「起きなさーい!」
うーん、やっぱり朝から大声を出すのって気持ちいい。
近所の人に迷惑かもしれないけど、もしかしたら共感してくれる人もいるんじゃないかな。
「ほら早くしないと学校遅刻するわよ!」
「ん……」
尺取虫のように、布団の中でモゾモゾとうごめく弟の姿を見ていると、
余計大声を出したくなってしまった。
「起ーきーなーさーーーい!!」
そこまでした後、ようやく弟が布団から顔を出す。
「おはよ……」
「おはよ。ごはんできてるから着替えてきてね」
うろんだ目つきでこちらを見る姿を見ていると微笑ましい気分になってくる。
普段の弟の態度からは考えられないなぁ……。
気分的には2段飛びで、けれど実際は1段ずつ階段を下りていく。
リビングに通じるドアを開けると、なかなかいい感じの食欲をそそる香り。
「姉ちゃん今日の朝メシ何……」
「えーっとね、昨日と似たようなもんだけど、ごはんにお味噌汁に、だし巻き卵に……」
テーブルの上に乗せられた食器の中身をそのまま列挙する。
「似たようなもんって、昨日と同じじゃん」
「ち、ちがうよ!このだし巻き卵なんて作るの苦労したんだよ?」
「はいはいそうですかそうですか……」
「むぅー……」
せっかく昨日レシピを見つけて練習してみたのにさ…。
なんだかちょっとブルーな気分。
「まぁともかく、冷めちゃうから食べちゃいましょ」
「はいよー」
テレビの電源をつけ、隣同士の椅子に座る。
「ゆっくり噛んで食べてね」
「毎日毎日AAカップに言われてるから分かってるよ」
朝から口の減らない奴……。
「でもまぁ普通においしいよ」
「え……あ……ありがと」
「ほら、いいこいいこ」
なでなで
あぁ、やっぱりこれ、ほっとする。
「うん…よかった…」
「貧乳なんだからせめて料理の腕ぐらいつけておかないとな」
「どうしてそこでそんなこと言うかなぁ……」
もう、せっかくいい気分に浸れてたのに……。
料理の腕かぁ……。
ここまで私の料理の腕が成長したのも、小学4年の時、弟がこう言い出したからだった。
「冷めたメシなんか絶対食いたくない」
私の家では両親が共働きで、二人とも朝早くから仕事に行っている。
朝食はお母さんが作り置きしておいたご飯を電子レンジで温める形だったんだけど、
5年6年となるにつれて、次第に弟が冷えたご飯に対する文句を言い出してきた。
電子レンジで温めればいいじゃないと言ってみても妙なこだわりで却下され、
勝手に朝食抜きで学校に向かう日が多かった。
そこで初めて、弟に言わせれば心配性以外の何者でもない私が、
お母さんの代わりに朝食を作ろうと思い立ったわけ。
そりゃあね、最初のうちは酷いものだったよ。
野菜の切り方なんてみじん切りと千切り程度しか知らなかったし、
大さじ一杯が分からなくて適当に調味料を入れてみたり。
けどね、そんなお世辞でもおいしいと言えないような料理でも、
文句を言わずに食べてくれたんだ。
そして、最後に一言。
「おいしいかったよ」
普段はぶっきらぼうな弟が、そう言って頭をなでなでしてくれる。
とても嬉しかった。
明日も作ってあげようっていう気になれた。
なんて思い出に浸ってみたけれど、このやりとりが今の今まで続いているわけ。
「ふふ…♪」
つい嬉しくなって、微笑みがこぼれてしまう。
こいつも実は結構やさしいんだよね…。
「何笑ってるんだよ」
「あ、ううん、何も」
「ついに胸の毒が頭まで回ったか?」
「……なんですって?」
「だから、胸の毒が頭まで回ったか?」
「意味が分からないんだけど」
「あれ、その胸って何かの病気なんじゃないの?」
前言撤回。
絶対許さない。
明日から料理わざと失敗してやるんだから。
「あれだけ言ったんだから、いい加減懲りなさーーーーい!!」
終