピン入りのものを買うようにしていますが、この辺りは好みもあるでしょうかね。
それから、最近のテレピンが透明なのは、主成分が少ないのではなくて、蒸留の精度が上がったためと、紫外線による色素分解などが行われているためです。(成分そのものは、増えたり減ったりしていないんですよ。
で、テレピンの成分の多くは、αピネンというものですが、もし更に精度が高いテレピンが欲しい場合には、「αピネン」というそのものズバリを売っていますので、それを購入してみてください。
ただ、陶芸の場合、あまり油の精度は関係ないので(焼いちゃうし)、違いは無いんですけれども、描いている時の筆の運びの感じは、ちょっと違います。
Q131.天目茶碗の覆輪について
A131.「天目茶碗の覆輪は、毒が金属と反応するから毒殺防止の為塗られているなどともっともらしく言われたりしているが、本当は茶碗を伏せて焼いたので、焼き上がった時のざらざらを補修する為に塗られたのだと」の説明もあります。確かにそうゆうものもあったかもしれませんが多くは違う理由からと思われます。
天目茶碗は、その殆どが鉄分の多い陶土を使っていますが、これは上記の鉄の所でお話したとおり、ガラスの軟化を促進させますので、釉薬が熔けやすくなると同時に、器の素地そのものの変形率も高めます。天目茶碗は、特に高台が小さくなっているため、腰の部分に重量がかかり、口の歪みが大きくなります。
そこで、この歪みを緩和するために、伏せて焼いたのではないかと、考える事ができるわけです。鼈口(すっぽんぐち)と呼ばれる独特の形態も、伏せて焼いた際の釉の流下を防ぐ為だと言われたりもしています。
しかし、本で見られる写真の多くは、釉薬の流下方向や、不自然に土見(高台近辺の無釉の部分)が大きい事からも、伏せて焼いたものでは無い事が分かりますし、口の金も、もし、無釉部分に付けたとしたらば、あれほどの光沢は、まず出ません。
では、何故、このような事になっているかという話ですが、名品と呼ばれる茶碗の多くは、伏せて焼いていた天目茶碗の様式を受け継いでいるからだと考える事ができます。口の金も、そうした様式の継承と考えると分かりやすいでしょう。
天目茶碗には、伏せて焼いたと思われるものも多く、実際に伏せて焼いた事が分かるものも少なくないようです。(私が実際に確かめたわけではないので、断定は出来ないんですが)
中国へ旅行した私の友人は、現地でないがしろにされている天目茶碗を見て、なるほど、伏せて焼いたというのは、本当らしい。と言っていました。友人が察するところでは、伏せて焼いたような茶碗は、未完成品として、あまり日本には持ち込まれなかったのではないか、ということです。
天目茶碗は、中国から渡り、やがて日本でも数多く作られるようになりますが、やはり、その多くは様式を継承した形で、実際に伏せて焼いたりしたものは、ほとんど見かけませんね。
ですのでほとんどの覆輪は焼きあがった天目茶碗の口辺が薄く、欠けやすいため補強と継承的な装飾のためにつけられたとするのが妥当ではないでしょうか。
Q138.曜変天目は現代でもつくることが出来るのでしょうか
A138.黒い地に、青白い暈が表れた静嘉堂文庫の曜変天目は、まさに幽玄を表す魅力ある器ですね。
で、ご質問の件ですが、結論から申しますと、現代でも作ることは可能です。ただし、その制作のプロセスが未だに確定されておらず、世界に3つしか存在しないと言われる曜変天目を再現することは、現代においても、いまだ不可能と考えられています。
似たような曜変を作る事自体は、何度か成功しているという話は聞いたことがあります。実際に、見たことは無いので、本当に似ているのかどうかは知りませんが。
しかし、曜変天目が何故、あのような発色をしているかという事そのものは、すでに解明されていて、ああいう泡の文様が無い状態ならば、同様の色を作り出す事だけは、比較的簡単に作る事ができます。
詳細は、科学的な話で難しくなるので省略しますが、簡単に言うと、鉄釉と、分相現象が起こる白い釉薬との複合技で、あの青白い発色が発生します。釉薬が熔けた時に発砲し、その泡のまわりに、鉄と分相との複合技が生じることで、あの模様が出来るわけですが、その現象が起こるには、卵を10個、縦に積むくらいの偶然性のあるプロセスらしいので、それを意図的に行うのは、やはり、至難の業という事なのでしょう。
ただ、偶然に起こるものというのは、絶対に起こらないという訳ではなく、また、現に、そうしたプロセスで出来上がった曜変天目が、世界には3つもあるわけですから、4つめの曜変天目が出来る可能性は、十分にあるわけです。
もしかしたら、たまたま作った器に、そうした曜変が出てくるという夢も、全くの夢では無いわけですね。
Q143.下絵具が期待通りの発色を行わないという問題
A143.大抵は、メーカーと使用者とが異なる条件で焼成した場合に生じる問題のようですから、一番簡単なのは、開発メーカーの人に、下絵具の使用状況を見てもらう事なんですが、メーカーも、そう簡単には来てくれませんから、自分たちで調整をしなければなりません。
初歩的な事で見落とされる場合が多いのですが、純粋金属にしろ、スピネルにしろ、下絵具は全て、釉中に顔料が溶け込んで発色しています。釉を透過して下の顔料の色が見えるわけではないということですね。従って、下絵具使用の際には釉薬とのバランスが重要になり
1,釉中に溶けて発色するのに十分な量を使用しており
2,釉薬が顔料を溶かし込むだけ十分に溶けている
3,ただし、顔料が揮発しない程度の温度で
4,かつ、顔料と反応しない性質の釉薬であること
という条件を全てクリアーしていないと、期待通りの発色を行わない場合が多くなります。
このうち、最も簡単なのは調整は、下絵具の使用量と、温度の設定。下絵具が発色量に達しない場合には、当然、色が出なかったり、違う色が出る事があります。特に、使用量が少ない場合には、期待通りの発色を起こしません。また温度については、メーカーによっては、磁器下絵具(1230〜1250度まで発色変化無し)や半磁器下絵具(1230度程度まで発色変化なし)という名称を使用している場合もありますが、とにかく、メーカーが設定した設定温度の熱カロリーを与えなければ、色がでるというわけです。当然ですが、高すぎたりすると「色飛び」といって顔料の色が無くなってしまいます。
使用量と焼成温度が適切でありながら、色が出ない場合に考えなければいけないのが、釉薬と下絵具との相性です。
下絵具と呼ばれるものには幾つかの種類があり、大別すると、純粋金属系顔料とスピネル系顔料に分ける事ができます。
弁柄などのように、成分の殆どが酸化第二鉄の場合は純粋金属系。ピーコックグリーンのように幾つかの金属を加熱反応させて作ったものがスピネル系となります。
純粋金属に比べ、スピネルの場合には、顔料そのものに各々の性質というものがあり、使用の際には、その性質を考慮して使用しなければなりません。
大抵の場合、購入したメーカーが扱っている3号釉(長石石灰透明釉)を規定の厚み(大抵はハガキ1枚弱の厚みが基準)で施釉すれば、期待通りの発色とをするようになっていますので、スピネルの性質まで考慮する必要は無いと思いますが、自分で釉薬を調合したり、施釉量が多すぎたりすると、性質の相違が起こって、発色が変わったり、色が出なくなったりします。
陶試紅やピーコックは、この手の有名な下絵具ですね。私も、自分で釉薬を調合して、下絵具との相性が悪い事は少なくありません。
Aの下絵具は発色するのに、Bの下絵具は発色しないとか、逆の場合も多々あります。
とかく、下絵具はお手軽に考えがちなのですが、思い通りに焼き上げようとすると、意外にデリケートな材質なわけですね。特に、チューブ式ではなく、粉のものを扱う時には、注意が必要になります。
御存知だとは思いますが、粉の下絵具を使用する場合には、上に掛ける釉薬で下絵具を溶いて使うと、定着が良く、反応もしやすくなります。
ちなみに、緑の下絵具を使って、透明釉を掛けたものを還元で焼いて、それでも緑が出ない場合は、間違いなく絵の具の塗り方が薄いと言うことはいえるでしょう。
高温下絵具の緑は、クロムという金属を使っており、クロムは還元の場合に、非常に着色力が強くなります。安定性も高いので、1300度まで出さない限りは、変色は起こさないはずです。(市販の透明釉を使用している場合に限りますが)
Q144.スピネル顔料について
A144.下絵具や上絵具、あるいは、色釉に添加される着色用の色の粉には、着色用純粋金属と、スピネル顔料があります。
このうち、スピネル顔料(正確には、顔料の全てがスピネル状態になっているわけではないんですが、何故か、総称してスピネルと言われています)は、略して「顔料」と呼ばれ、様々な色のものが売られています。
この顔料は、基本的に、亜鉛やアルミなどの金属と、コバルトやクロムなどの着色金属とを高熱反応させて、高温でも安定するように作った人工着色剤です。これら顔料の主なものは、大体、5種類くらいに分類できるとされていますが、全ての顔料が、常に高温でも反応しない安定性を保っているかというと、実は、そうでもありません。
というのは、単味で焼いた場合には、確かに顔料は変色や分解を起こさず、非常に安定はしているのですが、陶芸の場合、顔料は素地や釉薬と接しているので、この2つの物質と反応を起こし、安定性を失う場合が多々あるわけですね。
素地、釉薬の両方と安定した状態が得られて、初めて顔料は発色良好となるわけです。
そこで、「下絵具に相性の良い釉薬」には、複数の種類があげられる事に成ってきます。
昔は顔料の数も少なく、赤茶や陶試紅と言えば亜鉛釉、ピーコックと言えば石灰釉など、大体の相場が決まっていたのですが、最近は種類も増えて、同じ赤茶でも亜鉛とアルミの混合体にクロムと鉄を反応させた顔料でも、比率がかなり異なっているために、常に赤茶が亜鉛釉で良好な発色をするとは言えなくなっているようです。
ただ、前にも少し書いたかもしれませんが、最近、メーカーが出している透明釉は、単純な長石・石灰の混合釉ではなく、亜鉛やマグネサイト、バリウムなどのさまざまな原料を微妙に添加させて安定性を高めていますので、大抵の顔料に対して安定性を保つようになっています。
もし、特定の顔料に対して、より発色が良好で安定性の高いものを求める場合には、顔料を購入したメーカーが出している透明釉に、亜鉛やバリウムなどを更に加えて釉薬を作るのが、お手軽で安定しているので、お勧めです。
Q153.粉引きの化粧土のかけ時
A153.粉引きというのは、一般的に赤土に白絵土(今日では白絵土は枯渇してしまっているので、それに近い化粧土をブレンドしていますが)という純白に近い土を掛け、その後、透明釉を施釉して焼成したもので、その姿が粉を引いた(あるいは吹いた)ように見えるところから、その名前が付いています。
で、この粉引き。生と素焼き後のどちらの方が、化粧を掛けるのが良いか、という事ですが、結論から言うと、好みの問題です。どちらが良いという事はありません。
また、素地土の乾燥具合や性質によって、あるいは、使用している化粧土の濃さや性質によって、生の方が良いか(良い悪いではなく、好みの問題ですが)、素焼き後の方が良いかも変わってきます。
例えば、土の中には、どんなタイミングでも、乾燥し始めた素地に化粧を施すと、かならず吸水して崩壊するものがあります。こういう場合には、生掛けの粉引きはできませんから、素焼きしなければなりません。逆に、かなりぼってりと化粧を掛けても、ビクともしない土もあり、こういう時には、生掛けでも、素焼き後に化粧を掛けても、どちらの選択肢も可能になりますね。
また、化粧土の性質について言えば、化粧土に膨張収縮率の大きな原料(生の蛙目など)を使っている時には、素地は生で、しかもまだ素地が湿っている早いうちに行わないと、化粧土が剥離しますし、逆に、原料の多くがすでに素焼きまでやってあるものを使っている場合には、膨張収縮率が小さいので、かなり乾燥した素地や素焼き素地にも化粧掛けをする事ができます。自分が使っている化粧土が、どちらの性質のものかによって、素地の調整を行う必要があるわけです。
更に言うと、化粧を掛ける手順でも、浸し掛けの場合、柄杓掛けの場合、刷毛塗りの場合など、いろいろあって、それぞれにケースバイケースであったり、好みの問題があったりします。どれが一番良いと断定することは出来ません。
それから、生掛けのタイミングですが、これも素地の性質や厚みに依存し、自分がどのような粉引きにしたいかによって、自主的の調整していく事になります。
一般的には、乾燥が進むと、化粧を掛けた後に素地が崩壊する可能性が高くなりますから、大抵は削り仕上げが終わった後か、その後、すこし乾いた状態の時に行うという事になります。
前者の場合(削り仕上げ直後)、素地が相当湿っているので、化粧の乗りにムラが生じ、そのムラが味のある表情を生みますし、後者の場合(少し乾かしてから)は、素地に厚く化粧がかかるので、ぽってりとした暖かく柔らかい白さの表現になります。
しかし、土の中には、完全に乾燥してから吸水しても形が崩れない。あるいは、素地が厚いので、多少の吸水には耐えられるという時には、完全乾燥してから行う事もありますね。
ちなみに、化粧を掛けた後、透明釉を施釉しますが、これも、生の時に行って、素地との一体感を強め、力強さを出す方法もあれば、逆に、一度、素焼きをしてから、しっかりと釉薬を乗せて柔らかい感じに仕上げる方法もあり、器の形に合わせて、あるいは好みに合わせて施釉のタイミングを変えます。
まぁ、粉引きも一つの表現ですから、あまり、方法の良し悪しに翻弄されず、自分が最も納得のいく結果を出すための手段ととらえて、自由にやっていただければ良いのではないかと思います。
Q156.焼成後の緑化粧土の変色
A156.顔料を使用する場合、あるいは顔料が混入されたものを使用する場合には、酸化焼成を行うというのが陶芸でのセオリーなんですが、顔料に混入されている原料いかんでは、希に、還元焼成の方が発色が良好になる事があります。
その代表が、緑化粧土ですね。
これは、顔料として「クロム」という金属を使っているんですけれども、この金属は、酸化焼成よりも、還元焼成の方が発色が良く綺麗なグリーンが出やすくなります。(長石・石灰の単純基礎釉を使った場合に限る。亜鉛などを入れた釉薬だと、赤茶色になります。今回の茶色とは別件ですけれどもね。)
ただし、クロムというのは、非常に揮発力が強い金属で、1150度近辺から揮発しはじめ、1300度くらいになると、かなりの量が揮発してしまいます。つまり、緑化粧の塗り方が薄い場合、および、焼成の温度が高すぎた場合には、クロムが揮発して緑色が飛び、茶色く焦げたような状態になることがありるわけです。
もし、化粧土の塗り方が、前回と全く同様ということであれば、窯の焼成温度がちょっと高かったのかもしれません。あまりフォローになりませんが、こういう事は、よくあります。特に、素地の焼き締まりを良くしようと思って、温度をちょっと高くすると、焼き締まりの代償として、金属を入れた土が変色するんですよね。
焼成温度が前回と全く変わらないということであれば、化粧土の塗り方が薄かったという事も考えられます。特に、生の土に使用した場合には、素地の乾燥具合によって、化粧土の乗り方は大きく変化しますから、この点は注意が必要になりますね。
化粧土は色飛びが起こりやすいので、塗った凹凸が分かるくらいに厚く塗らないと発色しない事もあります。
それから、一度酸化焼成して釉薬がきちんと熔けてしまった場合には、残念ながら焼き直しても色は変化しない事が多いです。しかも、今回の場合には、クロムの量が少ない事が原因ですから、何らかの形でクロムを増量させてやらないかぎりは、緑色が出る事はありません。
ちなみに、今回の緑化粧土の状態は、おそらく、窯の温度に関係するのもではないかと思います。
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