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いたずら。

「ねぇちゃんと風呂入ってる?」
「え?」
「入ってる?」
「入ってるよ」

「うわー、こいつ姉ちゃんと風呂はいってるんだってー!」

よくあるイタズラである。
周囲からはクスクス笑いが巻き起こり、近くにいた男子は冗談めかして
「まじかよー、お前シスコンじゃねーか」
「信じらんねー」
と、ここぞとばかりに囃し立てた。
こういう所は高校生になっても変わらないものだ。

しかし、当の本人はイタズラを受けたという自覚すらなく、
何がおかしいのか分からないといった様子で爆弾発言をした。

「姉ちゃんと風呂入ってるけど……何?」

周囲から、笑いが消える。

「え……マジで?」
「マジだけど」

 * * * * *

玄関のドアを開けると、だらしなく履き捨てられた弟の靴が散乱していた。
廊下の奥の方にある弟の部屋からは、ゲームのBGMらしき音楽が大音量で流れている。

「はぁ……」

もう、弟ったらまだゲームしてるのかしら。
「いくら楽しいからって、昨日みたいにそのまま寝ちゃうのはダメよねぇ…」

ぶつぶつと独り言を言いながら、弟の部屋まで足を運ぶ。

コンコン

「入るよー」

返事が無いので、勝手にドアを開けて中に入った。

「ぐー……ぐー……」

『GAME OVER』と表示されたテレビ画面の前に、
案の定、弟は寝息を立てていた。

「もう、だらしないんだから……」

横になっている弟に近づき、頬のあたりをぺしぺしとはたく。

「おーきーなーさーーーい!」
「……んぁ?」

額にしわを寄せながら、間抜けな声を出して弟はうっすらと目を開けた。

「あぁ……姉ちゃん……」
「お風呂入るわよー」
「えー……連れてって……」

はぁ……またこのパターンなのね……。

「じゃあ持ち上げるよー。……よい…しょっと」

掛け声と共に、脇に手を通してぐいっと持ち上げる。
最近は弟も背が伸びてきて、この動作にも一苦労だ。

「うーん……眠い……」
「ほら、いくわよー……」

持ち上げた後は、お風呂場に向かってのろのろと歩く弟に合わせながら進んでいく。
ほっとくと転びそうだから、脇に手は通したまま。

「はい、到着」

亀のような動きで、ようやく目的地に到着した。
この作業だけで、結構な疲労感が身体を包む。

「あー……服も脱がせて」
「あんたもう起きてるでしょぉ…」

文句は垂れるが、私からしださないと、弟はうんともすんとも動きださない。
いつも弟の言うがままに身の回りの世話をしてしまうのだった。

「はい、ばんざーい」
「ん……」

弟に手をあげさせ、Tシャツをずるずると引き剥がした。
続いてズボンも下ろし、今度は私が脱ぐ作業にはいる。

「じゃあ先に入ってて、私もすぐいくから」
「はいよー……」

やる気のない返事をすると、弟は残りの服を脱ぎ、タオルを片手に中に入っていった。

「よいっしょ……」

手早く制服を脱ぎ、あまり役に立っていないブラとかを外してお風呂場に入る。

「背中流してー……」

弟が、風呂椅子に座って待っていた。

「もう、いい加減それくらい自分でしなさいよぉ……」
「むー……AAカップのくせに生意気な……」
「胸は関係ないじゃない!」

もう…どうして弟ってばこうも悪態つくのかしら……。
諦めの境地に入りつつ、タオルにボディソープを付けて、ごしごしと泡立たせる。

「はぁ……」

最近ため息ばかりついている気がする。
原因は痛いほどに理解しているのに、なかなかその原因が解決しないのが悔しい。

「はい、終わったよ」
「ん、ありがと」

いつも通り、流れ作業のように決まった手順で首筋、背中と洗っていった。

「じゃあ次は姉ちゃんの番ね」
「はいはい」

タオルで前を隠して、風呂椅子ごと後ろを向く。
弟も慣れた手つきでボディソープを泡立たせ、ゆっくりと背中にタオルを押し付けてきた。

誰かに背中を洗われるのは結構いい気持ちで、
心身共にリラックスして背中から伝わる気持ちよさに陶酔してしまう。

すると、突然。

「あいかわらず、胸成長しないよなぁ」

背中をこすっていたタオルが前の方に回り込み、
私の胸を包み込むように揉みはじめた。

「ちょ、ちょっとどこ触ってるのよ!ばか!」
「なんで?こうでもしないと成長しないじゃん」

いかにも悪気はありませんというような主張をされる。
悪気がありありと伝わる声で。

「そんなことしたら、今度からお風呂入ってあげないから!」
「あぁそう、じゃあ俺も面倒だから風呂とか入らんわ」

うぐっ、と困った声が漏れてしまった。

「だ、だめよ、ちゃんとお風呂は入りなさい!」
「やだ、めんどくさい」
「めんどくさいじゃないでしょ!入りなさい」
「あーもう、うるさいなぁ」
「ひゃっ!?」

弟の手の動きが、先ほどとはうって変わって、激しいものになってきた。
なんていうか……その……えっちな感じの……。

「や、やめなさいよ……」
「やだ」
「やだじゃないってばぁ……」

ぬるぬるの手とタオルが、私の胸のあたりを這い回る。
一度胸の先端にタオルがこすれ、小さく声を上げてしまった。

「……ふぁ」
「あれ、どうする?続ける?」
「わかったわよぉ……明日もお風呂入ってあげるから……」
「よし、わかった」

ぱっ。

今までのことが嘘のように、弟の手とタオルがどこかにいってしまった。

「お湯かけるよ」

湯桶に溜められたお湯を、頭からかけられた。
あたりに湯気が立ちこめて、周囲の光景にもやがかかっていく。

「じゃあはいろ」

何事も無かったかのように弟はそう言い放つと、
私の頭をなでなでして先に浴槽に沈んでいった。

「もう……勝手なんだから……」

多分条件反射のようなものだろうけど、
頭をなでられただけで反抗する気も失せてしまっている私がちょっと悔しい。

「仕方ないなぁ……」

後を追うように、湯船に身体を沈めていく。

ざぱーん…。

二人分の水かさが増え、溢れたお湯が排水溝へと流れていった。

「あのね……」
「ん?」
「えっと……もっとなでなでして」

弟は少し悩む素振りを見せたあと、私の要求通り、ゆっくりとなでてくれた。

「……怒らんの?」
「……うん、なでてくれたから」
「変なの」

そう言う弟の顔は、少し笑っていた。

「でも、その胸なんとかしろよ」
「仕方ないじゃない……そんなの」
「……まぁいいけどさ」

あまり胸のことで騒ぎたくなかったのは、私も弟も同じだったようだ。
ゆったりとした雰囲気の中で、あったかいお湯に溶けていくのを楽しんだ。

 * * * * *

「普通姉ちゃんと一緒に入らないの?」
「いや……普通入らないだろ、おかしいって」
「だって楽しいじゃん」

教室中の生徒の視線が、一斉に集まった。

「……楽しい?」
「楽しくない?胸のことバカにしてみたりさ」
「……」

その日から、彼を見る生徒の目が少しだけ変わったことは言うまでもなかった。


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