「あ、早紀さん。こんにちは」
「こんにちは。浩二様」
時刻は14時を回った辺り。
色々用事もあるだろうに、早紀さんがお見舞いに来てくれた。
思わぬ神様のプレゼントに自然と嬉しさがこみ上げてくるのだが、
人生そう都合のよい事ばかりでない。
美咲が来る度にパイプ椅子で殴られていることもあり、手足のケガは改悪の一途を辿っているのだ。
この間は犯行寸前で看護士さんが止めに入ったから良かったものの…。
それにしても、上手い具合にエロゲ的な展開になったよなぁ。
入院して、美女に囲まれて過ごすなんてそうそう現実世界じゃお目にかかれないだろうに。
「…痛い所でもありますか?」
「え?…あ、いや」
いかん、早紀さんを心配させてしまった。
だいぶ不審者めいた表情をしていたんだろうな。
ニヤケと諦観の混ざったような表情を。
「おかげで、大分痛みは引いて来ましたよ〜」
「ああ、よかった。「いたいよー」なんて泣いていたらどうしようかと思いました」
「はははっ、子供じゃないんだからそれはないですって」
「ふふ、冗談ですよ♪」
あぁ……何だこの会話。
おかしいだろ。
まるで新婚さんみたいじゃないか。
どっかのテレビ番組で大掛かりなドッキリを仕掛けてるんじゃないかと思うくらい
出来過ぎた展開に、正直クラクラしている。
早紀さん頼みますから、土下座してもいいですからもう少しだけ攻撃抑えてください。
「……お友達が来たみたいですね」
「え?」
お友達?
早紀さんの友達?誰?
耳を澄ますと、早紀さんの言う通り、こちらへ向かって廊下を走る音が聞こえた。
あぁ、どうかしていた。バカな妄想をしてしまった。
早紀さんの友達なんて来るわけが無いよな。
こんな無礼な真似をするのは奴しか居ない。
そう、
バタンッ!
「よう!浩二!お前の欲しがっていた本買ってきたぜ!」
案の定、拓也だった。
「おう、拓也。何の本だ?」
……ん?
拓也の様子がおかしい。
なんかこう、蝋人形のように固まっている。
「あら、こんにちは。浩二様のお友達ですよね。拓也さんでしたかしら?」
「ア、ハ、ハイ。タクヤデス」
……なるほど。原因は早紀さんか。
この年増好きめ。
「……何か言いましたか?」
「いっいや何でも!」
え、最近のメイドさんはテレパシーまでできるのか?
……もしや早紀さんは宇宙人なのではないだろうか。
いや、未来人でも超能力者でも構わないんだ。楽しそうだし。
某小説の見すぎとしか認識しようのない想像を繰り広げている間、
着いたばかりだというのに、拓也はイソイソと帰り支度をしていた。
「ア、アノ、カエリマス」
「お、おい、いきなり帰るなよ!」
「ウ、ウルサイ!浩二に言われる筋合いは無い!」
なんだこの豹変ぶり。そんなに俺が憎いか。
別に好かれようと嫌われようと構わんが、早紀さんの機嫌を損ねるのだけは許さん。
「そう言わずに、わざわざ来て頂いた事ですし、拓也さんもゆっくりしていって下さい」
「ア、ソウデスネ。ハハハ」
早紀さんが話しかける度に拓也が外国人へと変貌する。
ここまで来ると、もはや俺と同じ不審者にしか見えない。
おぼつかない足取りで、パイプ椅子に座る拓也。
「あら、その制服……もしかして同じ学校なんですか?」
「…………」
「どうした拓也?」
「…………」
「拓也さん、どうしました?」
「はっ、はい!!!!!!」
「お前緊張しすぎ」
「ばっ何で俺が緊張しないと……あ……いえ……」
「ふふふ、拓也さんってかわいいですね♪」
拓也へ向かって、一本の矢が放たれた。
その矢は、鮮やかな放物線を描き、拓也の胸へホームイン。
物凄い勢いで汗だくになる拓也。
さらに、顔も見て分かるレベルで赤くなっていく。
ありきたりな表現だが、これはトマト以外に言葉が思い浮かばない。
「あ、あのぁぁぁぁ失礼します!!!!!!!」
言うやいなや、拓也は一目散に飛んでいった。
早紀さん、反則的に攻撃力高くないですか?
PAR使ってステータス限界まで上げてるでしょ。
何気なく下を覗くと、パイプ椅子の上に拓也のカバンがあった。
ほんとに動揺してたんだな……。
これはかなりの笑い種になるぞ。
「どうしましょうこれ……」
「うーん……開けちゃって良いですよ。本渡したいとか言ってましたし」
「あぁ、そういえば拓也さん、確かに本のことを言っていましたね」
すらりと伸びた白い手で、カバンのチャックを開ける。
「あら、これかしら?包装されているわ」
「なんだろ。拓也が渡しそうな本だから……」
「開けてよろしいですか?」
「どうぞ〜」
ガサガサ……
早紀は、(ピー)な本を手に入れた!
「…………」
「…………」
死にたい。
今にも早紀さんの血管が破裂しそうだ。
うわ怖い怖い怖い怖い。
はっ、いかん、正常な意識を維持せねば。
何があっても冷静に対処出来るよう、万全の体制で身構えやっぱり怖いーーーー!!!!!
…………
辺りから、音という音が消え去る。
嵐の前の静けさとでも言うべきか……。
恐る恐る、早紀さんの方を横目で覗き見る。
「あら、そういえば浩二さん、最近お風呂入ってないんじゃありませんか?」
……え?
「あ、そうですね……」
あ、なんだ。怒ってないのかな……?
「お体お拭きします」
「ちょ、ちょっと待ったああああああああ!!!」
「何か?」
笑顔が怖い。
「いや、自分で拭けるから大丈夫かなーって……」
「だめですよー、背中拭けませんから」
「そうは言っても……」
「だ め で す よ?」
享年15歳 近藤 浩二 ここに眠る。
シャレのつもりがシャレになっていない所に、身体の危機を感じてしまう。
そうしている間にも、手際良く服を脱がされる。
「はーい、ズボンも脱ぎ脱ぎしましょうねー♪」
「うわあああ待ってええええ!!!早紀さん何か変ですよおおおーー!!」
「……その言葉は」
その言葉は……な、何?
「この(ピー)な本を見るような人が言うセリフかしら?」
死刑宣告。
同時に脱がされる。
「い、痛いって早紀さん!そんな乱暴にしないで!」 「……」
ガチャ
「お見舞いに来たよ〜!」
「こんにちは……ら、乱暴?」
あ、あれ〜、美咲と神崎さんが見えるー♪
あはは〜うふふ〜えへへ〜。
「…………あ」
数秒送れて事態の深刻さに気付く。
綺麗なおねーさんに下着一枚にされて、乱暴にしないでとか言っちゃってる俺。
「ご、ごめんなさーーい!!!」
「見るつもりなかったんですーーー!!!」
バタンッ!
ダッダッダッダッ……
一思いに殺してください。
「いいですか?体拭きますね」
この一連の流れに全く動じず、体拭きに突入する早紀さん。
固く絞られたタオルで、体中を満遍なく擦られる。
って、ちょっと!
「いや、そこは自分でも拭けます!大丈夫です!」
「だ・め・で・す!」
「うわぁぁぁ助けてえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
---------しばらくお待ちください---------
「あぁ……俺のピュアな心が……」
「何言ってるんですか。浩二様はもう高校生でしょう」
「それもそうですね……。あはは、あはははははははは!!!」
「あら、元気が出たみたいですね。私も嬉しいです♪」
はは……今日は空がきれいだなぁ……
あはは……
何かを悟った一日だった。
第四話 終