昨日は二人に上半身裸のパンツ丸出しというあられもない姿を見られてしまったため、
神崎さんや美咲にどういう態度で対応していいのか迷ってしまう。
「バカ!不潔!変態!猿の惑星!!」
とまぁそんな言葉で済むレベルであれば一日落ち込んだら回復しそうだが、
恐怖のパイプ椅子みだれ打ちはご免を被りたい。
一秒で楽になってしまう。
いや、一秒で苦しみながら楽になってしまう。
自分で言っておいて意味が分からん。
どうする、どうやって機嫌取ればいいんだ……。
なーんてな。
さっきまでは知らなかったが、なんと今日は嬉しい嬉しい日曜日なのだ。
少しは配慮してくれたのか、スケジュール表には月から土の日程しか書かれていない。
即ち、日曜日=休みという寸法ですよ奥さん。
日曜日は、窮地から救い出してくれたのである。
その効力と言ったらそれはもう見事なもの。
神によりも、日曜日に仕えるべきだと思ったね。
さて、神崎さんも美咲も、勉強を教えに来ない。
勉強を教えに来ないということは、色々できる。
色々ってば、まぁ……その。ね?
色々。
「さぁてと、やるか……」
鞄に手を突っ込み、(ピー)本を取り出す。
「ふっふっふ……日曜日とは言え俺をフリーにしたのがまずかったな」
別に、誰かを嘲笑っているとかそういう訳ではなく、
自分自身を盛り上げるための演出的に、独り言を言ってみる。
カツン、カツン、カツン、カツン、
……矢先、誰かが来た。
カツン、カツン、カツン、カツン
あぁ、なんだよちくしょう至福の時を邪魔しやがって。
後でヒドイぞ。
最低でもツンデレに関する考察を小一時間聞かせる刑だ。
あのウンザリした顔を見てると少しは気が晴れるからな。
カツン、カツン、……タッタッタッタッ
む、走って来る客は珍しいな。
病院で走る奴なんて、恐らく拓也ぐらいしか居ないだろう。
後で制裁の意味を込めて二、三発蹴ってやる。
タッタッタッタッ
って(ピー)本が出っ放しだ!!!
片付けないと!!
タッタッ……
部屋の前で、足音が止まる。
迫り来る恐怖に慌てすぎて、本を掴みきれずに落としそうになってしまう。
いかん、手が震える。
混乱状態で、鞄の中へと本を放り込む。
つもりが、さっき閉めたために鞄のファスナーが開いていない。
当然、本は鞄をスルーして違う方向へ。
「ああぁぁぁぁなんだってんだよもう!!!」
やってしまった。
ベッドの下に本が潜り込んでしまい、すぐには取れない。
その瞬間、思考と行動が見事に分離し、 頭のネジがバラバラと外れていく音が聞こえた。
「天皇陛下万歳ーーーーー!!!」
ガチャ
神崎さんと、美咲があらわれた。
「……こんにちは」
「…………」
「あ、どうも……」
どうした俺。
さっきまでの威勢はどこにやった。
「…………」
「…………」
「あ、あのさ、今日は何も書かれてなかったけど、なにかするの?」
「…………」
無言。
「何かあったの?」
「…………」
無言。
俺、何かしたんだろうか。
「…………」
無言のまま、神崎さんがベッドの後ろ側へ周る。
「どうしたの?」
……返事は無い。
ガチッ
手に、何か冷たい金属のようなものをあてられる。
「…………」
手錠、だった。
「…………」
「…………」
「…………」
「色々言いたいことがあるんだけど、これはどっから持ってきたの?」
「…………」
「…………」
無言。
そろそろテレパシーな会話も慣れてきた。
「じゃあ、手錠つけてさ、これから何をするの?」
「体拭くね?」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@!?」
「待ってええええ!もう俺立ち直れないよぉぉぉぉぉ!?」
「じゃあ脱がすよ」
「待て!待て!もっと平和的に物事を進めようじゃないか!戦争放棄!戦争放棄!」
手錠を外そうと、手を振り回す。
足をばたつかせる。奇声を上げる。
「むぅ……、綾乃ちゃん足にも」
「了解」
ガチッ
両手両足拘束されてしまった。
念のため、暴れまわってみる。
全身のバネを駆使して、波のようにっ!
ガチャガチャ
空しい音だけが響いた。
はっ、ははっ、はははははははははははは!!
「美咲、神崎さん、もっと方法はあるはずだ!てか何がしたい!」
「じゃあいくね」
「どうしてだ!君たちをそこまで駆り立てた物は何だ!」
あぁ、もうだめだ、この手錠がどうやら本物らしく、外れる気配を見せない。
拓也とか助けてくれないかなぁ。
「こら、暴れないの」
神崎さんが学校指定のカバンからロープを取り出し、わざわざ俺の胴体をベッドに縛り付けている。
何かアレ的な展開を期待していいですか?
ムチとか蝋燭を取り出すのを期待していいですか?
「あの、一応言っておくけど、俺全身ガタガタの重病人ですよ?」
無言。
突然扉が開いて、「よう浩二、例の本買ってきたぜ!」
なんてイベントも起こらず、無情にも準備は着々と進む。
早紀さんでも良いから……助けてぇ〜……。
--------諸事情により省略--------
「え……、あう……」
拭いてる。
美咲が、目を逸らしながら拭いてる。
何を拭いてるかは、サーバー規約の諸事情により言えない。
神崎さんはというと、
「…………」
何やら視線が一点に集中しているんですが。
「神崎さん」
「…………」
「神崎さん」
「…………」
-------諸事情により省略--------
「……お、終わったよ」
「これ外すね……」
ガチャリという音と共に、手錠が外された。
「ご、ごめんね、やりすぎちゃった……」
「私も……ごめんなさい……」
君達セクハラ。
俺が訴えたら勝てそうなレベルのセクハラ。
流石の開き直り形態な俺も、これにはかなりのダメージを受けた。
むしろそれ以上にかなりの興ふnいやなんでもない失礼。
「今度、拓也が来た時のネタになりそうだ」
負け惜しみに、ポツっと一言。
「お願い!無かったことにして!言わないで!!」
「悪かったと思ってるから!!」
おお、動揺してる。
悪あがきが思いのほか効いたようで、二人の態度が豹変した。
「今度、おいしいケーキ買って来てあげるから!」
……ほう。
おいしいケーキとはまたありがちだが……そそられる……。
あ、そうだ。
なんでこんな簡単なこと思いつかなかったんだろう。
目には目を、歯には歯を作戦開始。
「じゃあさ……俺が体拭き返しても別におかしくはないよね」
変態?犯罪者?
何を今更。
もう早熟の果実は目の前ですよ。
「え、やだよ……」
「それはちょっと……」
当然と言えば当然の反応が返ってきた。
けれど、このままでは納得がいかない。何とかしてやりたい。
「お嬢ちゃんたちそれはないんじゃないかい?俺は人体実験の犠牲になったんだ。
それなのに君たちは見返りの一つもなし?おかしいでしょ」
人体実験という表現はこれ以上ないと言うまでにピッタリだと思うのだが。
「あ、そろそろ時間だから帰るねー……あはは、じゃあ〜」
タッタッタッ……
俺が何だかんだする前に、帰っていく美咲。
……そうだな、こんなの聞いた俺が馬鹿だったよ。
作戦終了。
ハンムラビ法典、役に立たず。
美咲の言うとおり、日も沈んで真っ暗な時間になっていた。
時計を見ると、午後8時を若干過ぎた所。
「暗くなってるし、神崎さんも帰ったほうがいいよ」
「えーと……でも……あの……」
何なんだ、このどちらともつかない反応は。
無意識に、思いついた事を口に出す。
「そんなんだからこの間……」
そこまで言い掛けて、自分の不用意な発言を飲み込んだ。
まずい、お願いだ聞き流してくれ。
「……ごめんなさい」
……伝わってしまった。
「そうよね、助けられなかった私に反論する資格なんてないよね……」
完全に、失言だった。
神崎さんの態度が、目に見えて変わっていくのが分かる。
やばい。
「ごめん、そんなつもりはなかったんだ……」
「…………」
「…………」
やってしまった。
何やってるんだよ俺。
バカ。マジでバカ。
「……」
「……じゃあ」
突然、神崎さんが立ち上がる。
「……じゃあ、お願いするよ」
何を?という疑問は、すぐに消え去った。
「え、ちょっと神崎さん……」
神崎さんが、服を脱ぎだした。
「や、やめてよ……」
静止の声にも耳を傾けず、制服のボタンを外していく。
拭くと自分で言ったのだが、いざその場面になると動揺してどうしようもなかった。
気付くと神崎さんは制服であるブレザーのボタンを全て外し終わり、中から白のワイシャツが姿を現していた。
俺は、その光景にただ見惚れているだけだった。
少しずつ晒される新雪のように白い肌に、目が釘付けになっていく。
2つ目……3つ目……。
外れるにつれ、淡い期待が心の中に沸き起こってくる。
……そして、全てのボタンを外し終わった。
ボタンのはずされたシャツの隙間からは、可愛らしいピンクのキャミソールが見え隠れしている。
正直もうたまらない。
「……どう…しますか?」
「……そのワイシャツも脱いで」
「うん……」
すんなりと、俺の要求を受け入れてくれた。
お父様お母様、浩二はこんなヘンタイさんに育ってしまいました。
ごめんなさい。
でも無理です止まりません。
「……綺麗」
俺がその綺麗な肌を見つめていると、
神崎さんは恥ずかしそうに顔を背けてしまった。
ワイシャツに手が掛けられていく。
弱味につけこんだ罪悪感を感じるが、そんなのどうだっていい。
今は、この光景を目に焼き付けておきたい。
「ぬ、脱ぎました……」
「あ、う、うん……」
お互いに、どこか遠慮しあっていた。
なんだろう、怖いのだろうか。
それとも、緊張しているのだろうか。
「えっと……じゃあ拭く……ね」
「……」
自分から言った以上、ここでやめるなんて言える訳がない。
そんな思考がどんどん欲望を加速させていく。
水を固く絞って、タオルを神崎さんの二の腕のあたりにあててみた。
「ひゃっ……」
水が冷たかったのか、それとも他に理由があるのか、
神崎さんの身体が一度びくんっと跳ねた。
それでも反抗はしてこないので、ゆっくりと、なぞるように、
二の腕から手先までをタオルで拭いてみる。
「ふ……あ……」
普段と違う、1オクターブ高くなったような声が聞こえてくる。
顔を真っ赤にして俯く神崎さんを見ていると、もっと意地悪をしたくなってきた。
逆の腕も拭き終えた後、神崎さんの後ろに回り込んで、
抱え込むように手を前に持っていく。
そのまま、今度はふとももを拭き始めた。
「ちょ、ちょっと浩二くん……」
「……何?」
「あの……なんていうか……」
無視して、タオル越しにふとももをなぞり続ける。
「ひうっ!……こ、浩二くぅん……」
良心を保っていた諸々のファクターが崩れていくのを、身をもって体感していた。
もう、タオルなんて障害物越しに触れるのがもどかしかった。
「タ、タオル落ちてるってば……」
もちろん、タオルを落としたのはわざと。
その柔らかい足に、もっと生身で近づきたい。
「はあぅっ……」
「……拭いてるだけなのに、どうしてそんな声出すの?」
「え……ごっ、ごめ……ッ!……ごめんなさい……」
「まだ拭き始めたばかりだよ?」
ガチャ
「浩二く〜ん、お見舞いに来たわよ〜!」
一時の夢が、一瞬にして醒めた。
「あ……」
「あ……」
同じ反応を見せる、2人。
誰ですか、お見舞いに来たとか言うあなた。
直後、神崎さんが俺からそそくさと距離を取り、一言。
「同じクラスの人……」
げ。
俺、脱がされたまま半裸。
神崎さん、服脱ぎかけの体拭かれ途中。
これでどう切り抜けろと。
「あ、あはは〜、邪魔するつもりはないから〜」
バタン
バタバタと走り去る音が、夜の静かな病院内に響く。
「…………」
「…………」
終わった。
これは完全に、時の人コース。
「どうしよう……、見られちゃった……」
「……ごめん」
「噂になってたりしたらどうしよう……」
「……ごめん」
ひたすらに謝り続ける。
謝っても状況は変わらないが、今の俺にはそれしかできなかった。
「……ひっく」
ふと横を見ると、顔を手で覆って泣き出している神崎さんの姿。
「わがまま言ってばかりでごめんなさい……」
「……ごめん」
「…………」
「…………」
「今日はこれで帰ります……」
「うん……」
ボタンを掛け直し、俯きながら制服を上から羽織る。
何か声を掛けるべきなんだろうけれど……。
ガチャ
逆に傷つけてしまうのが怖かった。
バタン
「はぁ……」
「明日会ったら何話せばいいんだろう……」
窓から空を見上げてみても、何度も深呼吸をしてみても、
まるで答えは見つからない。
何ともスッキリしない一日だった。
第五話 終