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第四話

僕の日常はあっけなく崩壊した。

タイトル:無題
本文 :「メールしましたよ。」

このメールを送信して、そろそろ20分。
相手が見ているのなら、返信があってもおかしくない程度の時間だ。

確証はないが、このメールのやりとりは、僕の存在を更に強くしていくような気がしている。

どこかの魔女が、箒にまたがって空を飛ぶ力を唐突に失ったかのごとく、
この出来事で、僕の「不透明人間」の所以たる力が消失していく。
すなわちそれは「ゴミとして放置される」状態から、
「人間として攻撃を受ける」状態に変わる恐怖を感じていかなければならないことだ。
漫画やアニメのご都合主義とは違い、その力が戻らない可能性だって十分にある。

それなのに、なんて僕は愚かなんだろう。

心の奥底で、不思議な昂りを感じていた。


そのまま、一心にメールが返ってくるのを待ち続けた。
『待つ』という行為さえ、楽しく感じられた。

ブルルル、ブルルル、

待ち始めてすぐ、感覚では5分程度は経った頃、
静やかな部屋内を携帯電話の振動音が支配した。
時刻の確認に、壁に掛けられた時計に目をやると、
意に反してその針は20分も進んでいた。

努めて冷静に携帯電話を開き、メールの内容を確認する。

タイトル:Re:無題
本文 :「どなたですか?」

思わず、「ん?」と独り言を発してしまった。
妙に、引っかかる所があった。

自分で入れておいて、その返信はおかしいだろう。
僕以外の人間が、あの手紙を取っていないかを確認したいのだろうか。
もしや、手紙を入れた本人ではなかったのか。

じゃなかった、今重要になるのはそれじゃあない。
こんな質問はさっさと答えて、送り主が誰なのかを確かめるんだ。

返信の画面を出し、質問の回答を打ち込もうとしたところで、
ふと思うところがあり、手が止まる。
長らく考えてみたものの、それを解決する案が思い浮かばない。

僕の名前を、何と書けばいいのだろう。

クラス内ですら、名前を知っている人は居ないかもしれない。
僕にメールをするくらいだから知っているようにも思えるが。
一か八かで本名を送ってみるか、多少回りくどくなるけれど、
「避けられている」という旨の文章を書けばいいのか、

あぁ、僕は何を悩んでいたんだろう。
いいのがあるじゃないか。
僕を、端的に表した名前が。

タイトル:Re:Re:無題
本文 :「僕は、不透明人間です。」

簡単な内容だった。
相手も、これで分かるに違いないだろう。
手違いで僕の下駄箱に入れてしまったのならそれきり返信は途絶えるし、
万が一、僕で間違いなかったとしても本人確認ができる。
あとは相手の反応を待つだけだ。


それから大体4〜5分後、再び携帯電話が振動した。
壁に掛けられた時計は、体内時計と同じ、5分先を指していた。

タイトル:Re:Re:Re:無題
本文 :「本人みたいで安心しました。靴箱の場所が間違っていないか不安だったので。」

通じた。
けれど、僕が聞きたいのはそうじゃない。
君は、誰なんだ。

タイトル:Re:Re:Re:Re:無題
本文 :「あなたは、誰ですか。」

わからない。
英語の時間、水を掛けてきた子だろうか。
それとも全く関係のない、赤の他人だったりするのだろうか。


この質問を待っていたかのように、すぐさま返信は届いた。
時計を見る時間も惜しんで、本文の理解に臨んだ。

そして僕は、見事に絶句した。


タイトル:Re:Re:Re:Re:Re:無題
本文 :「私は、透明人間です。」

第四話 終


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