「どうして転校すんの黙ってたんだよバカ!」
閑静な住宅街の一角、桜庭公園にそのけたたましい声は鳴り響いた。
「ごめんな……」
「ごめんじゃねえよ!どうしてだ!どうして今まで黙ってた!」
啓太に向かって半狂乱状態で叫び声を上げ続ける康介。
「テストも近かったし、お前はもうすぐ部活で大会があるから……」
「……」
康介は唖然としていた。
啓太がそれだけの理由で遠慮していた事に。
「ふざけんじゃねえ!!」
衝動的に啓太の胸ぐらを掴み、無理矢理に視線を合わせる。
「どうしてそんな事で知らせなかった!バレないと思ってたのか!!」
「……ごめん」
「ごめんじゃねえっつってんだよ!」
「……ごめん」
「……」
「……」
機械のように同じ言葉しか言わない啓太に、康介は苛立ちを感じていた。
「どうして……」
「……ごめん」
それきり、会話が途切れる。
康介が何を言っても、啓太には無駄だと悟ったからだ。
無言のまま、たっぷり30分は経とうかとしていた頃、おもむろに啓太が口を開く。
「お前…今日誕生日だろ」
「…ああ」
「これやるよ」
そう言い放つと、啓太はポケットから見慣れた物を取り出した。
「これってお前のNintendoDSじゃ……」
「あぁ、おまえが前から欲しいって言ってた物だ」
「俺だと思って持っててくれ…」
「……」
啓太は何かとNintendoDSを持ち歩いては事あるごとに「お前も買えよ、人生変わるから」
などと半ば宗教勧誘の域に達するような勧誘行為をしていた。
康介は、まさかその啓太が、大事にしているNintendoDSをくれるなどとは思いもしていなかったのだ。
「お前これいいのかよ……」
「……」
康介は、困惑した。
これを貰ってしまって良いのだろうか。
もしや、黙っていた事の埋め合わせなのではないのだろうか。
そんな疑念が、心の中に渦巻く。
「あ、そうだ」
ふと、何かを思い立ったのか、康介は公園の出口に向かって走り出す。
「待ってろよ!5分で戻ってくるから待ってろよ!!」
「あ、ちょ、ちょっと康介!」
「待ってろ……待ってろよ……!」
* * * * *
「はぁ……はぁ……これやるよ!」
「……どうしたんだ……これ」
現状を把握できないのか、しどろもどろになりながら聞き返す啓太。
「あぁ、お前が欲しがってたPSPだ…」
「確かに欲しいとは言ったが…」
「俺だと思って持っててくれないか…」
「……」
少し迷った後、吹っ切れたかのような笑顔で啓太はこう言い返した。
「わかったよ、貰っておく。DS大事にしろよな!!」
「当たり前だ!お前こそPSP壊すんじゃねえぞ!!」
「ははは!どっちがだよ!」
心が通じ合ったと分かったら、もう心配は要らなかった。
話している内に、次々と昔の事が脳裏に蘇る。
運動会で必死になって競争したこと、給食でどっちが早く食べられるか競ったこと。
そんな他愛の無い話をして、楽しい時間を過ごしていた。
が、楽しい時間ほど早く過ぎ去るものであり、気付くと夜も遅くなってしまう。
「…じゃあ暗くなってきたし、そろそろ行くよ」
「わかった…」
「……」
「……」
声が出ない。
幼稚園の頃からの腐れ縁だった友人への、「さよなら」の一言が。
「じゃあな」
「あぁ…」
「うん、じゃあ…」
そう言い放つと、啓太は出口へ向けて歩き出す。
一方の康介は未だにその一言が言えず、ただうな垂れているのみだった。
(今言わないと絶対に後悔する)
何となく雰囲気では感じているものの、実行に移すことが出来ない。
優柔不断な自分を殴り倒してやりたいと心の中では思っているが。
「……じゃないぞ」
「え?」
啓太が、やれやれといった感じで同じセリフを言い直す。
「それあげたんじゃないぞ!貸したんだからな!」
その一言で、喉まで出掛かっていた言葉が自然と出ていた。
「分かってる!いつか絶対返すからな!」
「ああ!!」
「またな!!」
* * * * *
「どうしたの康介…元気無いわね…」
家に帰ってからも元気の無い康介に、母が心配したのか声を掛ける。
「あぁ、ちょっとね……」
「あ、分かった、啓太君のことね…」
「……」
「いや、いいんだ」
「え?」
「あいつはきっとあっちでも上手くやるさ!」
「そうね、啓太君良い子だし、上手くやっていけるわよ」
「それにこのDSがあれば、あいつともいつかまた会える気がするんだ!」
「あらあら、もう元気になったわね」
「あぁ、もうだいじょうぶだよ」
ガラガラ
「ただいまー」
「あ、父さん帰ってきたみたい」
「おかえりなさーい」
「おお康介、今日は誕生日プレゼントにとっておきの物があるぞ!」
「え!何か買ってきたの!?」
「ああ、NintendoDSだ!」
終