あぁ、新しい朝が来た。
絶望の朝だ。
起きると同時に、電線に並んだスズメが一斉に飛び立った。
端っこにいたスズメはよほど慌てたのか、バランスを崩してきりもみ回転で落下していった。
うん、今日も絶好調。
制服に着替え、教科書の詰まったカバンを持って階段を下りていく。
「うわ……きた……」
居間を通り過ぎる時に、ちらっとそんな声が耳をよぎった。
声の主を確認しようと振り向くと、ソファーに座っていた兄が、急に目線をそらす。
(あぁ、兄さんか、仕方ないな)
偶然視界に入ったサンドイッチのいい匂いが、食欲に猛烈な勢いで訴えかける。
多分これを食べたら午前中は空腹を感じずに過ごせるに違いない。
あのサンドイッチを頬張りながら、温かいミルクを飲めたら幸せに違いない。
そう思いながら、僕は家を後にした。
あそこに僕の食べる物はないから。
しばらく平坦な道を歩いていると、近所の人と目が合う。
箒を持っていたので掃除をしていたことは分かったけど、
僕が来たからそれも中断するらしい。
いそいそと家に入って行き、玄関にいる子供に一言。
「いい、お友達が来ても、まだ家の外でちゃダメよ!」
聞こえてるよ。
気にしたってどうにもならないことだし、ご近所さんを無視して学校に向かった。
行く先々で僕のいる方の歩道がすっからかんになっているけど、
気にしたってどうにもならないことだし。
学校の始まる10分前に、ようやく学校に到着する。
途中、教頭先生が前から歩いてきたので挨拶したが、聞こえなかったらしい。
無言で、僕を中心に半径5mの壁があるかのごとく、横に回って通り過ぎていった。
高校だと言うのに、物音一つしない。
そして、僕の目の前には地割れができている。
僕は、その地割れの中を歩く。
それに伴って、地割れはどんどん広がっていく。
僕が昇降口についた頃、その地割れは元に戻り、喧騒を起こし始めた。
寝ているフリをしていた時に偶然聞いたことなのだが、
僕は、透明人間と真逆にとても注目されていることから、
あだ名として「不透明人間」と呼ばれているらしい。
誰とも話していないので真偽のほどは分からないが、
もう少しマシなあだ名をつけて欲しかったと、こっそり思う。
誰ともエンカウントすることなく教室の席に着いた。
しばらくして先生が出席確認を始めたが、
僕の名前が呼ばれることはないので、適当な教科書を眺めて時間が過ぎるのを待つ。
……さて、そろそろ長い一日が始まる。
元気に、静かに、頑張ろう。
第一話 終