| 〜 COLUMN 〜 | |||||||
|
|
|||||||
| BREEDING | |
![]() |
今、多くの内国産サイアーラインが断絶の危機を迎えている。 トウショウボーイ、マルゼンスキー、ハイセイコー、そしてシンザン。 皆、日本の競馬の歴史をつくりあげてきた名馬とその血脈である。早めに何らかの手を打たねば、未来に残さねばならない遺産が永久に消えてしまうことになる。 ここでは、なぜ日本の父系はつながっていきにくいのか、それについて考えてみたい。 |
| SPEED |
まず最初に考えなければいけないのが、種牡馬の「質」についてだろう。 もともと日本の競馬界はステイヤー指向が強かったため、生産の中心はステイヤーにおかれていた。これは導入される輸入種牡馬の傾向についてもいえることで、ステイヤー血統を好んで導入してきたという経緯がある。 加えて日本の生産者の場合、「走る馬」よりも「売れる馬」中心の馬づくりであるため、猫も杓子もといった感じでそのとき最もファッショナブルなサイアー、系統に集中してしまうという傾向が見られる。 皆がおなじような系統を追い求めてしまう、これは否応なしに「インブリード〜近親交配」を招く結果となる。 インブリードは名血の固定には役立つが、しかし結局は血統的発展性を奪うこととなり、活力が衰退する。また長年好んで導入してきたステイヤーの重い傾向も強調・固定されやすくなる。 その結果「本質的なスピード能力」の欠如がおこったのではないだろうか。 Mr.Prospector・Danzigなど、近年一大父系をつくりあげた大種牡馬はいずれもスプリント出身の快速馬だったという興味深い事実がある。 最近でも、Storm Cat・Seeking The Gold・Danehillらが全世界を席巻している。これらはいずれもスプリント出身の種牡馬である。 欧米の馬産家達は完全に、「絶対的かつ本質的なスピード能力」を種牡馬としての適性判断の第一条件にしているように思える。 ではサラブレッドの「スピード能力」とは、具体的にどのようなファクターが関わっているのだろうか。 サラブレッドのスピードの秘密。それは筋繊維にある。 馬に限らず、動物の筋繊維には速筋と遅筋、二種類の筋肉組織があることがわかっている。 持久力を必要とする運動には遅筋繊維が使われ、瞬発力を必要とする運動には速筋繊維が使われるとされている。 サラブレッドの筋繊維は、平均して87:13の割合で速筋が多いことがわかっている。 つまりサラブレッドは本質的にスプリンターなのだ。 本来、馬は野生の草食動物である。 野生において天敵から身を守ってくれるのは自らの能力だけであり、そのために彼らに与えられた能力は「聴力」と「走力」だ。 全方位に動かせる耳から情報を早期に収集し、いかに素早く危険から逃げられるかが、馬にとっての生き残るための本能であり戦いなのだ。 スピードの爆発力が肉食獣より上でなければ、逃げ切ることなど到底出来はしないだろう。 逃げ切れなかった個体は淘汰される。何万年もの昔から、馬はこうして種族維持を果たしてきた。 そうした視点で捉えれば、ステイヤーとは種としての本来あるべき姿から、逸脱した存在であるといってもいいのかもしれない。 故に活力の低下を招くのではないだろうか。 何代にも渡り固有の牝系に蓄積されてきたステイヤーの血が、本質的なスピードを鈍らせ(速筋のパーセンテージが落ちる)、一代や二代は系譜が続いてもそれ以上続かなくなる。 仮定ではあるが、これが問題の一因である可能性を否定できない。 最近の研究で速筋のパーセンテージも後天的に変えられるということがわかったらしいが、問題はそうして変えた速筋が産駒に遺伝するのか、という点だ。 やはり先天的に持つ資質の方が産駒に伝えやすいのではないだろうか。 極限のスピード〜スプリント適性 実はこれこそが日本の競馬界が長年軽視し、最もおろそかにしてきた部分でもある。 スプリントレース等も数こそ増えてはいるが、昔も今も興味の中心は中・長距離である。この傾向に変化が現れない限り今後も問題解決は難しいかもしれない。 ただステイヤー指向が強くなるのは、JRAの番組編成にもその責任がある。 いまも高額賞金レースは中・長距離に集中している。 距離体系の整備は進んだが、賞金などの評価部分でまだ中・長距離に偏重した傾向が見られる。 賞金面で中・長距離に並び、なおかつスプリント・マイル戦線で活躍した馬も正当に年度代表馬に選ばれるようになって(欧州・米国では短距離馬はもとより、二歳馬!も当たり前のように年度代表馬に選ばれる)初めて、日本の距離体系の完成といえるのではないだろうか。 |
| FAMILY'S |
次に考えなくてはいけないのが繁殖牝馬の「質」についてだろう。 遺伝力・繁殖力とでもいうべき要素が確かにあるようで、この能力の鍵を握るのが母系の質にある、というのがプロの一般的見方だ。 かつての日本は、トップレベルの牝系はともかく、それ以外の牝系のレベルはお世辞にも高いとはいえないものだった。 これまで日本において父系がなかなかつながっていかなかった最大の理由は、この牝系の質にあったのではないか。 母系の遺伝力の弱さが父系の継承に悪影響を与えていたのではないか、ということだ。 もちろん現在の日本には、世界の名だたる名牝系が数多く導入されている。 日本の基礎牝系となった小岩井系・下総系と同様、いまや「社台系」といってもいい社台ファームの名牝群を代表に、多くの生産牧場が欧米からの肌馬導入を積極的におこなってきた。 だが、導入された名牝のほとんどは輸入種牡馬と種付けされている、という現実がある。 長いタイムスパンで見れば確実に日本全体の牝系のレベルアップになっているこれらの名牝導入だが、稀少血統の保護・発展においての短期的効果という点では、残念ながらいまのところ大きな効果は望みにくいのが現状だ。 さて、ここで疑問になるのが、なぜ欧州・米国では父系が途切れず継続できるのか、という点だ。日本との違いはいったいどこにあるのだろうか。 簡単である。 欧米では稀少価値のある異流血脈を、名牝系につけたりすることがよくあるからだ。 これは生産者の方で稀少血統の保護・発展と、その配合効果(アウトブリードで活性化を図る)、両方を意識して自らの判断でおこなっているようだ。 これを日本の生産者に期待をしても難しいだろう。 そもそも生産界の慢性的不況から、そんな余裕も生み出せないというのが現状だ。売れそうな馬づくりで精一杯なのだ。 そこで、JRAがその役割を担うのはどうだろうか。 現在力を入れている種牡馬輸入をやめて、予算を牝馬買い付けに回す。 種牡馬ではなく牝馬を輸入するのだ。 名牝系をJRAが買い上げ、日本で稀少血統と交配させ、父系の存続をはかる。 生まれた産駒は市場取引馬、または抽選馬として売却する。 引退後の牝駒はもちろんJRAで引き取り、繁殖入りさせる。 ある程度子が増えたら、売却するか、子分けするかなどして名血を希望する生産者に分け与えていく。 稀少血統の父系の継続と、日本の牝系のレベルアップの両方をはかることができる。 これまでのJRA軽種馬事業は、種牡馬導入がメインで、本格的な意味での繁殖牝馬導入はまだおこなわれていない。 長期的視野に立てば、求められるのはむしろ肌馬導入ではないだろうか。 もちろんJRAの種牡馬事業が果たしてきた役割について、そのすべてを否定する気などない。 特にMark of Distinction・Warningなどの貴重な異流血脈導入は、日本の馬産の将来を見据えれば画期的な導入だったと思うし、実際ウォーニングは結果をだしている。 しかし種牡馬事業に関してはもうすでにその役割を終えているのではないだろうか。 種牡馬の墓場などと、ありがたくない称号を授かってしまった日本の生産界だが、輸入した血脈を自らの手で発展・育成できなければ、この悪評を払拭することができないばかりか、結局は日本で生産をおこなっている意味がない、ということになる。 競走馬を輸入し続けなければ競馬ができない香港・シンガポールと、種牡馬を輸入し続けなければ競馬ができない日本。 実のところ両者に違いなどない。 つまり両者とも、実体のない欧米の影にすぎないということだ。 永久に種牡馬を輸入し続けなければ日本の競馬は存続できないのだろうか。 自立できなければ未来などありはしない。 新たな血脈の導入よりも、すでにある血脈の保護・発展の必要性を訴えたいのである。 |
| INBREED | |||||||||||||||
「世界に父系はノーザンダンサー系とそれ以外しかない。」 20世紀を支配した大種牡馬Northern Dancer。 いまや4代目・5代目種牡馬もスタッドインし始めている世界最大の父系の祖だが、その御大Northern Dancerクロス馬に成功例がほとんど見られないという、意外な結果がでている。 Nearco・Nasrullah・Hyperion・Native Dancer・Mahmoudなど、名だたる大種牡馬の多くは、代を経た後インブリードされることで再び強い影響力を発揮している。 だが、誰もが認める世界最高の大種牡馬Northern Dancerに、この傾向がみられない。 数少ない成功例では、アメリカでナスルエルアラブなどがGT勝ちをおさめている他、数頭GTホースがいるようで、日本でも知ってる限りでは、フサイチコンコルド・シンコウキング・メジロブライトがいる程度だ。 これほど世界中に広まったこの父系の始祖である名馬のインブリード馬に、大物がほとんどでてないのは不思議といえば不思議な話だ。 実際に走っているこのクロス馬をみると、産駒はスピードよりもパワーに秀でたタイプというケースが目立つ。 Northern Dancerクロス馬にスピードがないといったらウソのように聞こえるだろうが、抜けた大物は前出の3頭程度で、残りはほとんど下級条件のまま消えていっている。 実際、シンコウキングなどはスプリント高松宮杯を勝ってはいるが、これは力のいる馬場になったことが大きな勝因といわれており、まさしくこのクロスの傾向そのもののパワータイプの馬だった。 唯一の例外はフサイチコンコルドくらいなものか。 このクロス馬の多くがズブイ傾向を示している中で、フサイチコンコルドだけは父であるCaerleonの特性の方が強くでていたため、例外的な成功を収めることができたようだ。 Northern Dancerの産駒は、Danzig、ノーザンテースト、Lyphard、Nureyev、をはじめとするスプリンター・マイラータイプと、Nijinsky、Sadler's Wells、などのステイヤータイプとに、はっきり傾向が分かれるのだが、おもしろいのはスプリンター・マイラータイプの産駒も、種牡馬入りすると自身の現役時とは違うステイヤータイプの子をよくだすようになる、ということだ。 こうした事実から意外な仮説が導きだされはしないだろうか。 つまり、Northern Dancer自身が持つ本質的な特性は、パワーとスタミナにあったのではないか、という仮定だ。
Northern Dancerの血統構成はNearco x Hyperion、Native Dancer x Mahmoudだが、このうちHyperion以外はすべてスピード血脈で構成されている。 特にNearcoとNative Dancerは、近代競馬の二大血脈といってもいい系統で、これはいまやほとんどの馬に内包されている。 この系統が、母系の長所をよく引き出すというのは定評あるところだが、配合相手次第でスプリンターもマイラーも出せる柔軟性は、この3本のスピード血脈とのクロス・ニックスに負うところが大きいのだろう。 しかし同系配合となったときは、上記4本のラインの影響よりNorthern Dancer自身の影響力が強まり、スピードよりもパワーが前面に押し出されてくる・・・・。 この仮定に立ったとき初めて、Northern Dancerクロス馬の失敗が理解できるようになる。 誰もが成功間違いなしと疑わなかったNorthern Dancerほどの名馬のインブリードだが、結局「配合」の難しさの一端を見せる意外な結果となっている。 さて、21世紀の日本競馬のスタンダードとなりうるのが、サンデーサイレンスのインブリードである。 「日本に父系はターントゥ系とそれ以外しかいない。」 いまの日本の生産界はこんな表現がぴったりくる。 今後、否応なしにこのインブリードの取捨選択を迫られるケースがふえるだろう。 その結果が、日本の馬産の未来を大きく左右することになりうる。 果たしてそのときサンデーサイレンスクロスが成功するのかしないのか、いまから興味は尽きない。 |
| BACK |