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ばんそーこー。

「あれ?姉ちゃんってまだブラしてないんだ、いつつけるの?」

私はこのセリフを中学に入った頃から聞いている。

「ち、ちがうもん!暑いからしてないだけだもん!」
「そうだよな、別にブラじゃなくてもバンソーコーで十分だからなw」

そして、年上の私がいつも言い包められていた。

「…ふんだ、あいつのプリン勝手に食べちゃうんだから」

怒った私は冷蔵庫に入っているプリンを食べに、台所へ向かう。
これが私達姉弟の、いつものやりとり。

……が、今日は違った。

「あれ、……ない?」

冷凍庫の一番奥に入っているはずの弟のプリンが、今日に限ってないのだ。

「おかしいなぁ……買ってきてるはずなのに」


 * * * * *


恥ずかしい話になるが、中学に入学し初めてブラのことについて触れられた時、
私と弟は今までの人生で一、二を争う大喧嘩をした。

お互いの髪を引っ張ってみたり、隠れてドラクエのセーブデータを勝手に消してみたり、
弟のランドセルにマジックで大きく「バカ」と書いてみたり…。

最初は両親も止めに入ったのだが、冷戦状態と化した仲を取り持つのにも疲れたようで、
次第に私たちの事に口を出さなくなっていた。
まぁ、実はそろそろ許してもいいかなぁ…なんて思ってたんだけどね。

それはともかく、夏休みに入って少し経った頃、
私は涼めるものを探しに冷蔵庫の中を荒らし回っていた。
この時期は暇さえあれば氷を食べ、頭をキンキンに冷やすのが好きだったんだけど……。

「……あれ?氷ないな……」

あれだけ食べていれば、在庫を切らしている日も当然あるわけで。

「もう、なってないなぁ」

人の事を言える立場ではないのだが、何となく気分を演出する目的で
偉そうな事を口走ってみたりする。

「まぁいっか、何かないかなー……っと」

そこで、妙な物を見つけた。

「……なにこれ?」

目を疑った。

……本当に何なのか見当も付かなかった。

それは全面を氷で覆われた、大体5〜6センチ四方の物体。

別に放っておいてもよかったのだが、
性格上気になった事はとことん追求しないと気が済まないので、
実際に氷を溶かして中身を調べる事にしてみた。

「発射あぁぁぁぁ!!」

掛け声と共に、水道の蛇口を思い切り捻る。

ジャアァァァァァ!!!

その水の向く先は、さっきの氷で覆われたカップ。

「さぁ早く姿をみせなさーい?」

見る見るうちに囲まれた氷が解けていく。

「ふんふんふーん♪」

宝物を発掘する人はこんな気分なんだろうなー、なんてわけの分からないことを考えつつ、
即興で作った鼻歌を熱唱する。

「おー、見えてきた見えてきた」

水を流し始めて30秒と経たない頃、その物体の全貌が明らかになった。

「……なにこれ」

再び、私は目を疑った。

「これって……」


「プリン……よね」

プリンだった。
正真正銘の、プリンだった。
それも、何かセロハンテープでメモのような物が貼られてある。

水で濡らしてしまったことを後悔しつつ、何とか解読を試みる。

「えーと……」

氷の中で保存されていたためか、案外状態はよかった。


「姉ちゃんへ、これ食って機嫌直せ 弟より」

……。

意味が分からなかった。
どうしてこんなものが冷凍庫の奥深くで氷漬けになっていたのだろうか。

「とりあえずおなかすいたし、お言葉に甘えて食べちゃおう……」

何気なく、パッケージを見る。

そこにはなんと、賞味期限2006年5月12日の文字が。

「5月12日って……3ヶ月も前じゃない!」

3ヶ月近くも前にどうしてこんなもの入れたんだろ…。

「あっ、そういえば喧嘩して……」

そこで、私はようやく気が付いた。
あいつは、あの時から私と仲直りしたかったんだなぁってことを……。

「そっか……あいつも同じだったんだね……」

3ヶ月もほったらかしにして、悪い事しちゃったな……。


その日の夕方、私はいてもたっても居られなくなって、
部活から帰ってきた弟に、開口一番こう言い切った。

「気付かなくてごめんなさいっ!」


 * * * * *


「なぁ、聞いてんのか?」
「あっ、えっ!何!?」
「だから、今日はプリン買い忘れたから、これで我慢しろって」

額に、何か冷たいものを当てられる。

「ひゃっ…冷たっ!」
「姉ちゃん苺のヨーグルトも好きだったよな、やるよ」
「え、え…?」
「いらないなら、俺が食うけど」
「あ、いや食べる!食べるから!」

そのとっても甘い苺のヨーグルトを何としても食べたくて謝った途端、
弟が意地悪な視線をちらつかせてこちらを向く。

「ふーん、仕方ないな、姉ちゃんのブラに免じて許してやるよw」
「なっ…ぶ、ブラは関係ないでしょーーーー!!!」
「あは、怒った怒ったw」
「あんたもいい加減にしなさいよー!」

「まぁ、こんなのでよければいつでもプレゼントしてあげるからさ…」
「え……」

不意に弟の声が弱々しくなり、さっきまでの怒りがつられてどこかに追いやられてしまう。

「えーと……、うん……ありが」
「スキあり」

むにゅ

……むにゅ?

「おお、この感触はAAカップだな!」

プチン
という音を立てて、堪忍袋の尾が切れた。

「こんの馬鹿ーーーー!!殴ってやるーーー!!」
「はっはっはー!AAカップに俺が殴れるかなー!?」


いつもの日常が、緩やかに流れていた。


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